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第八十九章 パンドラボックス

「赤木……………」


美紀はまだ目を覚ましていない。熱も下がらずにうなされている。

こうしてガラス越しで見ているしかない自分が、真音には情けない。


「三日間、ずっとこうして過ごすつもり?」


「エメラ…………」


「お友達が心配なのはわかるけど、命に危険があるわけじゃないのよ?今から気持ちを切り替えなきゃメビウスと戦えないわ」


言われなくてもわかっている。だからと言って、特にやらなきゃならない事もない。今はガラス越しであっても、美紀を案じている事で気持ちを落ち着けられる。それだけだ。


「わかってるよ。トーマスはどうしてるんだ?」


「トーマスなら二日間は目一杯特訓するんだって。残り一日は寝て過ごすって言ってた。あなたは何かしなくていいの?」


「する事なんて何もないよ。トーマスと違ってタフじゃないし、どちらかと言えば精神が落ち着いてる方が戦いにもいい影響を及ぼす。だから何かをしようとは思わない」


「そ」


気持ちが高ぶるからと言うよりは、めぐみと美紀、ジルとロザリア、そして行方知れずのダージリンの事で落ち込みがちになっているから。

目指していた目標は三日後に到着出来る。不安はあるが、ずっと目指していたのだ、不服などあろうはずもない。

せめて、誰も傷つかないでいてくれたなら。無理だとわかっていても身勝手な祈りと自責を繰り返す。


「ジルは大丈夫かな………」


意識不明と聞いてから何も聞いてない。石田はダージリンの仕業じゃないかと言っていたが、一体何があったのか。


「あの女は簡単に死ぬようなタマじゃないわ。戦いが終われば会いに行けばいいじゃない」


「そうだね」


質問してもエメラは冷たい反応しかみせない。理由はエメラの方が真音に用事があったからだ。


「あなたさぁ………ユキの事どう思う?」


「な、なんだよ、いきなり」


始まろうとしている会話が視認出来ない。


「あの子のリオってガーディアンに対する態度………気になって」


「そ、そうか?いつもあんなだけど?」


「そうなんだけど………やたらと敵意があったように思えて」


言われてみれば確かに。


「そういえば、前に廃工場で二ノ宮さんとロザリアに助けられた時、エメラ、Type−Ω(オメガ)は廃棄されたって言ってなかった?」


「そうよ。それがどうかした?」


「でもリストにはちゃんとType−Ω(オメガ)って記されていた。知らなかったってのはおかしくないか?」


「だから不思議に思ってたの。ロザリアを見た時は驚いたわ」


「メビウスの事は?君達ガーディアンはどこから来たのかも知らなかったんだろ?疑問に思ってたんだ」


「あのね、知ってるでしょ?私達はメモリーが曖昧にされてるの。必要最低限の記憶しかないのよ」


少しきつめの口調で言った。そんな事を今更、根掘り葉掘り聞かれても困る。大体、質問してるのは自分なんだと言ってやりたかった。


「ご、ごめん」


「全く………私達は自分の故郷すらわからないって言うのに………」


「そうだったね、ガーディアンはそもそも拉致され………て…………」


言いかけて、真音は気付いてしまった。まだユキと出会ったばかりの頃にユキが言っていた事。その矛盾。


「どうしたの?」


強張る真音の表情にエメラが水をかける。


「エメラ………ガーディアンって人間なんだよな……?」


「そうよ」


「………………………ゴメン」


「あっ!」


真音はエメラの前から突然走り去る。


「………な、何?」


取り残されたエメラはキョトンとし、真音の胸には嫌な予感が去来していた。まるで開けてはいけないパンドラボックスを手に入れてしまったかのように。

いや、パンドラボックスは最後に希望を残していた。しかし、真音が手に入れたパンドラボックスの底には………希望はないかもしれない。

希望のないパンドラボックス。開けずにはいられない人間のさがに、真音は逆らえずにいた。


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