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第九十一章 夢への想い

「本当にいいのね?結果は保証出来ないわよ?」


冴子は念に念を押した。


「お前達に使われてしまうくらいなら、私が全て引き受ける」


周りには白衣を着た研究員達が十人ほど。その中にオリオンマンはいた。


「あまり気は進まないけど」


「そのヒヒイロノカネは元々メロウのものだ。パートナーの私がどうしようと言われる筋合いはない」


オリオンマンの望みはガーディアンとしての力を得る事。その為の措置を取れと言っているのだ。目の前に注射器に液状で入ったヒヒイロノカネがある。


「わかったわ。そこまで強く望むなら。そのかわり、私達に協力してくれる事、忘れないで。それと、戦いが終わったらヒヒイロノカネは抜き取って廃棄させてもらう。いい?」


「好きにすればいい」


「ならすぐに始めましょう」


冴子が研究員達に目で合図すると、一斉にオリオンマンを俯せに抑え込む。


「おい!もう少し優しくしたらどうだ!」


乱暴な扱いにはなっているが、当然理由はある。

研究員の一人がヒヒイロノカネの入った注射器を手にする。


「しっかり抑えて!」


冴子も加わり、オリオンマンの手を後ろに回して手錠をはめる。


「今よ!」


ヒヒイロノカネの融点は39℃。かなり熱い液体が、オリオンマンの髄液に混入される。


「ぐわああああああああああああーーーーーーっ!!!!!!!!!」


暴れ出すオリオンマンはもはや野獣。望んだ事とは言え、さすがに耐えられなかった。

剥いた白目がプリズムに輝き出す。それはオリオンマンにガーディアンとしての力が備わった瞬間だった。










マイペースなトーマスは嫌いじゃない。いつも何かに熱心で前向きな横顔は、エメラにとって大切なものだ。眺めているだけで幸せだと思える。

ただ、今はトーマスにどうしても聞いてもらいたい事があった。


「ねぇ………トーマス」


「あん?」


珍しく本に読み入るトーマスは、片手間の返事を返した。


「この戦いが終わって、生きて帰れたとしても……」


「ん?」


相当面白いのか、トーマスが読んでいる本のタイトルを覗く。どうやらファンタジーの漫画のようで、推測するに技のバリエーションを増やす為にアイデアを求め読んだのが、ついついストーリーにハマったのだ。

少しカチンと来たが、冷静に話を続ける努力を試みる。


「んんっ……ガーディアンでいようかと思ってるんだけど」


「なんで」


「な………なんでって………」


「しっかし、さすがジャパニーズコミックだぜ!こういう展開に持って行くかあ?」


「……………………………………………………………。」


プルプルと握り拳が震える。

現在、エメラは葛藤中。


「ほら、主人公が裏切る…………ん?どうした?恐い顔して」


そして自爆するバカ。


「ト…………ト…………トーマスーッ!!!!!」


「え?」


エメラの拳が炸裂した。










「イテテ………」


「人の話聞かないからよ」


情け容赦のないエメラの攻撃に、ようやく反省して話を聞く気になった。


「だからって殴る事ないだろ。馬鹿力で」


不適切な発言に、エメラはギロッと睨む。


「いや………わ、悪かったよ」


「全く………」


最近、エメラが感情を表に出すようになったのは悪くはないのだが…………。


「ちゃんと話聞くから。ほら、ここにコミック置くし。な?」


まるで撃つなと言わんばかりの態度をとるのは、彼なりの反省の証拠。


「はぁ………まあいいわ」


仕切り直しの咳ばらいをして、新たに話を切り出した。


「じゃあもう一度。私、戦いが終わってもガーディアン・ガールのままでいようかと思うんだけど」


「はあ?な、なんでだよ?ヒヒイロノカネは取り出せるって、お前も聞いたじゃないか」


改めて聞くと、待ったをかけたくなる事を言っている。

普通の人間に戻れる事は、エメラにとっては嬉しい事のはず。


「それはわかってる。ただね、リンダの治療費を考えれば、このまま私がガーディアンでいた方が都合がいいと思って」


トーマスの表情が曇った。


「どういう意味で言ってんだ?」


「私とディボルトしてれば、マジシャンとして苦労しないでお金を稼げるわ。たちまちトップスターになって、リンダもいい治療を…………」


「ふざけんな!!」


「!!」


「お前………間違ってる。苦労しないで金を稼ぐだって?ナメんな。マジックってのはトリックがあって成り立つもんなんだ。トリックのあるもので、いかに魅了するかが腕の見せ所なんだよ。ディボルトした力でマジックなんかやったら…………詐欺じゃねーか」


「でもリンダが………」


「そんなやり方で稼いだ金で治療したって、リンダは喜ばない」


「それはわかってるけど………!」


「わかってねーよ!リンダは………リンダは俺とエメラが、いつか舞台に立つ事を夢見てんだ。俺がマジックをやって、それをエメラがアシスタントする。二人で舞台に立たなきゃ意味がねーんだよ………」


「トーマス…………」


悲しげな表情をしたトーマスに、胸が痛む。それは自分が大きな罪を犯したのだと、トーマスを深く傷つけたのだと刻まれた刻印の痛み。


「でも……マジシャンはトーマスの夢でしょ?私の口から言う事じゃないかもしれないけど、リンダの治療費を稼いでたら夢のままで終わるかもしれない。それでもいいの?」


好き故に、夢を捨てて欲しくないのは女心。


「夢ってのはな、苦労して掴むもんだ。俺はインチキはしたくない。もし、リンダの治療費を稼ぐ事で諦めざるを得なかったとしても、リンダと…………その……お、お、お前がいればまた別の夢を見つけるさ」


顔を真っ赤に染めたトーマス。だが、エメラの心には十分に響いた。


「トーマス」


「なん……だ………」


頭脳的で冷静なエメラが、女として始めて感情に逆らえずにトーマスの唇を奪う。

ナノビートをトーマスに注入する時のキスとは違う。義務でなく、与えられた権利を行使しただけなのだから。


「好きよ」


「バ…………バカやろう………」


夢は誰にでも見る権利がある。

しかし、見る夢は違えど歩む道の険しさは等しい。

その多くは挫折で終わるが、だからこそ苦労する意味があり、叶わず諦めたとしても、成長という参加賞と更なる挑戦への道を歩く権利を得られる。

人の歴史など、人が見る夢で始まり人が見る夢で終わるものなのかもしれない。


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