男の子たちがさらわれちゃったんだよ~ですわ♡
「私は王国ラトスの王子、ジョージ・アントニウス・ド・ヘンリーだ。よろしく」
「わたくしは王国パルカの王女、キャロライン・マリア・オースチンと申します」
「俺は赤井青、こっちのパンダみたいなやつは黒田真白だ」
「えへへ~、よろしくね~」
見知らぬ世界の紅葉の森で、うっかり出会ってしまった4人はひとまず自己紹介をかわします。
「いやー、まさか異世界転移した先で王子様とかお姫様に会えるとは思わなかったぜ。ガチで『なろう』みてーだな」
「ほんとだね~」
「ん? 君達も王族ではないのか? てっきりその出で立ちから、名だたる王家の出だと思っていたが」
「え? ……うわっ、何だこのカッコ!?」
ジョージ王子に言われてあおいくんが自分の服装を見ると、頭に王冠をかぶり、白タイツにかぼちゃパンツという、なんだかダサーい王様スタイルに変わっています。
「い、いつの間に?」
「わあ~、かわいい~」
「!?」
そして真白ちゃんが身に着けている服は、プリンアラモードをイメージしたティアラに、フルーツやスイーツをモチーフにした小物類をあしらった、黒を基調としたドレスに変わっていました。
「あおいちゃん、どお~? 似合ってる~?」
スカートを広げてくるくる回ってみせる真白ちゃんの姿は、チョコレートケーキやチョコパフェを思わせます。
「かわ……。ああ、まあまあだな」
「えへへ~。あおいちゃんもカッコいいよ~」
「これがか?」
真白ちゃんとあおいくんがお互いの変わった服装を見比べていると、キャロライン姫がにこにこしながらぽよぽよと近よって来ます。
「うふふ、お二人とも素敵なお召し物ですわぁ。お二人はご夫婦でいらっしゃるのですか?」
「「ふ、夫婦?」」
「あらぁ? 違うのですか? あ、でも、ご結婚の準備は万端でございますわね」
「「け、結婚?」」
「お隣の国の習わしで、婚礼の際には花婿が花嫁を抱き上げて宣誓をなさるとか。先ほどあおい様が真白様を抱きかかえられたお姿は、とても堂々としてお見事でございましたわぁ」
キャロライン姫にお似合いと言われ、ドギマギするあおいくんとそれほどでも~とてれてれする真白ちゃん。
その様子を見て、自分ももっと鍛えなければと拳をにぎるジョージ王子。
なにしろ自分が式を挙げる時は、樽のようなキャロライン姫を抱え上げなければならないのですから。
「して、君達も他の世界から来たということは、ここがどんな世界か分からぬという事か?」
「見て見て~あおいちゃん、わたしより大きいキノコキノコ~」
「うわ、でかっ! 炊き込みごはん何人分だ!?」
「話を聞いてもらえまいか」
異世界転移はその世界で何か困った事があり、何者かに呼ばれて召還されたと考えるのが相場なのですが。
「では、とりあえず人のいる所を探してみようではないか? こんな森の中にいてもラチが開かないからな」
「ああ、異存はないぜ」
「賛成~」
「わたくしも王子様にお従いしますわ」
4人は連れだって、人里を求めて歩き始めます。
キャロライン姫はちょっぴり不安でしたが、見知らぬ世界を王子様と一緒に冒険をする事になって、ワクワクしてまいりました。
ところが。
『オーッホッホッホッホッ!』
突如、空から女性の高笑いが響いたかと思うと、ビーッ、ビーッという羽音と共に、蜂の大群があっという間に4人を取り囲みます。
「うわ~、すご~い。大っきな蜂~」
「いやいや、いやいや、蜂にしちゃデカすぎだろ!?」
あおいくんが驚くのも無理はありません。蜂たちの体長は2mを超えており、さらに手に手にするどい槍を持っています。
「こ、怖いですわ……」
「何だ、貴様らは!」
ジョージ王子は子兎のように震えるキャロライン姫をかばって勇敢に立ちふさがりますが、問答無用で蜂たちはプシュッと口から粘液を吐きかけて来ました。
ベシャッ、ベシャッ、ベシャベシャッ!
「うや~!?」
「危ねえっ!」
ベシャベシャッ!
あおいくんも体を張って真白ちゃんを粘液から守ります。ですが!
「か、身体が固まって……」
「動かない!?」
その粘液は蜂の巣を作る材料である蜜ロウというもの。
蜜ロウが固まると、王子とあおいくんは金縛りにあったかのように動けなくなります。
そこへ兵隊バチたちが群がり、2人を担いで飛び上がります。
「ホッホッホッ、実に旨そうなオスたちじゃ。これは『子種』の絞りがいがあるのう。美味しくいただくとするぞよ」
巨蜂たちの群れの中、一際の巨体を誇る蜂がそんな事を言っています。
おそらく女王バチでしょう。なぜか片目に黒いアイパッチをしており、海賊のような禍々しさを感じます。
もしかしたら、厨二病かもしれません。
「ものども、引き上げるぞよ!」
『アイアイサー!』
「お、王子様! 王子様ぁー!」
「あおいちゃ~ん!」
オーッホッホッホッホッ! と、2人の必死の呼びかけもむなしく、蜂たちは王子とあおいくんを連れ去って空へと消えて行きます。
あっという間の誘拐劇。
女の子たちは、ぽつんと森の中に取り残されてしまいました。
「う……、う……、うわぁぁーん!」
知らない世界に来てしまっても、キャロライン姫が平静を保てていたのはお側に王子様がいたからこそ。
「うわぁぁぁん、王子様、王子様ぁぁぁ!」
キャロライン姫はタガが外れたように、大声で泣き出してしまいました。
そこへ、すっと差し出される真っ赤なリンゴ。
「えへへ、食べる~?」
「これは……?」
「落ちてたから拾って来たの。おいしそうだよ~」
真白ちゃんはドレスで2つのリンゴをぐりぐり拭いて、1つをニコニコしながらキャロライン姫に手渡します。
「はい、落ち込んだ時は食べるのが一番! だよ~」
言いつつ、真白ちゃんは豪快にリンゴにシャリッとかじりつき、キャロライン姫もおそるおそるカリッとかじります。
が。
「うや~、すっぱ~い!」
「すっ、酸っぱいですわー」
リンゴは甘みがほとんどありません。
2人は顔を見合わせるとぷっと吹き出し、あははははと笑いました。
「王子様なら大丈夫だよ~、あおいちゃんがついてるし。ああ見えて武闘派だからね~」
「あおい様はブドウ派でいらっしゃいますのね。わたくしはどちらかと言えばイチゴ派ですわ」
「あ、わたしもイチゴ大好きだよ~」
「真白様もそうなのですか! わたくしたち、気が合いますねぇ」
「そうみたいだね~」
そう言って、2人はまたクスクス笑います。
「だから、わたしたちであおいちゃんと王子様を助けに行こうよ。根拠はないけど、きっとうまく行くよ~」
「あ、ありがとうございます……。真白様はしっかりされているお方なのですね、わたくし尊敬いたしますわぁ」
「え~、わたしが? しっかりしてるって~?」
てへへ、うやあ~とてれてれする真白ちゃん。
「じゃあ~、キャロちゃん! これから女の子2人で大冒険を始めるよ~」
「はい、真白様! よろしく、お願いいたしますわ!」
こうして、ゆるふわぽっちゃり姫様たちは再び歩き始め、ツッコミ不在の珍道中が始まります。
2人は王子とあおいくんを助け、無事にそれぞれの世界へ戻る事ができるのでしょうか?
1時間後……。
「うや~、お腹がすいて力が入らないね~」
「も、もう、一歩も動けませんわぁ……」
さっそく、空腹でぶっ倒れる2人。
本当に大丈夫なのでしょうか?
つづくよ~ですわ♡