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第01話 運命の三角関係

2020年1月25日、連載開始しました。

作品ジャンル(カテゴリー)は『恋愛』で女性向けよりの内容ですが、男女問わずお読みいただけます。よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)


 花も恥じらう十七歳の美しいご令嬢『ヒルデ・ルキアブルグ』は、神聖ミカエル帝国有数の上級貴族のご令嬢だ。この帝国には大きな丘が7つあり、各丘ごとに神殿を建てて自治も分けている。ルキアブルグ一族は、7つの丘の中でも都会の部類である西の丘を仕切っており、いわゆる大地主だった。

 したがってその財力も莫大で、ご令嬢であるヒルデは蝶よ花よと、幼少から現在に至るまで随分と可愛がられて育っていた。


 ヒルデにとってお金で買える欲しいものは、なんでも手に入るのが常識だ。彼女の美貌は持って生まれたものであったが、その美しさに磨きがかかっているのは豊かな経済力のおかげだろう。誰もが羨む優雅な人生、傍目から見れば神が選んだ特別な存在、それがルキアブルグ家のご令嬢だった。


 だが、人生の幸不幸とは皆、平等にバランス調整されているもの。財力や美貌に恵まれてしまった分、ヒルデ嬢には決定的なものが失われてしまっていた。年頃の乙女が、最も憧れる甘く切ない清らかな想い、即ち『心ときめく恋愛』と呼ばれるものと彼女は縁遠かった。

 いや、正確には決してご縁がないわけではなかったが、その内実には些か問題があった。


 ヒルデに好意的な異性は、ことごとく不幸なアクシデントに見舞われて、自然とヒルデから遠ざかっていった。


 身近な異性の最後の生き残りとも言える下宿人の留学生フィヨルドは、思わせぶりな態度をするものの、いつもジークに妨害されて2人きりになるチャンスすらない。金髪碧眼のいわゆる白皙のイケメンであるフィヨルドは、見た目そのまま『王子様』だと言う噂。

 実のところ身分を隠した小国の第4王子だという話しだが、ほぼ間違いなく我が国の王位を継承するであろうジークの前では、さほど威力のない噂であった。

 しかも雷に打たれてから治療費がかかるとかで、我が家で使用人のアルバイトをしている。なまじ向こうが使用人として優秀なあまり、ますますフラグから遠ざかった。


 本来ならば、ヒルデ嬢の初恋の相手となるはずだった幼馴染みジークは、多くの子孫を残さなくてはいけない義務を背負った古代英雄王の末裔。つまり、神聖ミカエル帝国の中でも特例扱いの一夫多妻が許された『ハーレム勇者様』だったのである。


『おめでとうございます! ヒルデ・ルキアブルグ嬢の運命の相手は、なんとっ。我が神聖ミカエル帝国が誇る英雄王・勇者ジーク様です』


 死刑宣告にも似た巫女シビュラの誇らしげな結果発表が、ヒルデの脳にこびり着いて離れない。ご神託以外で結婚するには十六歳のうちに、婚約を取り決める書類をお布施とともに神殿へと提出するだけだが。婿候補が次々とアクシデントに見舞われる関係から、間に合わなかったのだ。


 ご神託により強制的に決められたヒルデの結婚相手は、よりにもよってハーレム勇者ジークその人だった。ヒルデに課せられた人生の試練は、ハーレム要員である彼の仲間達と共同生活を送り、正妻として生涯を過ごすというもの。


「もう我慢の限界です。わたくし、ご神託の結婚なんて嫌ですわ! ご神託の神様、どうか縁結びの采配、もう一度考え直してくださいな。ジークと結婚して、一癖も二癖もあるハーレム軍団と一緒に過ごすなんて。世間知らずなわたくしが、あの独特の輪でやっていけるはずありません」

「まぁ落ち着きなさい、ヒルデ。もしかすると、何かのはずみでご神託の内容が変更になるかも知れないし。フィヨルド君のご実家から、結婚を申し入れしたいとのお話もチラホラあるし。まだ間に合うかも知れん」


 車の後部座席で興奮気味にハーレム勇者軍団への嫌悪を語る娘を、父が懸命に宥める。こんなことなら、早めに『実は小国の第4王子であるフィヨルド』と婚約させておけば良かったが。婚約取り決めの書類を書こうとした瞬間、フィヨルドは雷に撃たれてしまったのだ。

 あまりにも不吉な展開に結局、結婚相手はご神託に委ねる事となった。


「あぁどうして、よりによってわたくしの運命の相手がハーレム野郎なのっ。どうしてフィヨルドは、わたくしとフラグが立つと妙なアクシデントに見舞われるの。ねぇ神様、聞いてる? 勇者様の花嫁なんて、悪役令嬢には無謀ですわ!」


 神殿においてご神託が終わり、初めのうちは帰りの車の中でひどく落ち込んでいたヒルデ嬢だったが、『ここで運命のシナリオに負けるわけにはいかない』と気丈にも心を奮い立たせた。


 御神籤のアドバイス欄には、『運命を変えたければ、ゴルディアスの結び目を解いてみよ』との文言が。


(解けない紐で有名なゴルディアスの結び目か。つまり、わたくしがハーレム勇者ジークから逃れることは、無理難題だと言いたいのね)


 自分には手に負えないような『知恵の輪』を解くようにと、神から命じられた気分になりうんざりする。ネイルアートされた爪と白魚のような手で拳を作り、因縁の御神籤をグシャリと握り潰した。



 ――この物語は、稀代の美青年ハーレム勇者ジーク、麗しい深窓のご令嬢ヒルデ、そして雷に撃たれてもなお立ち上がる白皙の王子フィヨルドの三角関係の記録である。


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