第八十二章 balance
二ノ宮とロザリアは、別ルートを辿って真音達のいるビルの最上階に来ていた。
そこで待っていたのはビリアン。だだっ広いフロアは、三面がガラス張りになっていて外の様子がよく伺える。
「待っていたよ」
ビリアンは二ノ宮とロザリアを歓迎した。ビリアンにとって二ノ宮達選定者と、ロザリア達ガーディアン・ガールは超えなければならない存在。敢えて邪魔者扱いしないのはそういう理由があっての事。立ち向かって勝ち取りたいのだ。自信を。
「ビリアン、選定者相手に戦おうなどと夢を見てるのならやめておけ。一瞬で現実を知るぞ」
「夢?これはまたおかしな事を。私がなんの考えも無しに、君達を迎え入れると思ったかね?」
「ほう………たいした余裕だ。秘策でもあるのか?」
「第1選定者の如月真音は、今誰と戦っていると思う?」
余裕に輪がかかる。二ノ宮に嫌な汗が流れる。
「教えてやろう。彼は今、ガーディアン・ガールと戦っている」
「なんだと………っ?」
「リオ君が『残してくれた』ヒヒイロノカネ、あれを使い青薔薇と同じレベルのガーディアン・ガールを造れたのだよ。そしてヒヒイロノカネは私の中にもある」
ビリアンは目をつむり、そしてまたゆっくりと開ける。
「セイイチ………!!」
ロザリアが見たもの、それは二ノ宮も当然見ている。
「ガーディアンになりやがったのか……」
瞳がプリズムに光るビリアン。だがそれだけではなかった。
「まだだ。まだ私は進化する!」
全身の筋肉に力を入れ、身体中の血液を逆流させる。
「おいおい………マジかよ……」
二ノ宮は目を疑った。
ビリアンが人間を超えて行く。スーツが破れ、あらわになった肉体は一回りも二回りも筋肉の密度が増し、髪は逆立ち、背なにはこうもりのような翼が四枚生える。
「ククク…………おおよそ神のイメージではないだろうが、だが紛れも無く私は人を超えた。そして伝説を超え神話を超え、青薔薇さえも超える!時代は私を選んだ!お前達、選定者を倒して不在の神の座に就くのだ!」
それはビリアンの勝利の雄叫び。
「ありかよ………こんなの……」
怯えるロザリアを抱き寄せ、二ノ宮はそのままディボルトする。
『セイイチ………緊張してるの?』
「まあな。正直、俺が一番強いと思ってたからな」
弱気ながらも、二ノ宮の髪は銀色に染まり、青いレンズの眼鏡の奥の瞳は金色に変わる。
「やる気になってくれたようだね」
「ナメんな。最初からテメーを倒しに来たんだ」
「クカカカ………それはリオ君を殺された復讐なんだろうか」
「まだリオが死んだと決まったわけじゃない。ただ、貴様らのような虫けら以下の輩は殺さないと気が済まないんだよ」
「私が虫けらかどうかその身を持って確かめてみるといい!」
ビルの一室であるにも関わらず、部屋には風が乱れ三面のガラス張りを割って行く。
『ねぇ………』
「なんだ」
緊張が止まない二ノ宮に忍びないとは思ったが、ロザリアにはどうしても聞いておきたい事があった。
『リオってだあれ?』
「……………………。」
これが計算ではない事は二ノ宮がよく知っている。状況がどうあれ、ロザリアにとっては大問題なのだ。だが、それでいささかの緊張は解れた。
『ねぇってばぁ』
「あ、後にしないか……?」
『女?』
「そういう事も含めて終わったら話すから、な?」
『絶対?』
「ああ」
『嘘ついたらもうご飯作ってあげないんだから!』
「……………わかったよ」
幸いな事に、ロザリアの声はビリアンには聞こえていない。なんとかメンツは保たれた。
二ノ宮は気を取り直し青生生魂を鞘から抜く。
「覚悟は出来たかビリアン?」
「それは私のセリフだよ、第6選定者……セイイチ=ニノミヤ。君も神か何かを気取ったんだろうが、所詮は付け焼き刃。私の力の前に平伏すといい」
「平伏せだあ?ハン!それこそ、そのセリフは俺を屍にしてから言うんだな」
神を目指すビリアンと破壊を望む二ノ宮。天秤はまだバランスを保っている。