超虫ハエ・ブンブンさんは殺意の波動なんだよ~ですわ♡
そして、翌日よくじーつ。オアシスの街の入り口にて。
「ふああっ? パピヨン様はご一緒に来ていただけないのですか?」
「え~? なんでなの~?」
砂漠の東に日が昇り、早朝から出立をしようとしていたぽっちゃり姫様たち。
ところが、魔導師『蝶々夫人』が旅に同行してくれないとのことです。
蝶々夫人は『ターメリックの力』を飲みながら、アイタタタ……と頭を抱えます。
「すまないね、頭がガンガンするんでな。というより、何であんたたちはケロッとしてるんだ?」
昨日、キャロライン姫と真白ちゃんは、夫人からすすめられた『甘いやつ』をがぶがぶ飲んでぐでんぐでんになっていましたが、一晩寝たらスッキリさっぱりしています。
熟女の蝶々夫人は『これが若さか……』と痛感しました。
「その代わりと言ってはなんだが、これを持っていきな」
「「これは……?」」
2人に手渡されたのは、先端と柄の部分にスプーンとフォークが上下に一体化したような、1本の杖あるいは武具。
金属製の重厚な見た目とは裏腹に、うまい棒のように軽くて片手でも持てます。
「神の金属と呼ばれている『オリゴハルコン』製の道具さ。どう使うものかは分からないがな」
「むむう、穴を掘るスコップのようにも、三又槍のような刺突武器のようにも見えるであります」
「隊長! 『マゴの手』の可能性も否定できないであります!」
黒アリの騎士らしく、武具の使い道に頭を巡らせるアナ隊長たち。
実はこのアイテム、天を貫き大地をえぐり、世界をも滅ぼす力を持った『ストームプリンガー』と呼ばれる魔槍なのですが。
「これさえあれば、どんな大きなプリンもケーキも一口だね~」
「うふふ。えぇ、そうですねぇ」
キャロ白コンビは平和的にしか活用するつもりがないようで、山のようなスイーツを食べるところを想像しながら、てれれれーとスプーン&フォークを掲げました。
「ほらほら、あんたたちとっとと行きな。あたしは早く家に帰って寝たいんだよ」
蝶々夫人に急かされて、黒アリ騎士隊『オールブラックス』は一列に横隊すると、キャロライン姫は彼らにハチミツを放ち、考えたばかりの必殺技名を叫びます。
「『フラッシュハニー』ぃぃ!」
バシュバシュとハチミツを口で受けた黒アリたちは、再びムキムキッとパンプアップを果たし、ヤル気満々の笑顔で騎馬戦の騎馬を組みました。
「それじゃ~、わたしたちはもう行くね~」
「パピヨン様、大変お世話になりました」
「ああ、達者でやんなよ」
ぽっちゃり姫様ご一行は、蝶々夫人とオアシスの街に別れを告げると、砂漠の海へ時速40kmで走り去って行きました。
1人残された蝶々夫人は、ふうとため息をつくと。
「ひーふーみーよー……。強そうなのが100匹はいるかい?」
背後からビーッ、ビーッと羽の音。
後ろを振り返れば、兵隊バチの一個大隊が蝶々夫人を取り囲んでいます。
「てふてふてふ。昨日の夜から偵察がチョロチョロしてたから、そろそろ来る頃かと思ってたが、一足遅かったようだね」
ニヤリと笑い、蝶々夫人は細腕でキセルを構えると、先端を魔力の光で煌めかせます。
「あの娘らは精霊界の希望さ。後は追わせないよ!」
*
砂漠を抜けたキャロライン姫と真白ちゃんたちは、快調に旅を続け、丘陵地帯に入ります。
そこは次の目的地、鬼の武道家ハエ・ブンブンが住まう『カカオ活火山』。
ゴツゴツとした赤茶けた岩山の道。頂上には噴煙が上がっているのが見え、なぜか甘くて芳ばしい薫りがただよって来ます。
「いや~、火山だからなんだか暑いね~」
「あ、少しお待ちいただけまして?」
キャロライン姫が騎馬戦の騎馬からぽよんと降りると、いきなり近くの岩にかぶりつきました。
「にがいですわぁー!」
「キャロちゃん、なにやってんの~?」
真白ちゃんも、ためしに岩のかけらを口に入れますと。
「うや~、にがいね~。これは99%カカオだね~」
「美味しそうな匂いがしましたので、チョコレートだと思いましたのに……」
おそらくこの山は、その名のとおりカカオの塊でできているのでしょう。
甘いチョコレートは、すりつぶしたカカオに砂糖などを加えて食べやすいようにしてあるもので、実はカカオ単体ではとてつもなく苦いものなのです。
本当はここも甘い山だったのかな? と思いつつ、ぽっちゃり姫様たちは再び山を登ります。
足場の悪い岩肌や急坂が続きますが、力自慢の黒アリの騎馬は4WDのような走りでペースがまったく落ちません。
そうこうしながら一行は、カカオ活火山の頂上近くに到達しました。
「蝶々夫人から聞いた話では、ハエ・ブンブン殿はこの辺りにおられるはずでありますが……」
「こ~んにちは~」
「ハエ・ブンブン様は、おいででいらっしゃいますかぁ?」
あいさつの声が空しく響き、シーンと静まりかえります。
突然。
ドッゴァーッ!!
『!!』
山に衝撃が走り、斜面から無数の大岩が降って来ます。
危ないっ!
すかさず、真白ちゃんは昨日の夜に技名を考えた必殺技を放ちます。
「『スイーツクリエイト』~、クレープ~!」
すると、頭上に巨大なクレープの生地が現れ、岩石をぼふんぼふんっと受け止めます。
危うく難を逃れた、ぽっちゃり姫様たち。
「みんな~、だいじょうぶ~?」
「さすが真白様。見事な判断でこざいましたわぁ」
「そ~お? てへへ~」
「おおう! このクレープは美味であります!」
『んほぉぉぉ!』
オールブラックスは、抜け目無く真白ちゃんのクレープにかじりつきます。
しかし、その時。
「ソレヲ……、ヨコセ……!」
『!!』
山の裏側から緑色のメタリックなボディを輝かせ、一軒家くらいの大きさのハエがノソッと現れました。
おそらく、彼が武道家ハエ・ブンブンなのでしょう。ですが、明らかに様子が変です。
「甘ミ……、甘ミ……」
「な、なんか、まともに話が出来る虫じゃなさそうだね~?」
「こ、こわいですわ……」
「ヨコセーーーッ!!」
『うわーーーっ!!』
ヴゥン! と、その巨体からは想像できないスピードで襲いくるハエ。
全員がその場から退避すると、ハエはまっしぐらにクレープに飛びつきます。
「甘ミ……、甘ミ……」
ベチャベチャとクレープにむしゃぶりつくハエ。爛々と赤く輝く複眼。
その様子は狂気に満ち、その身体からは邪悪なオーラが染み出しています。
「『低血糖症』であります……」
「えっ? アナ隊長様、今なんと?」
「意識の混濁、抑えられない破壊衝動。おそらくハエ・ブンブン殿は低血糖症にかかっておられる様子であります!」
「え~? 低血糖症って、あんな感じだっけ~?」
「ガアアアアアアアアアアーーーーーッ!!」
一声雄叫びを上げてハエ・ブンブンは岩山をぶん殴り、ドヒュンドヒュンと岩石がプリンセスたちに降りかかります。
再び真白ちゃんはクレープで岩を防ぎましたが、ハエの姿を見失います。
ヴゥン!
「後ろでありますっ!」
ガオンッ!
一瞬で背後に回ったハエ・ブンブンの体当たりで、数名の黒アリ騎士たちが吹き飛びました。
「速いっ!」
「キャロライン様、真白様! ご無事ですかっ!?」
「わたしたちは大丈夫~」
「皆様、今お手当てをしますわっ!」
キャロ姫様は、ピクピクしているアリたちに回復技をかけようとします。
が。
「ハ・エ・ハ・エ……、波ーーーーーッ!!」
ハエ・ブンブンが放つ極太の蒼白い気功波が、キャロライン姫を飲み込みます!
「!!」
「キャロちゃ~ん!」
「いかんっ! マッスル・シールド!」
アナ隊長は素早く姫の前に立ちふさがると、バキャキャッと全身の筋肉を膨れ上がらせ、肉体の壁と化します。
ドオンッ!
「ぐうっ!」
なんとか持ちこたえたものの、プスプスと煙を上げながらばたりと倒れ伏すアナ隊長。
「アナ隊長様、早くお手当てを!」
「いえ……、自分は大丈夫であります。それよりも部下たちの方を……」
「我、武神、ハエ・ブンブン也……」
ハエ・ブンブンは赤黒いオーラを撒いて、空中をホバリングしながら一行を見下ろします。
治療を受け、スックと立ち上がるアナ隊長をはじめとするオールブラックス。
さらにキャロライン姫はハチミツをハエ・ブンブンに放ちますが、ヴン、ヴゥン! と、影も残さぬ速さであっさりとかわされてしまいます。
「あの巨体なのに、あのスピード……であります」
「う~ん、ハエさんに正気に戻ってもらわないと、お話にならないね~」
「ハエ様の低血糖症を治して差し上げたいのですが……。もう少しだけでもハエ様の動きを遅くする事ができませんの?」
「うむむ、ハエ・ブンブン殿に限らず、我々は寒い所では動きが鈍くなるのですが、ここは火山の熱で絶好のコンディションなのであります」
「ん~! 今の話で、ぴ~んと来たよ~」
すると、真白ちゃんはキャロライン姫に耳打ちを始めます。
「ゴニョゴニョ。虫さんは、寒いのがアレだから~……」
「まさか、そんなものが? で、では、わたくしはこうこうこうで……、ゴニョゴニョゴニョ」
作戦が決まり、きゃーっと二人は盛り上がります。
さっそく2人は実行に移すべく、ハエ・ブンブンに向かいました。
キャロライン姫は琥珀色の髪をなびかせながら、広げた両手に輝きを湛え。
「右手にハチミツ、左手はメープルシロップ……。奥義『ツイン・フラッシュハニー』っ!」
キャロライン姫が大量の蜜をハエ・ブンブンの足元に落とすと、地面から何本もの大木が生えて来ます。
『フラッシュハニー』は体力全回復、全状態異常回復、全ステータスを底上げする効果があるチート技。
その効果を大地に眠る植物の種に与え、どおんっ! どおんっ! どおんっ! と爆発的に生長した大木が緑金色の身体を捕らえます。
ですが。
「グッ……、グオオオオオーーーーーンッ!」
ハエの筋力は凄まじく、ミシッミシッ、ベキベキベキッと大樹をへし折り再び動き出そうとします。
「真白様、今のうちですわ!」
「『スイーツクリエイト』~、アイスクリーム~!」
頭のお団子を弾ませて真白ちゃんが技を放つと、どがどがどがーっ! と空から3つの巨大なアイスクリームの球が降り注ぎます。
サンジューイチのトリプルのように積み重なったアイスに潰されたハエ・ブンブンは、「キュウ……」と気を失いました。
『やったーーーっ!!』
つづくよ~ですわ♡