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第九十三章 12200623

運命の朝。雲行きの怪しい朝だった。


「なんだか不吉な感じね」


冴子は戦いに赴く真音達を案じて言った。

気温は今年最低、雪は降ってないが時間の問題にも思える。


「いよいよ決戦か………」


トーマスも今日は口数が少ない。


「俺達………生きて帰って来れるかな………」


不安と緊張に縛られ、真音も口数は多くない。


「俺達が生きて帰らなかったら、それは世界の終わりを意味する」


二ノ宮が真音だけでなく、全員に告げた。


「絶対生きて帰るんだ」


石田は前向きな言葉で励ました。

場所は空港。ここから二度、戦地に向かった。一度目は地図にない島へ、二度目はレジスタンスを壊滅する為イギリスへ。そして今度は再び地図にない島へ向かう。

思えば行動範囲は狭かった。もっとあちこちに出向く事になるのかもと、誰もが思ったはずだ。

だが、長かった。失ったものも犠牲を払ったものも大きい。

誰一人欠ける事なく戻って来たい。

軍用ヘリのエンジン音が、戦士達の緊張を台なしにする。


「いよいよね」


エメラが自分の覚悟を確認するように言った。


「じゃ、行きましょ」


場の雰囲気を軽くしようと思ったのか、あっさりと出発を言い切る。


「待って。もう一人、仲間が加わるわ」


冴子が出発を遮ると、誰もが怪訝な顔をした。


「仲間?聞いてないぞ」


二ノ宮が冴子に言う。計画の全てはこの二人が主導して来た。つまり、暗黙の信頼関係がある。だから二ノ宮は自分の知らない事などないと思ったらしい。


「あっ!」


そうすると、真音が黒いコートを着た黒人を見つけて声を上げる。


「あいつ………」


トーマスも目を疑った。


「オリオンマン………」


石田は当然、聞いていない。

オリオンマンはどこかの国の国家機密でも守るエージェントのようにかなりキマッている。

ただ、コートの中はスーツではなく、特殊部隊の恰好ではあるが。


「何しに来た?故郷くにへ帰れと言ったはずだ」


二ノ宮は嫌って言ってるわけではない。オリオンマンは純粋過ぎる。だから世の仕組みの一つ一つに傷ついてしまう。メロウを失い、絶望の淵にいる彼を巻き込みたくはないのだ。


「メロウは大切なパートナーだった。破天荒で気性の激しいヤツだったが、私に人間らしさというものを教えてくれた。彼女が殺されたまま村に戻っても、私は一生を後悔する。どうしても………メロウを殺した奴に復讐したい」


オリオンマンの中でメロウが大きな存在だったのだと知る。それは真音やトーマスも同じ気持ち。仲間と呼ぶには十分な理由だった。


「お前の口から復讐なんて言葉が出るとはな」


二ノ宮も同じ。ただ素直になれないだけ。


「なんとでも言え。お前らの為に戦うわけじゃないんだからな」


「ガーディアンもいないのにどうやって戦うつもりだ?」


二ノ宮が言うと、オリオンマンは何も言わずに瞳をプリズムに光らせた。


「ヒヒイロノカネ…………」


リオが言った。

 どういう事かは、語る必要はなかった。


「本部長!」


石田は冴子の仕業だと悟って責めようとしたが、


「これは彼が望んだ事よ。人類の未来が賭かった戦いだもの、一人でも戦士は多い方がいいでしょ?それと………」


冴子は石田を睨み、


「今の役職は指揮官です。本部長ではなく、指揮官と呼びなさい」


凄んで見せた。

 もちろん悪意はない。


「さあて、そんじゃ行くか!」


トーマスが仕切直すと、真音達もそれに続きヘリの中へ乗り込む。


「今度も一日でカタをつけて来るのか?」


石田は二ノ宮に聞いた。


「それは俺にもわからん。もっと早く終わるかもしれないし、もっとかかるかもしれない。いずれにせよ、お前ら『公共機関』にはやってもらわねばならん事がある」


「パソコンを見ろって言ってた事か?」


「そうだ。眠れる獅子の能無し幹部共が儚い夢を仰いでる間に調べておいた。正確にはリオが調べてくれたんだが」


「それは眠れる獅子でなきゃ出来ない事なのか?」


「国連の傘下になったとは言え、まだ明確にされてないだろう?職権の範囲が。国連みたいに議会が先になっていては手遅れになる」


「一体何が………?」


「説明するのが面倒なんだよ。自分の目で確かめろ」


命令する言い方とは違う。親友だからこそ、見ればわかると信じて言っているのだ。


「じゃ、行ってくる」


二ノ宮は背を翻しヘリへ乗り込む。

ドアが閉まりプロペラの回転が速くなる。


「中川指揮官」


「え?あ、何?」


ヘリを見つめたまま石田が冴子に声をかける。

ヘリはホバリングを始め、やがて雲行き怪しい空へと飛び立って行った。


「石田君?」


見送る石田の表情は厳しくも、何かを思い詰める表情だ。


「折り入って頼みがあります」


「あ、わ、私?」


改まって頼み事など、石田にされた事はない。

石田は、見えなくなったヘリの行く先を見守っていた。


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