空賊ミツバチパッチは極悪なんだよ~ですわ♡
一方、そのころそのこーろ。
『精霊界』の山々すら見下ろす空高く、都市ほどの規模があるミツバチの巣が浮いています。
その名も、空中要塞『ハニカムレディー』。
薄い色の青空に白銀の機体を輝かせていますが、この世界は中世ヨーロッパ程度の技術力しかないので、とんでもないオーバーテクノロジーです。
ス◯ーウォーズ感あふれる中枢部に、頭以外を蜜ロウで固められた若者が2人。ジョージ王子とあおいくんが、床の上に転がされています。
「オーッホッホッホッホッホッ! 活きの良いオスが2匹も手に入ったぞよ。さあ、さっそく『子種』を出してたもれ」
「「出すかっ!!」」
兵隊バチたちが周囲を取り巻く中、片眼に黒いアイパッチをした『女王パッチ』が玉座で高笑いをしていました。
「そなたらをここに連れてきたのは、今が妾の発情期まっ盛りでのう。妾はどんな種族とも繁殖行為ができるので、オスはもっぱら現地調達なのじゃ。くんかくんか」
「こらっ! どこの臭いをかいでんだ!」
女王パッチは玉座から下りると、あおいくんの股間の辺りに触覚(臭覚器官)を近づけて、ワインソムリエのようにうっとりとした顔をします。
「うーん、エネルギーに満ちあふれた『良い童貞』の香りがするのう。16~17年モノのヴィンテージってとこじゃな」
「くそっ、足が動けば蹴ってやりてえ……!」
オーッホッホッと、嗤う女王パッチを睨みつけるあおいくん。
ジョージ王子は辺りをキョロキョロと見回しながら。
「一体、ここは何なのだ? 鎧のような金属の壁や床といい、空を飛ぶ建物などありえないぞ!」
王子のいる世界の技術レベルは精霊界と同じくらいなので、空中要塞の存在は想像をはるかに超えているのでしょう。
「ホッホッホッ、『蜂の巣母艦』の正体は巨大宇宙船。そして、妾らが空賊『ミツバチパッチ』は数々の星々を滅ぼして来た宇宙生命体なのじゃ。衝撃の事実ッ!」
「宇宙、だと……?」
「自分で衝撃いうなよ」
急にSF展開になったこの物語。
呆然とする2人を、リアル蜂顔なので良く分かりませんが、ハチたちはニヤニヤと見下ろしています。
「この星は、程なく枯れ果てる事になるじゃろう。命が惜しければ、素直に妾とまぐわうが良い」
「御免こうむる!」
「何が悲しくて、虫相手に童貞捨てなきゃなんないんだよ!」
怒鳴りかける2人に兵隊バチたちは鋭く槍を構えますが、女王はよいよいと余裕を見せます。
「ホッホッホッ、イキがっていられるのも今の内じゃ。男たちよギンギンになりたもれ、『女王物質』っ!」
女王からピンク色のオーラが放たれ、王室の中に充満します。
兵隊バチたちはメスなのに股間を押さえて前屈みになりますが、なぜか王子とあおいくんはスンとしています。
「おや? 妾のフェロモンを食らってなぜ勃起たぬ?」
「「虫に勃つ訳があるか!!」」
「ほっほーう。さては、そなたらには想い人でもおるのかのう?」
「当たり前だ! 私には心に決めた婚約者がいる。貴様ごときに、反応などする筈も無い!」
「あ、いや、真白はただの幼なじみだから、別にそんなんじゃ、ねーぞ?」
「ホッホッホッ、甘酸っぱい反応じゃのう。妾はそういう『甘み』も大好物じゃぞよ」
そう言って女王が兵隊たちに目配せすると、スクリーンも何も無い空間にディスプレイが映し出されます。
「絵が、浮いているだと?」
「これは……、温泉の映像か?」
2人の反応を見て、女王は一際高く笑い声を上げます。
「オーッホッホッ! ならば良いモノを見せてやろう。放っておった密偵部隊からの映像じゃ、存分に勃たせるが良いわ!」
*
「まさかこちらの世界で湯浴みができるとは、思いもよりませんでしたわぁ」
「いや~、お風呂の文化は異世界共通だね~」
ぽっちゃり姫様ご一行は旅の疲れをいやすため、『蝶々夫人』自慢の高級クラブ『パピリオン』の温泉に入ろうと脱衣場に来ています。
ですが、いきなり難題が。ドレスの脱ぎ方が分かりません。
「キャロちゃん、これどうやって脱ぐの~?」
「えぇっと、わたくしも侍女に脱がせてもらってましたので、皆目見当も……」
キャロライン姫は何もできずに突っ立ったまま、真白ちゃんは背中に手を回そうとしてぴょんぴょんします。すると。
「おまかせください! 総員、お二方の入浴の準備をお手伝いしろ!」
『ラジャッ!』
アナ・グランデ隊長(※メス)率いる、黒アリ騎士隊『オールブラックス』(※全員メス)がポージングを取りながら現れ、2人のドレスを脱がせにかかります。
「隊長、ヒモの結び目が堅いであります!」
「引きちぎれ!」
『ラジャッ!』
「「やめてぇ~!」」
悪戦苦闘しながらも、2人はようやくドレスを脱ぐ事ができました。
真白ちゃんが、浴場の引き戸をガラガラーと開けます。
「おお~」
そこは、石造りの露天風呂。床板は石板、浴槽は岩で組まれ、鹿威しまで設置された純和風の構え。
「これは、風情があるであります」
「あれ? キャロちゃんどうしたの~」
なぜかキャロライン姫様はまっ赤になりながら、扉の影に隠れて顔だけひょっこり出しています。
「お、お外にお風呂なのですか? それに、湯浴み着がありませんの……」
キャロライン姫の世界にも温泉はあるのですが、安全面の配慮から簡易的な建物を組むなどしており、室内にしかありません。
そして、姫はやんごとなきお方。ふだんから湯浴みをする時は肌をさらさぬよう湯浴み着をまとわれます。
「キャロちゃん、露天風呂はじめてなの~?」
「風呂に入るのに服ですか? はっはっはっ、ご冗談をであります」
「ええっ?」
すっぽんぽんの真白ちゃんは、堂々たるジョジョ立ちでカスタードプリンのような肢体を見せつけながら。
「わたしたちの世界では外のお風呂はいっぱいあるし、入る時には服を着ないんだよ~。『裸のつき合い』って言葉もあるくらいだし~」
「そ、そうなのですか?」
オールブラックスはムキムキ、メキキッと黒光りする筋肉を誇示しつつ。
「精霊界も同じく! というより、そもそも自分たちは服など着たことが無いのであります」
「「ああぁ~」」
2人は、そんな虫たちにドレスを脱ぐのを手伝わせて申し訳なかったなあと思いました。
郷に入ってはなんとやら。納得したキャロライン姫は、ミルクプリンのような体を両手で隠し、もじもじしながら浴室に現れます。
流し場で汗を流した2人は、ぽよーんぽよーん、どぼーんどぼーんと仲良く湯船に飛び込みました。
「うひゃ~、気持ちいいね~」
「えぇ……、本当に……」
温泉から眺める景色は夕陽が照らす、海のように波打つ黄金の砂漠。
キャロライン姫と真白ちゃんは、まふふぅ~んと顔がとろけます。
オールブラックスは流し場で筋トレなどのトレーニングをしています。常日頃の訓練がどーたらこーたらだそうです。
ですが、ふとキャロライン姫は物憂げな表情を見せます。
「でも……、美味しいお菓子を食べたり、温泉に入ったり。わたくしたちだけがこんな良い思いをしていいものでしょうか? 王子様たちはご無事なのでしょうか……」
やはり気になるのは、愛する王子の安否。不安に心を締め付けられそうになるキャロライン姫に真白ちゃんは。
「たぶん、大丈夫だよ~。あおいちゃんがついてるし。怒らせたら手が付けられないから、むしろミツバチパッチの方がボコボコにされてないか心配だよ~」
それを聞いて、ぷっとキャロ姫様は吹き出します。
「うふふ、気持ちがすっと落ち着きましたわ。ありがとうございます。わたくし、真白様と知り合えて本当に良かったですわぁ」
「わたしも、キャロちゃんみたいに波長が合う人に会えてうれしいよ~」
うふふふ、あはは~と2人はお風呂で友情を温めます。
トレーニングが終わったオールブラックスは、さーてそろそろと『ハカ』の練習を始めます。
常日頃の鍛練でキレのあるハカが『カ、マテ! カ、オラ!』だそうです。
「おっ、盛り上がってるねえ」
そこへ、蝶々夫人も浴場に現れました。
夫人は熟女とは思えないしなやかな身体(※アゲハ蝶)に掛け湯をし、ぽっちゃり姫たちと一緒に湯に浸かります。
「ウチの温泉はどうだい、最高だろう?」
「えぇ……、お外のお風呂は初めてだったのですが、解放感があって、眺めもとっても素晴らしいですわぁ」
「パピヨンさんは、何飲んでるの~?」
真白ちゃんが、蝶々夫人が持参した飲み物に興味をしめすと、夫人はニヤリと笑い。
「これは、砂糖で作った飲み物さ。ミツバチパッチが来る前に仕込んでたモノだから、コクがあってとろっとしてて甘いぞ。あんたたちも飲るかい?」
「「いただきまぁぁ~す!」」
10分後。
「あれぇ、なんれ真白様が2人もいらっしゃるのれすかぁ」
「す~んごい、ふわふわ~っとするね~~」
実は、蝶々夫人が飲んでいたのは、サトウキビと米麹の絞り汁を醸造したもの。
キャロライン姫と真白ちゃんはがぶがぶ飲んでしまい、すっかりへべれけでクダを巻いています。
「ほれにひても、真白様は本当にあおい様を信頼されていらっしゃるのれすね。とっても仲がよろひくて良い感じれすこと」
「ええ~、そ~かな~~? あおいちゃんはただの幼なじみだよ~~」
と、真白ちゃんはてれてれします。
「ほれにくらべて、わたくしの王子さまは厳ひいのれす。床に落ちたお菓子は食べちゃいけないとうるしゃいのれす。ふーふーすれば食べられるのにれす」
「そ~なの~? わたしの世界には~、『3秒ルール』ってのがあって~、3秒以内に拾ったら食べても大丈夫なんだよ~~」
「えええぇ、そうなのれすかあぁ。うらやまひいのれす。3秒ルール……。わたくしも真白様の世界に行ってみたいのれす」
「でも~、この前『3時間ルール』を適用しようとしたら~、あおいちゃんにめちゃくちゃ怒られたんだよ~~」
真白ちゃんのエピソードを聞いて、キャロライン姫はけらけらけらけら笑います。
「でも~、王子様ってすっごいイケメンだね~。なんか、知的で『王子!』って感じ~~」
「ほうなのれす。王子さまは、わたくしが知らない事をなんでもよく知っていておられて、とってもお偉いのれす。わたくしも、王子さまにふさわひいお妃になれるよう、がんばるのれす」
キャロライン姫はお腹のお肉をぽよぽよつまみながら、決意を告げます。
「れも、ほれを言ったら、あおいさまもりりしくて頼りになるお方なのれす。わたくしの国に来たら、たぶんモテモテなのれすよ」
「ええ~、そ~なの~? あ~でも~、頼りにはしちゃってるかな~? なんやかんやで優しいもんな~~?」
「王子さまもなんやかんやで、とってもお優しいのれす」
「なんだい、さっきから聞いてりゃ。あんたら甘々じゃないか」
「「うやあぁ~、えへへぇ~」」
蝶々夫人にちゃかされて、2人はへにゃへにゃとだらしない笑顔を見せます。
そのあとは、真白様のお胸は大きいぃぃとか、キャロちゃんのお肌は白くてすべすべ~~とか、2人はお互いの身体を触りあってキャッキャウフフしました。
*
一方、そのころそのこーろ、空中要塞ハニカムレディー。
王子様とあおいくんが囚われている中枢部では、ドローン映像のような空撮で、キャロ白コンビのあられもない姿がディスプレイに映し出されています。
「ほっほう、あの2人すっかり出来上がっておるではないか。よいよい。さあ、愛しき女子の裸を見てムラムラしたであろう! さっそく、妾と一発……!」
女王パッチが振り向くと、そこは血の海。
王子様とあおいくんが鼻血を出してぶっ倒れています。
女王の目論見とは裏腹に2人は完全に気を失ってしまい、彼らの股間はヴィンヴィンテージになりませんでした。
「ホッホッホッ、どうやら童の貞には刺激が強すぎたかのう? 愛い奴らじゃ。オーッホッホッホッ!!」
精霊界の空高く、女王パッチの嗤い声が響きます。
早くしないと、王子様とあおいくんの貞操は風前の灯火です。
キャロライン姫様と真白ちゃんは、無事に女王の毒牙から彼らを救うことができるのでしょうか?
つづくよ~ですわ♡