表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化け神さん家のお嫁ごはん  作者: 忍丸
朝ごはん
6/36

協力者、神使ふたり

 神使とは「神の使い」や「御先」とも呼ばれる、神様の眷属だ。多くは、神様と特別な関係にある動物で、哺乳類から鳥類、爬虫類、空想の生き物まで様々なものがいる。お稲荷さんなんかは、元々は神使であったものが、神様として祀られるようになったものだ。



つまり、ふたりは動物が変化したものらしい。凛太郎は狐、櫻子は狸。随分と長い間、彼らは朧に仕えてきた。屋敷のことは神使のふたりが取り仕切っているらしく、その下に面布衆がいる……というような構造らしかった。



 兎にも角にも、このふたりの助けを借りながら、朧の棲み家であるマヨイガで、新生活を送ることになったのだが……。



「いやあ! 旦那様、今日も浮かない顔でお食事を召し上がっていましたねえ」

「……」

「まあ、奥様もまだ屋敷の台所に不慣れでしょうし。仕方ないと言ったら、仕方ないのでしょうけども」

「……」



この屋敷で暮らすようになってから、数日。わかったことがある。



神使のひとりである凛太郎は、朧のことが大好きだということ。それこそ、恋をしてるんじゃないかってレベルに。その証拠に、朧の話を始めると長いし、熱量がすごい。



 朧の嫁になった私のことは、嫌ってはいないらしいが――。



「まあ、奥様の一番のお仕事は、子を成すことですから。それだけしっかりしてくだされば、僕はなにも言うことはありませんよ。たとえ、お食事が旦那様の口に合わなくてもね。ええ、もちろんですとも。はははー」



紺の作務衣を着た凛太郎は、眼鏡の奥から、含みのありそうな視線を送ってくる。お前は小姑かとツッコミたくもなるが、そこはぐっと堪える。何故ならば、放って置いても、すぐに凛太郎に天罰が下ることを理解していたからだ。



「まあ、あんまりにも不味いものばかりを出していたら、そのうち旦那様に奥様自身が食べられてしまうかもしれ……痛い!」

「まーた、凛太郎ちゃん意地悪言ってる。真宵ちゃんにそういうことばっか言ってると、お昼ご飯のお稲荷さん、二度と作ってあげないんだから〜」

「ひっ! 待て。冷静になるんだ、櫻子。話し合おう」



櫻子は、青ざめている凛太郎を丸々無視すると、私の頭を優しく撫でた。



「大丈夫? 凛太郎ちゃんが変なことを言い出したら、すぐに言うんだよ。あたしが助けてあげるからね」

「櫻子ちゃん……!」

「うふふ。真宵ちゃんはちっちゃくて可愛いねえ」



凛太郎とは対照的に、もう一人の神使である櫻子は、かなり友好的だった。

まるで気の置けない友人のように接してくれ、内心、櫻子の存在にはかなり救われていた。



 主の妻と、それに仕える者としての関係としては、正しいとは言えないかもしれないけれど、身分差なんてあってないような現代に於いては、別に構わないのではないかと思っている。彼女自身、身長が高めだからか、小さい、小さいと、頭を頻繁に撫でてくるのには困ったものだけれど。



 櫻子は、私の頭を撫でながら、少し太めの眉を下げて言った。



「凛太郎ちゃんは馬鹿だけど、悪い子じゃないから許してやってね。あたしたち、真宵ちゃんを歓迎してるんだから。それに、ふたりの子どもを本当に楽しみにしているんだよ。だから、遠慮なくなんでも言って?」

「はあ……」



――このふたりは、私と朧の関係が一年限定だというのは、知らないのだろうか?



恐らく、知らないのだろう。朧がどう思って、彼らに内緒にしているのかわからないが、私から明かさない方が良さそうだ。しかし、凛太郎はともかく、櫻子には随分と良くして貰っている。隠し事をするのは心苦しい。



――でも、期間限定とはいえ、ここで頑張るって決めたんだから。

 私は櫻子の腕の中から抜け出すと、神使ふたりに向かって言った。



「ありがとう。私、朧に満足して貰えるご飯が作れるように頑張るね」

すると、彼らは少しの間、互いに視線を交わしていたかと思うと、私に向かって力強く頷いてくれたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ