涙と笑いの大団円だよ~ですわ♡
どんちゃん、どんちゃん♪
どんちゃん、どんちゃん♪
空中要塞の宴会場は、上へ下へのドンチャン騒ぎ。
その日の夜はミツバチパッチが故郷を救ってくれたお礼ということで、ティーパーティを催してくれました。
ビュッフェ方式のスイーツ食べ放題に、キャロライン姫と真白ちゃんは大喜びです。
一発芸でオールブラックスが『ハカ』を披露すると、ミツバチパッチは『8の字ダンス』を見せたりと、過去のうらみは水に流して大いに盛り上がります。
キャロ白コンビがうっかり『サトウキビの汁を醸造した甘いやつ』を飲んでしまい、またしてもぐでんぐでんになったり(2人がべたべた甘えてくるので、王子とあおいくんが赤面したり)。
宴もおひらきになり寝室に行ったらダブルベッドを用意されていて一もんちゃくあったり(男性陣はヘタレなので床に寝たり)。
空中要塞が浮かぶ夜空にこんぺいとうのお星さまが輝く中、ぽっちゃり姫様たちは楽しい時間を過ごしました。
そして、次の日。
キャロライン姫と真白ちゃん、ジョージ王子とあおいくん、オールブラックスとハエ・ブンブンは、ハニカムレディーで魔導師『蝶々夫人』が待つ砂漠のオアシスまで送ってもらいました。
ミツバチパッチはすぐに惑星ハドソンに帰るそうなので、全員でお見送りをします。
「そなたらには本当にお世話になったぞよ。このご恩は一生忘れぬぞ」
「忘れていいよ~」
「そうですねぇ、パッチ様たちの星を治された後は、残ったエネルギーで滅ぼされた星も復活させていただければ」
「オーッホッホッ、心得た。それでは妾らはここで失礼するぞよ」
『BYE、ハドソン』とミツバチパッチたちは別れを告げて、空中要塞ハニカムレディーはあっという間に空から姿を消しました。
「どうやら、無事に帰って来たようだねえ」
ぽっちゃり姫様たちが振り向くと、そこには魔導師『蝶々夫人』の姿が。
「パピヨン様!」
「……って、え~? そのケガどうしたの~?」
見れば、蝶々夫人は顔にばんそうこうを貼って、左側の前肢を三角巾で釣っています。
「ああ、これかい? ちょっと階段から落っこちてな」
「だ、大丈夫なのですか?」
「まあ利き脚じゃないから、問題はないさね」
「パピヨンさんは、意外とドジっ子なんだね~」
ニヤッと笑うパピヨン夫人。その後、男性陣とも自己紹介を交わします。
「これが、ミツバチパッチから分捕ってきた、ロワイヤルゼリーだね」
ぽっちゃり姫様たちの脇に置いてあるのは、山のように積まれたゼリー状の塊。
太陽の光を受けて、琥珀色の物体はキラキラと輝いています。
「とりあえず持って帰ってまいりましたが、これからどうしたものでしょう……」
「まずは、あんたらの世界に帰るための分をちょっとだけ取っときな。……ああ、そのくらいだね」
蝶々夫人に言われたとおり、真白ちゃんはスプーンフォークでロワイヤルゼリーをひとすくいします。
「残りの甘みエネルギーはこの世界に戻してもらうが、それはキャロライン。あんたの出番だよ」
「わ、わたくしですか? わたくしにできますでしょうか……」
「キャロちゃんならきっと大丈夫だよ~」
真白ちゃんの根拠のない応援に励まされ、キャロライン姫はどどんと積まれたロワイヤルゼリーに向きあいました。
「甘みエネルギーを世界中に行き渡らせるイメージでやってみな」
「はい……」
キャロライン姫は両方の手のひらを琥珀色の塊に向けると、ハチミツを操る能力を発動します。
すると、ロワイヤルゼリーの山からもくもくもくと黄色い煙が立ち上がり、青い空をくまなく覆い尽くして行きます。
そして、その雲から金色の雨が。
世界中にざーっと降り注ぎ、雨がやむとすぐに砂漠の大地から緑色の草が生えましたwww。
そして、4人が最初に訪れた枯れ木の森にも緑が芽生え、ハエ・ブンブンの住み家のカカオ山のマグマからも甘い香りが漂います。
雨上がりの空には虹がかかり、『精霊界』は本来のイキイキとした姿に戻ったように見えます。
全員がドキドキしながら見守る中、蝶々夫人は地面に生えた草をちぎって一噛みすると。
「うん……、甘い! どうやら世界に甘みが戻ったようだよ」
うおおおおおーーーっ!! と、オールブラックスとハエ・ブンブンが雄叫びを上げます。
「キャロちゃんやったね~」
「真白様、ありがとうございます!」
キャロライン姫と真白ちゃんはドレスをひるがえし、手を取り合ってくるくる回ります。
「王子様ぁ! わたくし、うまくできましたわ!」
「わ、わわわっ!?」
キャロライン姫にぽよよーんと抱きつかれ、目を白黒させるジョージ王子。
その様子を見て、わあ~と目を輝かせる真白ちゃんと生暖かく見守るあおいくん。
大歓声が上がる砂漠のオアシス。そして、喜びに包まれる『精霊界』。
ぽっちゃり姫様たちの活躍で、ついに世界は平和を取り戻すことができたのでした。
*
「いよいよ、お別れだね~」
「そうですね……」
この世界でやるべきことが全て終わり、キャロライン姫と真白ちゃんたちはそれぞれの世界へ帰る時がやってきました。
「隊長さんたちやハエさん、みんなのおかげだよ~。ありがとね~」
「なんの! おぬしらとの旅はいい修行になったぞ、押忍!」
「こちらこそ、自分たちの世界を助けていただいてありがとうございましたであります!」
ハエ・ブンブンは武道家らしく、オールブラックスはムキキッと敬礼代わりのポージングを見せて別れを告げます。
「真白様……」
うるうると、瞳を潤ませるキャロライン姫。
「実はわたくし、親しくおつきあいしている方がどなたもいなくて、真白様が初めてのお友達だったのです……」
「えっ、そ~なの~?」
「大変な事もたくさんございましたが、真白様と過ごした時間はわたくしとってもとってもとーっても、本当に楽しかったのです」
「うう~ん、わたしもだよ~」
「ですけど……」
キャロライン姫は、さめざめと大粒の涙を落とします。
「せっかくこんなに仲良しになれましたのに、もう二度と真白様とお会いする事ができないなんて……。あんまりですわぁ、寂しすぎますわぁ……」
違う世界の2人が出会えたのは、偶然と偶然が重なった奇跡。
自分たちの世界に帰ってしまえば、姫様たちが再び会うことはないのです。
「キャロちゃん泣かないで~。キャロちゃんが泣いちゃうとわたしも、わたしも~」
真白ちゃんもぽろぽろっと涙を流し、とうとう2人は大声で泣き出してしまいました。
「もっと、真白様と一緒にいたいですわぁー!」
「もっとキャロちゃんと一緒にいたいよ~!」
えーんえんえん、うわーんわんわんと、ぽっちゃり姫様たちは抱き合って泣きます。
「……しょーがねえだろ、俺たちはもともと住んでる世界が違うんだから」
「出会えるはずがなかった私たちが、この世界で出会えたのはむしろ喜ぶべき事だとは思えないか?」
「「だってぇ~……」」
ぐすっぐすっ、えぐっえぐっとぐずる姫様たちを、王子様たちはよしよしとなぐさめます。
キャロライン姫と真白ちゃんがようやく落ち着いたところで、蝶々夫人は。
「それじゃあ、そろそろ異世界転移を始めるよ。ジョージはキャロラインを、あおいは真白を『あすなろ抱き』にしな」
「なんで、あすなろ抱きを知ってんだよ?」
「だ、抱きしめるのか? 手を繋ぐだけじゃダメなのか?」
「あんたたちはこの娘たちの召喚に巻き込まれただけのオマケだからねえ、しっかりしがみついてないと時空の狭間に放り出されちまうよ」
「「え゛っ!?」」
蝶々夫人に脅されて王子は照れながら、あおいくんは難しい顔をしながら、女の子たちを後ろから抱きしめます。
「キャロラインと真白は『行きたい場所』を念じるんだ。集中を散らして雑念を入れるんじゃないよ」
「…………はぁい!」
「念じたよ~」
「では、行くぞ……。『虫の世に訪れし者たちよ、やどり木を離れ己が求めし所へ、羽ばたけ!』」
蝶々夫人が手に持つスプーンフォークの上の、ロワイヤルゼリーがまばゆく輝きます、そして。
「『転移』ーッ!!」
『わあああああっ!?』
蝶々夫人がパワーワードを唱えると、ゴゴゴゴゴと空中に2つの穴が開きます。
「真白様ぁ!」
「キャロちゃ~ん!」
キャロライン姫たちと真白ちゃんたちは、すぽんすぽーんっとそれぞれの穴に吸い込まれて行きました。
「可愛くて、良い娘たちだったよ……。本当に……」
蝶々夫人が感慨深くつぶやくと、オールブラックスもハエ・ブンブンも、彼女たちが消えた空をいつまでもいつまでも眺め続けたのでした。
「アリーヴェデルチ(さよならだ)であります!」
*
真白ちゃんとあおいくんは、ヒュルルーンッと暗いトンネルの中を飛んで行き、パッと明るい光を感じます。
「「えっ?」」
足元がスカスカで、またしても空中に投げられたような浮遊感。
「うや~!」
「また、このパターンかよ!」
あおいくんは真白ちゃんをお姫様抱っこにすると、アスファルトの地面にドンッ! と着地します。
辺りを見渡すと、自分たちが住んでいる見慣れた街並み。近くには行きつけのロ◯ソンがありました。
「……どうやら、ちゃんと元の世界に帰って来れたようだな」
「うわ~ん、あおいちゃ~ん……」
真白ちゃんは、あおいくんにしがみついて泣いています。
「キャロちゃんに、ちゃんと『さよなら』って言えなかったよ~」
「ああ……」
あおいくんは真白ちゃんをやさしく下ろし、詭弁だとは思いつつも。
「まあその、なんだ? お前がずっとお姫様に会いたいと願ってたら、いつかきっとまた会えるさ」
真白ちゃんの頭をポンポンとなでてこう言います。
「ぐすん……、本当~?」
すると、その時。
『わあああああーーーっ!』
「「!?」」
ドサーッ!
空から叫び声を上げながら、降ってきたのはキャロライン姫とジョージ王子!
またしてもジョージ王子はぽっちゃり姫様の下敷きになっています。
「はっ……!? ここはどこですの? ええっ!? 真白様?」
「やった~! あおいちゃんの言ったとおり、本当にキャロちゃんとまた会えたよ~」
「いやいやいやいや、違う違う」
俺が言ったのはそういう事じゃないと、ふるふる手と首を振るあおいくん。
「うぐぐぐぐ……。なっ!? あおい殿ではないか!? これは一体どうした事だ!?」」
気がついたジョージ王子がキョロキョロと見回すと、ビルや自動車やロ◯ソンなど、見たことが無いものばかり。
「こ、ここはどこだ……?」
「ここは日本。俺たちが住んでいる世界だ」
「何だと? では、私たちは自分の世界に帰れなかったのか?」
「そんなぁ? わたくしはパピヨン様が言われたとおり、ちゃあんと『行きたい場所』を念じましたのに、どうして……?」
「あ~! キャロちゃん、もしかして~」
もやもやもや~ん、と回想シーン。
第5話の温泉回の会話から。
「……わたくしの王子さまは厳ひいのれす。床に落ちたお菓子は食べちゃいけないとうるしゃいのれす。ふーふーすれば食べられるのにれす」
「わたしの世界には~、『3秒ルール』ってのがあって~、3秒以内に拾ったら食べても大丈夫なんだよ~~」
「えええぇ、そうなのれすかあぁ。うらやまひいのれす。3秒ルール……。わたくしも真白様の世界に行ってみたいのれす」
回想シーン終わり。
「……てなことを言ってたから、キャロちゃんが『帰りたい場所』じゃなくて、『行きたい場所』に来ちゃったとか~」
『えええぇーーーっ!!』
「という事は、その『3秒ルール』のために、私たちは真白殿の世界に来てしまったという事なのか……?」
じろーっとキャロライン姫を見るジョージ王子。
「えっ……、あ……、ごめんあそばせーっ!」
「あっ、こらっ! 待たないかっ!」
スカートの裾を持ち上げて、逃げるキャロライン姫と追うジョージ王子。
この2人が追いかけっこをすると、まるで花の庭園をうふふ、あははと戯れているかのようですが。
「ゲフゥーッ!!」
「王子様っ!?」
さっき地面に落ちた時のダメージでまたしても王子は盛大に吐血し、キャロライン姫があわてて駆けつけます。
「フラッシュハニーぃ! あら? フラッシュハニーぃぃ! ああっ、もうハチミツが出ませんわ!」
「え~? あ、わたしもだよ~」
キャロライン姫も真白ちゃんも、能力が使えなくなっているようでしたが、とりあえず王子様は無事(?)だった様子。
「あおいちゃ~ん、どうしよっか~?」
「うーん、とりあえず落ち着くまで、お姫様はお前ん家に泊まってもらって、王子は俺ん家で面倒見るか」
「そうだね~」
彼女たちには申し訳ないですが、なんだか楽しくなって来ちゃった真白ちゃん。
こうして、うっかりこっちの世界に来てしまったキャロライン姫とジョージ王子は、腹をくくってロ◯ソンのスイーツを食べたりドーム球場で野球観戦をしたりと異世界を堪能し、真白ちゃんとあおいくんとさんざん遊び倒します。
そして、3日間ほど真白ちゃんたちの家に滞在したあと、4日目の朝に天然ハチミツをたっぷり塗ったトーストを食べたおかげで、ようやく自分たちの世界へ帰る事ができたのでした。
めでたし、めでたし。
『不思議の国のぽっちゃり姫たち♡』
おしまいだよ~ですわ♡
ぽっちゃり姫たちのゆるふわ冒険活劇を、最後までお読みいただいてありがとうございました!
Special Thanks! 砂臥 環 様!
(おまけ)
第11話のジョージ王子とあおいくんが蝶々夫人と初対面した時のシーンから。
第11-2話『王子様とあおいちゃんの特殊能力だよ~ですわ♡』
「あんたらがジョージとあおいだね。あたしは『パピヨン・イカリヤ』。人呼んで、魔導師『蝶々夫人』だ」
「私は王国ラトスの王子、ジョージ・アントニウス・ド・ヘンリーだ。よろしく」
「俺は赤井青だ」
パピヨン夫人は、男性陣と自己紹介を交わします。
「ちなみにあたしの旦那はこの町の町長だから『町長夫人』でもあるんだがね」
そう言って、てっふっふと笑う蝶々夫人。
おそらく彼女の持ちネタなのでしょう、仕上がりすぎているギャグにジョージ王子とあおいくんはポカーンとします。
あおいくんは気を取り直して。
「なあ、俺たちも異世界転移をしたんだから、なんか特殊な能力が身に付いてるんだろ。あんた、魔導師なら教えてくれないか?」
「分かった、あたしが占ってやろう」
蝶々夫人は水晶玉を取り出して、『蝶々々、イイカンジー』と呪文を唱えます。
「ふむ、まずはジョージだが……。ほう、『魅了の魔眼』と出ておるな」
『魅了の魔眼』。
見つめ合った相手を、特に異性を意のままに操る事が出来る能力。
もちろん、相手にエッチな事を要求することもできるぞ!
「なに? 私にそんな能力はいらん!」
「ほう? この能力があれば、女たちは自由自在。男だったら垂涎の能力だと思うがな」
「私にはキャロラインがいる。他の女性を魅了する必要などない!」
そう言って、拳を震わせる漢・ジョージ王子ですがキャロライン姫の方をチラッと見ると。
「あ、いや、キャロラインを意のままに操って、あんなことやこんなことを……。あ、いやいや、いかんいかん。キャロラインに対してそんな邪な事を考えては……」
「王子様ぁ、いったいどうなされたのですか?」
ブツブツ言いながら自分の頭をポカポカ叩くジョージ王子に、キャロライン姫はきょとんとしています。
「蝶々夫人、俺は?」
「えーっと、あおいはだな……、外側を見ただけでまんじゅうの中身が分かる能力だな」
「なんだよ、それ?」
「その名も『まんじゅうマスター』!」
「名前もダセえ!」
それを聞いた真白ちゃんは。
「あおいちゃん、いいな~。わたしもその能力欲し~い」
「そりゃ、お前はそうかも知れんけど」
ですが、蝶々夫人は。
「てっふっふ、すべて冗談だ。ジョージもあおいもこの娘たちの召喚に巻き込まれただけのオマケだから、能力は『無し』だよ」
「「結局、無いんかーい!」」
おしまい