初日
「どうしたんですか。崎田さん」
「ちょっと、新しいプロジェクトが始まるから」
「年度明けからなら」
「社員でもいいですよ」
「俺には、無理」
「わかりました。用意します」
中田は、キャリアと取引のある会社からの出向となる。
初日、中田は遅れてフロアに入った。朝、新しく入った者は皆の前で紹介されるのを知っているからだ。
フロアから離れた喫煙所で時を待った。
たまたま、女子社員が通りかかった。顔見知りだった。
「中田さん!」
女子社員が驚く。
「久しぶり。悪いけど、崎田さん呼んでくれない」
直ぐに、崎田は現れた。
「いやぁ、来ないんじゃないかと」
崎田は笑いながらも、困った顔をしている。
フロアに入ると、中田の顔を見て驚く者、笑顔を向ける者。
「中田さんの席はそこです」
中田は誰にも挨拶する事なく躊躇なく座る。パソコンが一台置かれている。
部署は建設とは変わり、基地局間のネットワークを管轄とする部署である。
中田は素人の部門である。崎田が言うには、初めて採用する伝送設備について、仕様を作り施工会社、ベンダーと折衝する。中田は崎田から概要を聞いた。特に不安はない。
「中田さんの好きにしていいですよ」
崎田は言った。