ハチミツなめたら異世界転移だよ~ですわ♡
げんだーい、げんだい(むかーし、むかしの現代版)。
日本のあるところに、幼なじみで仲がいい2人の高校生、真白ちゃんという女の子と青くんという男の子がいました。
あおいくんは、すこーし目つきがするどいシュッとした少年。
そして真白ちゃんは、愛嬌のあるたれ目とパンダ耳のように2つにまとめたお団子頭がトレードマークの、お菓子が大好きなぽっちゃり娘さんです。
「それでね~、ロ◯ソンの新商品に大きいバスク風チーズケーキが出てて~、あんまり大きいから目の錯覚かと思っちゃったよ~」
「お前、コンビニスイーツにハマりすぎだろ」
あおいくんは口ではぶっきらぼうですが、優しい目をしながら真白ちゃんの話を聞いています。
「あ~、チーズケーキの話をしてたら、甘い物食べたくなっちゃったな~」
すると、真白ちゃんはコンクリートブロックの隙間の暗がりに、『メクラ蜂』の巣を見つけました。
この世界では見ることが出来ないはずの蜂の巣から、ハチミツがとろーっと垂れてきます。
真白ちゃんは何の疑問も持たずに手を突っ込み、ハチミツをすくって口に入れます。
「あま~い、おいし~! こんなおいしいハチミツはじめて~」
「こら! ナチュラルになめんな!」
あおいくんがそう言ったとたん、真白ちゃんはブロックの隙間に吸い込まれそうになります。
「わああ~?」
「!」
あおいくんはあわてて真白ちゃんの身体にしがみつきましたが、ダ◯ソンのような永遠に変わらない吸引力に耐えきれず、2人はまとめて蜂の巣の中に吸い込まれてしまいました。
「「わあああぁぁぁーーーっ!」」
一方、そのころ、そのこーろ。少しばかり別の世界……。
あるお城のお庭で、午後のお茶を終えたお姫様と王子様がお散歩をしていました。
お姫さまを優しくエスコートしているのは、この国の皇太子、ジョージ・アントニウス・ド・ヘンリー王子。
そして、蜂蜜色の髪をふわりと結い上げ、青い空色の瞳、薔薇色のぽっちゃりとした頬を持つお姫さまは、隣国の王女キャロライン・マリア・オースチン姫です。
「王子さまのお国の蜂蜜、とろりとしてて、甘くてとっても美味しいのです。うふふ、素敵。それをお熱いプディングにたっぷりかけて食べると、『ふぁぁぁぁん』なくらい美味しかったのです」
キャロライン姫はふわふわと、花々を舞うモンシロ蝶のように楽しそうに語られます。
「気に入って良かったけど……、プディングって今日出したのは果物たっぷりブラウンシュガーのアレ? 君は甘いもの本当に好きだよね……、胸焼けとかしない?」
「ありませんわ! ないのです! 甘いものはいくらでも平気ですわ。あの蜜、お茶に入れても良いですわ。もう一度いただきたいのです」
甘さを思い出し、頬に手を当てほうぅと、うっとりと吐息をつくキャロライン。そんな彼女が可愛くてならないジョージ王子は、優しく見つめています。
「あら? ねぇ王子様、あそこをご覧になって!」
キャロライン姫が何かを見つけました。大きな庭石の破れ目に忙しく出入りする、小さな『ニホンミツバチ』達を。
「変わった蜂ですわ! それにキラキラと……、あれはそう! 蜜がありましてよ」
興味津々で近づくキャロライン姫。だめだめ、刺されたらどうするの? と止めるジョージ王子の声など耳には入らないご様子。
人差し指でとろりと流れ出ているソレをすくうと、チュッとお口に運びました。
「ふあぁぁ、お花の香りがいたしますの! 美味しい! 甘ーい! この隙間に巣がありましてよ」
「キャロライン、見知らぬ物をむやみに口にしてはいけないよ」
ジョージ王子がそう言った瞬間、急にキャロライン姫は岩の割れ目に吸い込まれそうになります。
「きゃあぁん?」
「!」
思わずジョージ王子はキャロライン姫のふくよかな身体をがっしりと支えましたが、◯のカービィのような強烈な吸引力に耐え切れず、2人はまとめて巣に吸い込まれてしまいました。
「「ふぉぉぉぉぉぉーーーっ!」」
ヒューンッと暗闇の中を飛翔し、キャロライン姫と王子はトンネルを抜ける時のような光を感じます。
「「えっ?」」
ぽーいと空中に投げられたような浮遊感を覚えると、キャロライン姫と王子は空から森の中に落っこちていきました。
「「わあああああっ!」」
ドサーッ!
………………。
「ん……?」
キャロライン姫が目を開けると、そこは見知らぬ紅葉の森。しかし、一緒に落ちて来たはずの王子の姿が見当たりません。
「えっ! 王子様!? 王子様はいずこですの?」
「ううううう……」
「!!」
なんと、ジョージ王子がぽっちゃり姫の下敷きになっています。
「ああっ、王子様! 申し訳ありません! すぐに退きますわ!」
「そんなことより……、キャロライン、身体は大丈夫なのか……?」
王子は自分より姫の事を心配し、気丈に立ち上がります。
なんという優しいお方。キャロライン姫はじーんと感動しながら。
「おかげさまで……、わたくしは傷一つ負っておりませんわ」
「そうか、それなら何よりだ」
「王子様……」
「ゲフゥッ!!」
「王子様!?」
王子は盛大に吐血しましたが、とりあえず無事(?)でした。
「ここは、どこだ……?」
ジョージ王子が辺りを見渡しますが、見た事のない植物ばかりでまったく場所の見当がつきません。
それどころか、生えている木や草やキノコがやたらと大きく、もしかすると自分たちが小さくなったのではとも思われます。
「本当に、ここは何なんだ……?」
「……」
2人が思案にくれていた、その時。
空に、再び男女の叫び声が響きます。
「「わあああぁぁぁーーーっ!」」
ガサッ! ガサガサガサッ!
ドッスーンッ!
と、枯れ葉と共に降って来たのは、真白ちゃんとあおいくん。
あおいくんは真白ちゃんをお姫様だっこしたまま地に降り立ち、全身にじーんとしびれが走りましたが、10点満点の着地を決めました。
「いてててて……」
「あおいちゃん、だいじょうぶ~?」
「だいじょ……、あ、いや、大丈夫じゃねーな、こりゃ」
あおいくんに真白ちゃんがしっかりしがみついていますので、ふわふわぽよんなボディが密着しています。
このままでは、あおいくんは盛大に鼻血を吹き出してしまいます。
「ええ~、どこが痛いの~? 頭? おしり?」
「い、いいから! とりあえず降りてくんねーか? こんなとこ誰かに見られたら恥ず……、えっ?」
「え?」
真白ちゃんとあおいくんの視線が、キャロライン姫と王子にぶつかります。
「「「「こ、こんにちは……」」」」
こうして違う世界の2組のカップルが、さらなる異世界で出会いを果たしたのでした。
つづくよ~ですわ♡