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Re:二周目の公爵令嬢〜王子様と勇者様、どちらが運命の相手ですの?〜  作者: 星里有乃
第1章 一周目

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第10話 甦る秘密の記憶


 恋煩いが原因で、ヒルデが倒れた。人間の医学の常識では、高熱の原因が恋煩いなんてことはあり得ないが。今回は魔族の医師が特別に診てくれたため、魔力的な部分から病気の原因を究明してくれている。そのため、治療法も魔族的な方法に委ねることになった。

 このまま放置しておくと、ヒルデは万が一の命の危険もある。彼女を救い出す方法は、運命の赤い糸で結ばれた男性から、口づけとともに治療薬を飲ませてもらうことだ。


 しかし、この場にはそれらしき男性が、2人居合わせていた。お告げが選んだ運命の相手は勇者ジークのはずだが、実のところ英雄の権限でねじ曲げたお告げである。ジークが真実を言うべきか躊躇っていると、フィヨルドが自らの秘密を語り始めた。



「実は、オレ。ずっと隠していることがあったんです。正確には雷に撃たれた影響で、さっきまですっかり忘れていたんですけど。今更、こんなことを言っても遅いかも知れないし。神殿への告発になりかねないような内容ですし、本当は胸の内に収めておくべきかも知れないけど。ヒルデ嬢のことが心配で」

「ふむ。今は人命が優先だろうし、幸いワシは、人間達の利害関係とはそこまで関わりのない魔族医師だ。一体、どのような内容なのか聞かせてご覧」


 魔族医師は人命を優先して、一刻も早く『ヒルデと運命の赤い糸で結ばれた男性』を知りたいようだが。神殿への告発になりかねないという物騒な内容に、メイド達は一同ざわつき始めた。


「ちょ、ちょっとお待ちください。そのような大変なお話を私達のような平民のメイドが聞いて良いものか、どうか」

「そうですわ。ねぇお医者様、この場にはジークさんとこのメイド長が代表して残りますから。他のメイドは撤収ということで、良いでしょうか?」


 小国の第4王子であるフィヨルドや、英雄王の末裔であるジークは、多少なりとも権力が守ってくれる。そのため、神殿の秘密を握っても、大丈夫かも知れないが。平民出身のメイドとなると、秘密を握りすぎた場合は、命の危険が及ぶ可能性もある。


「あぁこの神聖ミカエル帝国は、神殿のお告げがとても重要な国なのですね。平民である者たちの身に何かが起こっても、良くないですし。では、一旦メイド長以外のメイドさん達は撤収してもらいましょう」

「そうですね、では。メイド長として指示いたします。他のメイド達はヒルデお嬢様のために、お粥作りをしてください。胃腸に優しい、チキンと卵のお粥をお願いね」

「はっ。畏まりました。失礼致します」


 貴族階級出身でルキアブルグ家とは長い付き合いとなるメイド長だけが代表して残り、他のメイド達は撤収となった。体裁上は、ヒルデのためにお粥を作るという名目で、席を外させたのだ。ルキアブルグ家には、他の名家に比べて砕けた雰囲気のメイドが多いが、さすがに神殿が相手となってはおふざけは通じない。


 他国出身の魔族医師もフィヨルドも、普段は気付かないこの『神聖ミカエル帝国の闇の側面』を見てしまった気がして思わず気が引き締まる。


 やがて、メイド達の撤収する足音が廊下から聞こえなくなった頃、フィヨルドがひと呼吸おいて秘密を語り始めた。


「では、オレが知っているお告げの秘密をお話致します」



 フィヨルドが語る秘密は、ジークが自身の英雄の権利で得たお告げに改変とも多少異なる内容のようだ。ジークは自分自身が新たな神となり、自らの運命を改変していた気になっていたが、実際は彼もまだ神殿の掌の上で翻弄されているだけだったのである。



「実は、ヒルデ嬢の本来の運命の相手は小国の第4王子であるフィヨルドだったんです。つまり、オレとヒルデが本来ならば、結婚するべき運命だったのですが。あの日の雷撃事件から、神殿の態度が変わってしまった。そうですね……オレが、初めてこの国を訪れたのは小学五年生の頃でした……」


 まるで遠い昔を振り返るように、真実を語り始めたフィヨルドに、ジークは内心ハラハラしていた。


(おいおい、いきなり記憶を取り戻したみたいだけど。フィヨルド君は自分が運命の相手だって認識していて、ヒルデと一緒に暮らしていたっていうのか。だけど、ならどうしてただの使用人兼お友達ポジションに、おさまっているんだ。神殿には、まだ僕の知らない秘密があるっていうのか)



 * * *



 自然溢れる小国の第4王子フィヨルドが、大国である神聖ミカエル帝国に招かれたのは、彼が小学五年生の頃だ。表向きは、彼の特技である知恵の輪大会に挑戦するという名目だったが。実のところは、神聖ミカエル帝国の大富豪であるルキアブルグ家とお見合いをさせるためだった。


「神聖ミカエル帝国のご神託で、フィヨルドと結婚するお嬢さんについて、名前が判明したというのよ」

「ご神託の結婚相手? でも、オレまだ小学5年生だよ、知恵の輪大会に出れるのは嬉しいけど」


 お見合いの話と聞いて、最初はあまり乗る気でなかったフィヨルド。なんと言っても、まだ彼は知恵の輪に夢中な小学五年の男子なのだ。いきなり、国がらみの重苦しそうなお見合いを押し付けられても、困るというもの。

 だが、彼の母親である第2王妃は、このお見合い話に希望を見出していた。側室の息子であるフィヨルドに、王位を継承できる可能性は極めて少ない。一応、継承順位は第4位ということになっているが、正室との間に弟が生まれたため、もっと順位は低くなることが予想された。

 ――やがて、半端な地位にいる彼の存在が、正室の子にとって邪魔となることも。


「もう、小学五年生だと考えるべきだわフィヨルド。ませている子は、中学生になると婚約者を作り、遊園地でデートをする子もいるそうよ。神聖ミカエル帝国は、小国の合併により発展した一大国家。我が国と違ってとても大きな国、いわゆる都会なの」

「都会か、うちの国も湖や雪景色の自然が綺麗だし、犬精霊も可愛い。建物だってオシャレなデザインばかりだ。そんなに、神聖ミカエル帝国に憧れの気持ちはないけど」


 フィヨルドの指摘は半分以上当たっていて、自然溢れる小国は土地などはそれほど大きくないが、美しい景観は世界の中でも誇れるものだった。大きな湖や街を歩くだけで広がる雪景色は、御伽の国のように素晴らしい。気軽にペットとして犬精霊を飼うものも珍しくなく、フィヨルドはいつも自分の国が自慢だったのだ。


「そうね、母さんも美しいこの国が大好きよ。ただ、あなたは第4王子、しかも王位継承権はそれよりも下げられる可能性があるわ。もしかすると、法律が変わったら……あなたは王子様ではなくなるかも知れない。だけど、神聖ミカエル帝国で公爵家に婿入りすれば、王族から抜けても良い暮らしが出来るわ。権力争いの輪から抜け出せる」

「権力争いの輪から、抜ける? つまり、この知恵の輪を解くように、しがらみから抜けるってこと」

「ええ。権力争いの輪は、ゴルディアスの結び目のように難しい知恵の輪だけど、きっとあなたなら解けるわ。なんたって、あなたは氷河の知恵の輪ハンターフィヨルド王子なのだから」


 この頃のフィヨルドは、好奇心が強く難解な知恵の輪を解くことに夢中だった。だから、最も難しい知恵の輪と思われるゴルディアスの結び目をどうしても解いてみたかったのだ。


(もしかすると、神聖ミカエル帝国に行けば『ゴルディアスの結び目』に挑戦出来るかも知れない)


「分かった、オレ。神聖ミカエル帝国に留学するよ。それで、知恵の輪大会に出て、優勝してみせる! 一応、そのお嬢さんとも会ってみるからさ」

「やる気になってくれて、良かったわ。フィヨルド! じゃあ早速準備しましょう」


 まだ神聖ミカエル帝国に希望を持っていたあの頃、フィヨルドの運命が動き始めたのである。


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