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続のら犬  作者: 田村弥太郎
7/7

復帰

⑤復帰

 翌日、中田は大きめのアタッシュケースを手にして出掛けた。入っているのは、バナナとレタスとマヨネーズ、今日の昼飯である。

 久しぶりに机を前にした。

「行方不明で、何してたんですか」

 同僚たちがかわるがわる、笑いながらやって来る。

 当然ながら仕事は皆、震災復旧を優先する。

 まず、基地局の被害状況の調査、そして原状回復である。ただ、中田が現地に行くこと少ない。施工会社の調査の分析、判断を行う。

 中田がいない間、同僚たちは基地局への発電機の持ち込み、それへの昼夜問わずの給油も併せて施工会社と行っていた。

 施工会社には、調査中に遺体を発見して警察の聴取を受けたものいた。

 過去に中田の担当した基地局は鉄塔ごと流され、現地に行けば近くの土地所有者の家もなくなっており、その生死は中田も分からず気が落ち込む。

 本社からも応援部隊が来た。そして物資として、水、フリーズドライの食品、はては生理用品まで届けられた。

 中田の担当の中で、特筆だったのは太平洋沿岸にある小さな島だった。その漁港には小さな基地局があった。

 本来、中田の担当ではなかったのだが部材を運ぶ手立てがつかず、中田にまわって来たのだった。

 中田は調査書を見た。アンテナのついたポールは流され、沈下により、その基礎は海面下に写っていた。

 中田は工事には行こうと思った。そこは小学生の時に過ごした島だった。

 工事費は、小型基地局にしては法外になる。島に部材、重機を運ぶには台船「物を置けるように四角く平らな面を持つ」が必要で、それは高騰していた。

 中田は上に根回し、予算を承認させる。中田が住んだ島とは言わなかった。


 工事の最終日、中田は朝早くチャーターした漁船に乗り島に向かった。約ニキロ、コンクリートの岸壁だけが残る港に立った。三十年以上経つ。港の光景を想いだしながら辺りを見回した。総て無くなっていた。幾分高い場所にあった寺まで。

 津波がどこまできたかは、草木が枯れた線がきれいに出来ている。島の中央の標高が一番高く、そこに残った数世帯の仮設住宅が出来ていた。

 基地局は近くに建つ。そして小中学の同居する二階建ての建物があった。学年一クラス、小中併せて九クラス、その他関連する各に体育館、給食の調理室がある。人影はない。

 中田は玄関を覗きこんだ。昔と変わらない。玄関にあるガラスケースには変わらず、父兄が寄付した赤珊瑚とノコギリ鮫のノコギリ部が飾られていた。

 中田は竣功の検査をし、無線機の電源を入れた。中田は、電波強度の測定器を持ち込んでいた。島中を歩き回り、その強度を測定した。

 帰りに再び漁船に乗る。

「昔、ここに住んでいたんですよ」

 中田は船長に言った。

「いつ頃」

 船長の問いに答える。

「それなら、知っている奴がいる」

 中田は「でも、いいです」と言い、陸に上がる。

 陸から見える島は、緑に覆われ昔のままである。


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