愛とハニースイーツは異世界を救うんだよ~ですわ♡
「王子様、お身体のお加減はいかがですか?」
「……むっ!? おおっ、動かせるようになったぞ!」
キャロライン姫がジョージ王子とあおいくんにまとわりつく蜜ロウに手をかざすと、どろどろと溶けていきます。
ハチミツを操るキャロライン姫の能力で、男性陣はようやくエビフライ状態から解放されました。
「でね~、ハチさんたちが『わ~』って来たところを、わたしたたちがアメちゃんで『わ~』ってやってね」
「ふーん。お前にはそんな能力がなあ。まあ、らしいっちゃらしいけど」
真白ちゃんの話によると、マーヤ大佐を撃破した勢いで空中要塞に乗り込んだぽっちゃり姫様ご一行は、アメ玉をばらまきながら王の間まで大ばく進。
もともと先ほどの空中戦で兵隊たちがヘロヘロになっていたこともあって、あっという間に女王の元まで到達したとのことです。
女王パッチを捕縛され、残った兵隊ハチたちも全て投降。
ぽっちゃり姫様たちはここに、空賊ミツバチパッチの完全制圧を果たしたのでした。
そして今、女王をはじめとする全てのハチたちはロープで縛られ正座をさせられています。
「女王様、申し訳ありません……。我々が不甲斐ないばかりに……」
そう言って自らも縄を打たれながら、涙を流す『赤い流星』ことマーヤ大佐。
「いや、そなたらは良く尽くしてくれた。目的を果たせずして敗れたるは妾の不徳。罪と咎は全て妾にある」
そして、女王パッチはぽっちゃり姫様たちの方に向き直り。
「そなたらにたってお願いしたい。勝手ではあるが獲るのは妾の首級だけで、どうか兵士たちは助けてもらえまいか」
「なんと! 首を差し出すなら我々の方こそ! 兵隊は産めばいくらでも増やせますが、女王様は何者にも代える事ができません!」
では、自分の首を! いやいや、自分の首を! じゃあ、自分の首を! どうぞどうぞ! とお互いをかばいあう(?)ミツバチパッチたち。
その様子を見た真白ちゃんは。
「う~ん? なんか、言うほど悪い虫たちじゃ無さそうだね~」
「いやいや、それはありえないであります。ミツバチパッチは世界中に甚大な被害を与えておりますし、実際に自分たちも殺されかけたでありますし」
そこで、キャロライン姫は女王パッチにぽよぽよっと近寄り。
「先ほど貴女は『目的』と言われておりましたね。よろしければ、あなた方がこの世界を襲ったいきさつをお聞かせ願えませんか?」
すると、女王パッチは聞くも涙、話すも涙の物語とばかりに語り始めました……。
この星からはるか14万8000光年離れた、ミツバチパッチのふるさとである、惑星『ハドソン』。
自然と科学が調和した、素晴らしい星でありました。
ところが、原因不明の災害により、惑星から活力の源である『甘みエネルギー』が失われ、異常気象やウイルスの蔓延など、惑星ハドソンはあと1年で滅びの時を迎える事となってしまいます。
そこで、惑星ハドソンの女王『パッチ』は滅び行く母星を救うため、空間ワープ機能を持つ『PCエンジン』を搭載した宇宙艦『ハニカムレディー』を駆り、宇宙へ旅立ったのです。
甘みエネルギーを集める旅は困難を極め、女王パッチは行く先々でオスを現地調達しながら兵士たちを増やし、星々で争いを繰り広げながら少しずつ、少しずつ星1つを賄えるだけのエネルギーを『ロワイヤルゼリー』として貯えて来ました。
そして、今回の標的となったのが豊富な甘みエネルギーを秘めたこの星、『精霊界』だったのです。
「妾は甘みエネルギーを集めるため、そして戦う兵を生み出すため、幾度も幾度も知らない星のオスとも交尾を繰り返してきた。それはそれは、めくるめくような楽……いや、辛い旅路であったぞよ」
「本音が漏れちゃってんなあ」
「というわけなので、なんとかお慈悲をいただければ……」
と、弱々しく嘆願する女王パッチでしたが。
「自分たちの星を救うためとは言うが、けっきょく自分たちの事しか考えてねーじゃねえか。じゃあ、他の星は滅びようがどうなっても構わないってのか?」
「そ、それは……」
あおいくんはミツバチパッチに手厳しい言葉をかけ、黒アリ騎士隊も大いに賛同します。
「確かに、攻められる側からすれば理不尽な話ではある。だが、一国の王子の立場から言わせてもらえば、滅ぼされた星々は侵略に打ち勝つだけの力が無かったとも言える」
『!?』
ですが、ジョージ王子だけは別の視点から意見を述べます。
「そして、たとえ非道のそしりを受けようが、周辺の国々を滅ぼしてでも自国の民を守るのが王の務め。彼女は一つの星の女王だ。私も同じ立場ならそうするだろう」
『……』
ミツバチパッチたちに一定の理解を示すジョージ王子。国を統べ、戦乱の世に生きる王族の言葉の重みに、あおいくんもオールブラックスも何も言うことはできません。
「さすがは、妾が見定めたオスの1人ぞ。ぜひ妾とまぐわってもらえぬか?」
「それは断ると言っているだろう」
「王子様ぁ、『まぐわう』というのは何でございますか?」
「キャロラインは知らなくて良い」
しかしそのあと、王子様はしまった! と思います。
ジョージ王子は純真無垢なキャロライン姫に、『夜の睦みごと』を教えるチャンスをうっかり逃してしまいました。
アナ・グランデ隊長はムキャキャッ! とポージングを取り。
「まあ、それはそれとして、甘みエネルギーを結集した『ロワイヤルゼリー』は全て自分達が回収させていただくであります」
「ああん、それが無ければ我が星を救うことが……。せめて半分、いや三分の一だけでも……」
「戦いに敗れた者には、何も残らないのが戦国の慣わしであります」
アナ隊長からピシャリと言い放たれ、女王パッチはしょんぼりとうつむき。
「星に残した民たちよ……、すまぬ……。これで、我が星の命運も尽きたぞよ……」
『女王様ーっ!』
うわーん、うわーん、うわーんと、とうとうミツバチパッチたちは大声で泣き出してしまいました。
それを見たキャロライン姫は、うるうるっとしながら。
「ううう……、ハチ様たちも少しかわいそうな気がしますわぁ。なんとかしてあげられないものでしょうか?」
「ん~? できるよ~」
「えっ?」
びっくりするキャロライン姫に、真白ちゃんはニコニコしながら答えます。
「わたしとキャロちゃんなら、きっとなんとか出来るんじゃないかな~」
「ええぇっ!?」
*
女王パッチとマーヤ大佐を案内役に加え、一行がやって来ましたのはハニカムレディーの中にある多目的ホール。
金属の天井と壁に囲まれた、野球グラウンドほどの広さで照明灯以外は何もない殺風景な大空間です。
「これくらい広いお部屋なら、思いっきりやれそうだね~」
「お前、一体何をやるつもりだ?」
「ふふふ~、とっても良いことだよ~。じゃあ、キャロちゃん始めるよ~」
「はいっ!」
真白ちゃんはキャロライン姫と横並びに立ち、何もない空間に向かって両手を伸ばします。
「こむぎこぎゅうにゅうとたまご~」
真白ちゃんが謎の呪文を唱えると、流れるプールのように渦を巻きながら乳白色の粘液が発生します。
「キャロちゃん、おねがい~」
「はぁい、フラッシュハニーぃ!」
キャロライン姫はぐるぐると波打つ生地に、どぼどぼどぼっとハチミツを放つと、渾然一体と混ざりあいます。
「『ミラクルテイスティング』~」
真白ちゃんがどこからともなく、『魔槍ストームプリンガー』こと大きなスプーンフォークを取り出し、生地をすくってペロリとひとなめ。
「う~ん、もうちょっと甘さが欲しいかな~。キャロちゃんおねがい~」
「はい、真白様。ところで『ミラクルテイスティング』とはどういう技なのでしょうか?」
「ただの味見~」
キャロライン姫にも味見をしてもらうと、真白ちゃんは生地にドライイーストを放ちます。
1時間の寝かし工程の後、膨れ上がった生地に再び真白ちゃんが手をかざすと、粘体が円筒型を形作ります。
すでに焼き工程に入っているのでしょう、生地の表面に焼き色が付き、甘い香りがただよって来ます。
「キャロちゃんっ」
「はいっ。右手にハチミツ、左手はメープルシロップ……。奥義ツイン・フラッシュハニーぃぃっ!」
キャロライン姫は焼き上がった生地に、これでもかというくらいのハチミツとメープルシロップを浴びせかけます。
そして、真白ちゃんがホイップクリームとフルーツをぽぽぽぽんとトッピングをすると。
「「できあがりぃ~! スーパーハニースイーツ、『スペシャルパンケーキ』ぃ~!」」
どどどーん! と、野球スタジアム並みのホールに、ホットケーキミックスもベーキングパウダーも使わない、こだわりの巨大パンケーキが完成しました。
「おおお、これは……!?」
マーヤ大佐が仮面に装備されているスカウター機能を発動させると。
「こ、このパンケーキの『甘み力』は、530000! 女王様、これは脅威的な数値です!」
「なんと!? 星1つ救うのに必要なエネルギーでも5万程度だというのに、母星を救ってもなお、おつりが来るぞよ!」
これで、我が星も救われる……!
よよよと泣き崩れる女王パッチ。マーヤ大佐もすがりついて嬉し涙を流します。
「ふ~、これで一件落着だね~」
「真白様、とっても素晴らしいお仕事でしたわぁ」
「うう~ん、キャロちゃんが手伝ってくれたおかげだよ~」
2人は手を取り合って、くるくるぽよぽよ踊ります。
こうしてぽっちゃり姫様たちは『精霊界』だけでなく、ミツバチパッチの故郷『惑星ハドソン』も救う事となりました。
「キャロライン……、良く頑張ったね」
「王子様……」
ジョージ王子はキャロライン姫の髪を撫で、姫はうっとりと王子様の瞳を見つめます。甘い雰囲気を醸し出す2人。
しかし、あおいくんは難しい顔をしながら。
「これは、『ホットケーキ』じゃないのか?」
「ちっちっち~、あおいちゃんも甘いね~。正式名称はパンケーキ。ホットケーキは日本だけの呼び方だよ~」
「へえ、そうなんだ」
諸説あります。
つづくよ~ですわ♡
次回、感動(?)の最終回!