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第八章 変わり始めた世界

昨夜、石田と名乗る男に声をかけられた真音は選定者リストを見直していた。


「やっぱりそうだ」


真音は石田に警察のバッジと写真を見せられた。写真には青いレンズの眼鏡をかけた男が写っていて、


「名前は二ノ宮って言うんだが………知らないか?」


そう言っていた。知り合いに二ノ宮なんて奴はいない。でもなぜか知ってる気がして、もしやと思い選定者リストを見るに至る。


「何がやっぱりなの?」


ユキはケーキを頬張りながら聞いた。もうすっかり如月家に馴染んでいて、なんら違和感なく生活していた。


「これだよ。『第6選定者 二ノ宮誠一』。どっかで聞いたような名前だと思ったんだ」


選定者リストには、選定者の名前と国籍のみ。ここのところの妙な忙しさで、同じ日本にいる選定者の名前すら頭に入ってなかった。


「で?その石田って刑事はなんで第6選定者を探してるの?選定者の事を警察が知ってるはずがないもの」


「いや、なんでも最近この街に赴任して来たばかりで、たまたま歩いてた俺に声をかけたらしい」


「じゃあ第6選定者もこの街の出身なの?」


「そこまではわからないけど、なんだかいろいろ話してさ、メールアドレス交換までしちゃった」


刑事との交流が真音にはよほど嬉しかったようで、笑顔を惜しまず話す。


「はあ?真音、あなた何考えてるの!」


「な、なんだよ………」


ケーキは最後の一口がまだユキの口の中に残ったままだ。


「警察がなんで真音のメールアドレスなんて聞くのよ?明らかに怪しいじゃない!」


もっともだ。


「そんな事ないって。いい人だったよ。三十歳くらいのスラッとした。フレンドリーだったし」


「そういう問題じゃないの!なるべく警察のような機関には関わって欲しくないのよ、行動しにくくなるじゃない!」


「何言ってんだ、選定の儀は世界の権力者が仕切ってんだろ?だったら警察くらいなんとでもなるんじゃないのか?」


「それは………まあそうだけど」


真音には選定の儀をこなす気などない。ジルやトーマス、他の選定者を説得して選定の儀そのものを無くそうと思っている。

その決意は固く揺るがない。今のところは。


「心配する事ないって。二ノ宮って人を追ってるなら、むしろ好都合じゃん。ガーディアンを送り込んで来る得体の知れない組織より、新鮮な情報を仕入れる事が出来ると思うよ」


「でもタイミングが良すぎない?」


「警戒はしとくよ」


例え日は浅くとも、共に生活をする事で二人の間の壁は少しだけ低くなったようにも見える。

何もない日常の大切さの恩恵だろう。


「ねぇ、真音」


「ん?」


「あの赤木って女、真音の何?」


「赤木?ああ部活の仲間だよ。なんで?」


「ううん。別に」


ユキも自分でどうしてそんな事を聞いたのかわからないでいた。

パソコンをカタカタといじる真音を眺めながら考えていると、


「マジかよ……」


「どうかした?」


真音が食い入るように見てるパソコンの画面を覗き込む。


「世界中の首脳が次々と暗殺されてるって…………」


真音が見ていたのはニュース。毎日インターネットでのチェックが日課だ。


「次々って…………」


ユキに一抹の不安が過ぎる。


「選定の儀と何か関係があるのかな?」


「わからない。でも………ただ事じゃないわ」


無論、ただ事では済まされない事態だ。

その時、真音の携帯が着信音を鳴らす。


「あっ!石田さんからメールだ!」


パソコンをいじる手を携帯に変える。


「なんて?」


「今から会えないか?だって」


「………行くの?」


「まだ夕食前だし、行ってみるよ」


すかさずコートを着込む。


「そこらへんのもの勝手にいじるなよ」


ユキに釘を刺して出て行った。










「ええ。返事が来て会ってくれるそうです。」


『ガーディアンがいた場合は気をつけてね。彼女達は人間離れした能力があるらしいから』


「わかってます。そろそろ来ると思いますんで切りますよ」


『お願いね』


電話の向こうの女性上司の厳しい表情が思い浮かんで来る。


「…………人使いが荒いんだよ」


石田が愚痴を零してると、真音が来た。


「やあ。悪いね、急に」


「いいえ。暇してましたから」


ガーディアンらしき女はいない。石田はさりげなく目を配らせ確認した。


「夕食は済ませた?」


「あ……まだです」


「何か食べようか。俺もまだなんだ。」


一応、大人らしく振る舞う。


「じゃあ遠慮なく」


若い少年の笑顔に石田も満足する。そして向かう先は………………ファミリーレストラン。










真音の前にはステーキが、石田の前には…………オムライスが置かれた。


「いいんですか?僕だけステーキだなんて」


「食べ盛りだろ、たらふく食べな」


給料日が毎週あったらいいのにと思った。

「いただきます」と言って惜しみなくステーキを切り、言葉通り遠慮なく食べ始める。


「ほういえばはなひってなんれすか?」


「おいおい、ちゃんと飲み込んでから話せよ」


言われた通り飲み込む。


「話ってなんですか?」


食事が終わってからでもいいのにと思ったが、真音はまだ未成年だ、長い時間の拘束はあまり褒められない。


「実はだな、最近この街で何か変わった事ないかい?」


「変わった事………ですか?」


真音の手が止まる。


「昨日見せた写真の男。殺人犯の可能性があってね、この街に来てる事は裏が取れたんだ。間違いなく潜伏してる。でもいざ捜索すると、組織を上げても見つけられない。情報が足りないんだ」


情報が足りない。確かに逃走を試みて捕まらない奴はいる。でも写真の二ノ宮という男は、見るからに派手好きな顔をしている。歳は三十一でありながら、横に跳ねた髪に青いレンズの眼鏡、ピアス。地味な格好で逃げ回るタイプではない。


「警察に情報が足りないなんて事あるんですか?」


二ノ宮は選定者だ。石田が彼を追い、真音に接触するのはやはり不自然だとユキは言った。

真音に出来るのは白々しくあれこれ聞く事だけ。


「まあいろいろあるのさ、警察にも」


オムライスを平らげ、水をがぶ飲みする。


「如月君、俺を疑ってんだろ?」


ぎくりとする。


「ハハハ。顔に書いてあるよ。無理もないか、明らかに怪しいもんな、俺」


そう言って背もたれに身を任せ踏ん反り返る。


「明日にでも暑に来るといい。そうすれば疑念も晴れるだろ」


「まあ………」


そこまで言うからには本当に警察の人間なんだろう。


「おっ、暑から電話だ」


おもむろに携帯を取り出して通話ボタンを押す。


「はい、石田。……………わかりました」


呆気なく電話を切り、


「悪い、事件らしい。支払いは済ませておくからゆっくりしていけ」


伝票を取り、真音の肩を叩くとレジへ向かう。


「石田さん!」


呼び止める真音に手を振り、それだけで出て行った。


「……………納得したかい?」


『まだわからない』


真音はユキとディボルトしていた。

石田に疑いを抱くユキは、嫌がる真音に無理矢理ディボルトして着いて来てたのだ。


「いい加減にしてくれよ。暑に来いってまで言ってくれたんだぞ」


『警察が個人をひいきに情報を集めようなんてしないわ。まして真音は未成年よ?』


「なんにしたって警察に行けばわかるだろ。明日にでも行くかい?」


『…………そうね』


真音は、すっきりしないユキをほっといて残っていたステーキに手をつけた。










『うまく行った?』


「うまくも何も、食事しただけですよ。ガーディアンらしき女はいませんでしたし、特に話す事もないし」


『まあいいわ。これから何度か如月真音と接触してもらいます。変化が見られたらすぐに連絡して。しばらくは本部への出入りは認めません。また明日連絡するわ』


「わかりました」


しつこいくらいまめに連絡をよこす上司に正直うんざりだ。

任せるのならもっと信頼してもらいたい。


「どこにいるんだ……………二ノ宮…………」


写真を内ポケットから出して呟いた。

真音もユキもまだ知らない。ありとあらゆる不都合な事がすぐそこまで来ている事を。

そして石田も。

 少しずつ、世界は変わり始めている。真音達の思惑など苦にもならないくらいに。


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