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第八十七章 未来への切符

こんなに後のない行動を起こすのは初めてだ。石田は拳銃を懐へ忍ばせオフィスを出た。

冴子の死の真相が知りたい。それが片付かなければ次のステージには行けない。

正直なところ、二ノ宮に触発されたのもある。


−死ぬ気で自分の人生に向き合ってみろ−


「フン、言われたくねー」


逃げてたつもりはなかったのだが、二ノ宮がロザリアを失ったと知った時点で、戦う事を諦めてしまっていた。もうどうする事も出来ないと。

二ノ宮はまだ諦めていない。マスターブレーンを破壊し、博士…………メビウスを倒すつもりだ。

ならば、それまでに………二ノ宮が動き出す前にケリをつけなければならない。

ヘマをすれば………なにもかも終わる。

気を引き締め、石田は眠れる獅子を牛耳る連中がいる部屋のドアを開けた。


「失礼します」


いた。相変わらず腹が黒そうな十人が。


「なんだね君は!」


何を談話してたのか知らないが、いきなり怒鳴る辺りは人に言える話ではなさそうだ。


「確か石田………君だったかね?」


実質リーダーの男が石田を睨む。さすがに眼光紙背に徹した眼差しは石田の緊張を高めた。


「覚えていてもらって光栄です」


「どうしたのかね?恐い顔をして」


「皆さんにお聞きしたい事があります」


さあ……どう出て来るか。


「中川本部長が殺されたと聞きました。ですが通夜もなければ直属の部下達に詳しい情報すら降りて来ません。なぜです?」


理由は知っている。馬鹿にされてるのだ。下の者達に回りくどく工作する気もない。だから直球で勝負する。


「なんだ、その事か。それについては捜査中だと伝えたはずだが?」


「捜査中………ねぇ。フッ、どうせうやむやにするおつもりなのでしょう?」


「どういう意味だね?」


「あんたらが殺ったのはわかってんだ。はっきり言えよ」


「貴様ッ………なんだその口の利き方は!!」


「うるせぇっ!だいたい『なんだ』とはなんだ!人の命を弄びやがって!」


どうにも器用に立ち回れない。怒りを堪えきれずにブチ切れてしまう。こうなれば行き着くとこまで行くしかない。


「石田君、信頼する上司の死に混乱するのはわかるが、少し落ち着きたまえ」


「落ち着けるか。答えてもらおうか、殺ったのはあんたらが指示を出したんだろ!」


スーツのボタンを外す。いつでも拳銃を取り出せるように。


「……………なんの証拠があって言ってるのかね?」


リーダーの男は石田に出方を委ねた。残りの九人もリーダーの男に任せて黙っている。


「んなもんはない」


「話にならんな。帰りたまえ。君の処遇を検討せねばならんようだしな」


「処遇を検討されるのはあんたらだ」


石田は拳銃を取り出した。


「なんの真似だ?」


「決まってんだろ!答えないのならここであんたらを殺す!」


「そんな事をすれば君もただでは済まんぞ。後先考えての行動なんだろうな?」


「黙れ。本部長は組織に疑問を持っていた。それはあんたらも気付いてたはずだ。オリオンマンのガーディアンから得たヒヒイロノカネの研究。他のガーディアンの身体検査。眠れる獅子には不要の研究だった。それを本部長に問われ、邪魔になって殺した。違いますか?」


しばし睨み合う。勘の鈍い石田が珍しく鋭い洞察をしてみせた。


「そこまで推察しているのならしかたない。その通りだ」


「薄汚い奴らだ」


拳銃のリボルバーがカチカチと回転する。引き金に指が触れると、


「残念だよ石田君。君にしても中川君にしても、優秀であるのに乱心するのだからね。出来る事ならもっと賢く立ち回って欲しかった」


リーダーの男は赤いボタンのついたリモコンを取り出し、ボタンを押す。すると、警報ブザーが鳴り響いた。


「観念するのだな。逃げられんぞ」


勝ち誇ったのは十人の幹部達。

警報を聞き付けた兵士がやって来るのだろう。そのくらいは勘に頼らずともわかる。

せめて一矢。そう思って引き金を弾こうとしたが、違和感に感づく。それは幹部達も同じだった。


「おい、誰も来ないぞ!?」


「何をしてる!早く来い!」


「妙だ………胸騒ぎがする」


警報が鳴って一分は経った。いい加減誰か来てもいい頃合いだ。なのに、ネズミすら現れない。


「…………………。」


石田にも何が起きたのかわからない。ただ呆然と自分が入って来たドアを見る。

本当に誰も来ないのか?

 すると、いきなり大勢の、マスクを着けた特殊部隊とわかる出で立ちの輩がなだれ込んで来た。

石田は思わず拳銃を向けるが、特殊部隊の人間に腕を掴まれ、


「落ち着いて下さい!石田さん!我々は味方です!」


「何……?」


後ろを振り返ると、幹部達一人一人に銃が突き付けられている。


「後先考えて行動しなさいって、いつも言ってるはずよ」


ふと聞き覚えのある声がした。


「ほ………本部長!!」


石田が見たのは冴子だった。


「無茶し過ぎ」


「ど、どうして……?死んだんじゃ………」


冴子はニコッと笑って石田を通り過ぎる。そうだ、まずは引導を渡さねばならない連中がいる。


「馬鹿な………」


リーダーの男が呟いた。


「あなた達の悪行もこれまでよ。職権乱用、殺人教唆、横領、収賄、挙げればきりがないほどの犯罪の容疑で全員、逮捕します!」


前言撤回。勝ち誇ったのは冴子だった。


「ふざけるのはやめたまえ!なんの権限があって私達を逮捕するんだ!」


そう言われて、冴子は丸まった厚手の小さい紙を取り出して見せてやる。


「それは…………!!」


「今日から眠れる獅子は国連の指揮下に入ります。そして、私は眠れる獅子の総指揮官に任命されました」


幹部達は肩を落とし崩れ落ちる。もう何も言う気力は残ってないらしい。


「連行しなさい!」


冴子の号令に部下達が機敏に行動する。


「ま、待て!なんで………なんで生きてるんだ?」


リーダーの男が最後の晴れない疑問をぶつける。

それに答えたのは、


「そりゃあ殺されなかったからでしょ」


正之だ。


「お前………裏切ったのか!」


「人聞きの悪い。俺は最初から眠れる獅子の監視に来てたんですよ。特にあんたらの」


「ス………スパイだったのか………」


「国際連合情報監視課所属です」


正之はバッジを見せた。


「やられた…………」


まんまと騙された十人の幹部達は、抵抗する事もなく連行されて行った。


「正之………お前………」


石田も呆気に取られたままだった。


「すんません。騙すつもりはなかったんですが、これも仕事でして」


「あの連中を取っ捕まる為に、一芝居打ったのよ」


冴子が成り行きを簡潔に説明した。


「だからって俺まで騙しますか?」


なんとも煮え切らない石田が不満を挙げた。


「しょうがないのよ、国連に状況説明して作戦練って………数日でカタをつけたかったから、石田君にまで事情を説明出来なかったの。ごめ〜んね」


「……………恥ずかしくないですか?」


おどけた冴子に仕返ししてやる。


「何よその言い方!」


「まあまあ二人共」


宥める正之を二人が睨む。


「でも………」


石田は一呼吸置いて、


「生きててくれてよかったです」


そう告げた。


「ありがとう。石田君もかっこよかったよ、『処遇を検討されるのはあんたらだ!』」


冴子は石田を真似た。


「き、聞いてたんですか」


「盗聴は私達スパイの基本よ」


ウインクをかましてイヤホンをぶらぶらさせる。


「全く………人が悪い」


「そう言わないの。でもこれで一段落ついたわねぇ」


レジスタンスは壊滅、眠れる獅子も自分の指揮下にある以上は道を逸れる事もない。冴子の胸には久方の安堵がもたらされた。


「後はマスターブレーンの破壊………」


石田は握っていた拳銃を見ながら言い、冴子は窓の外を見つめる。


「神様なんていらない。私達の未来は私達で創るのよ」


人は人である限り愚かさを捨てられない。だからこそ未来を目指す。そこが楽園であるようにと。


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