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作り上げていくこと

 生地が、耳たぶほどの柔らかさになったら、ラップをして休ませておく。

 その間に、具材の準備だ。真宵が育てた大きなかぼちゃの種を取り、一口大にカットしたものを、鍋で柔らかくなるまで煮ていく。お湯の中でゆらゆら揺れるかぼちゃは、家庭菜園で作ったとは思えないほど立派だ。



「粉吹き芋みたいに、水分をちゃんと飛ばしましょうね。柔らかくなったら、熱いうちに潰しておきましょう。次は、フライパンにごま油を引いて……」



 熱したフライパンにごま油が投入されると、ぷんと香ばしい匂いが辺りに広がった。嗅ぎ慣れた……けれども、何度嗅いでもいい匂いに、期待感が高まる。



「甘くして、お菓子みたいにしてもいいですけど、私は甘じょっぱいのが好きなので、ここでひき肉を投入します」



 用意したのは、豚ひき肉だ。それをフライパンに投入すると、じゅう、と軽快な音がして、油が少し跳ねた。



「あ、火傷に気をつけてくださいね?」



 その時、ふと真宵が口にした言葉に、俺は小さく笑みを零した。



「誰の心配をしている。気をつけるのはお前の方だ。今度また火傷をしたら」

「また、抱っこして庭に飛び出していくんですか?」



 すると、俺の言葉を遮って、真宵が楽しそうに言った。

 そして、あの時はびっくりしたんですよ、と苦笑を浮かべた。



「水なら、すぐそこにあるのに。血相を変えて走り出すんですもん」

「……あれは、慌てていたんだ。放っておいたら、痕が残るかも知れなかった」

「朧は心配性ですねえ」



 米粒みたいな火傷だったのに、と真宵はクスクス笑っている。

俺は、どうにも気恥ずかしくなって、全体的に色が変わった豚ひき肉を指差し、真宵に次の工程を強請った。



「はいはい。次は調味液を入れましょうね。お味噌に、お酒、砂糖、お醤油……それと、生姜のすりおろしをちょこっと入れたものです」



 それを、炒めたひき肉入りのフライパンに注ぐ。すると、途端に調味液の縁がグツグツと煮立って、辺りに味噌と生姜のいい匂いが立ち込めた。



「う~ん。いい匂いですね。やっぱり、おやきは味噌味ですよね……」



 真宵はうっとりと目を細めて、フライパンの中身を見つめている。そして、潰したかぼちゃを手にすると、俺に向かって言った。



「水分が飛ぶまで炒めたら、これと混ぜて、冷めたらお団子を作りましょう!」

「わかった」



 具材をすべて混ぜたものを、手で丸めて団子を作る。夏の終りに収穫したかぼちゃは、なんとも秋らしい黄金色。ピンポン玉くらいに丸めて並べると、言い知れない達成感がある。ボウルの中身を、全部丸め終わると、真宵は満足げに頷いた。



「あとは、生地で包むだけ――」

「おお。楽しそうだな。我も混ぜよ」



 すると、やけに陽気な声が外から聞こえて、俺は顔を顰めてそちらに視線を向けた。見ると、格子窓越しに、獣頭の神が覗き込んでいる。砂漠の太陽みたいな色をした瞳を、キラキラと少年のように輝かせた異国の神は、軽い足取りで台所に入ってくると、真宵に向かって言った。



「いいであろう? 我もやりたい。我もやる。我にもやらせろ‼」

「……駄々っ子の子どもですか⁉」

「ほほう。今の言葉、もう一度言って貰おうか」

「い、いいえ⁉ 失礼しました‼」



 真宵は、自分が相対しているのが神だと思い出したのか、慌てて謝ると、手ぬぐいを渡して手を洗うように促した。すると、満足げに頷いた獣頭の神は、逞しい褐色の胸を張って、やたら偉そうに笑った。



「素直に、一緒にやってくださいと言えばいいものを。まあ、よい。人の作る飯は美味いからな。どうやって作っているのか、いつも興味深く思っていたのだ」



 シンクに向かいながら、獣頭の神は、ちらりとこちらに視線を向けると、意味ありげに目を細めて言った。



「きっと我の方が、そこの引きこもりよりも、上手くできるであろうしな。ふふ、朧よ。お前の悔しがる顔がありありと思い浮かぶぞ。どちらが上手か競争しようではないか! まあ、我の圧勝であろうがな!」

「断る」

「こんなので、勝負しても仕方ないと思いますけど……」

「遠慮するな、朧よ! 負けるのが怖いのは理解できるが、神とは常に争うもの。敗北を畏れることはない。そうだろう? 友よ」



 ――この馬鹿。どうして、俺に対抗心を燃やしているんだ……。



 頭を抱えたくなって、思わずため息を零す。そう言えば、この神には負けず嫌いなところがあったことを思い出す。

 誰よりも優れていること、それがモットーだといつか言っていたような気もする。だが、普段からふんぞり返って給仕を受けているばかりのコイツに、料理などできるはずがない。トラブルにならなければいいが……。



 ――真宵に迷惑をかけたら、友だとしても許さぬぞ。獣頭の。



 そう心の中で呟いて、手を洗うだけだというのに、水滴をあちこち撒き散らして、真宵に注意されている友の後ろ姿を眺めた。


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