表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/126

第八十一章 漂流

「聖戦だって?」


真音は聞き返した。どうにも頭で整理がつかない。


「世界は腐敗しきっている。だからマスターブレーンを創り、人々は神を求めた。それに応えるのが私達の義務。その戦いはまさに聖戦だろう?」


「ふざけんな!そんなの鈴木の勝手な解釈じゃないか!誰もそんな事望んでない!」


「如月、私達は神になる権利を得た者だ。望まれようと望まれまいと、誰の意見も関係ない。レジスタンスは世界再編を遂行する。それには象徴となる存在が必要なんだ」


「変わったな。お前はもっと爽快な奴だと思ってた」


「爽快ねぇ………まあ、ありがたく受け止めるよ」


「はっきり言う。お前とは戦いたくない。頼むから引き下がってくれ」


さすがに同級生と命のやり取りはしたくない。でもそう思うのであれば、めぐみとて真音の前には姿を見せないだろう。


「あはははは!それは無理だよ如月。唯一無二の存在になる為、選定者は全員排除しなければならない。安い正義を振りかざすのなら、なんでここに来た?君がどう思おうと勝手だが、私は君を倒すよ」


軽く言ってくれる。友人だと思っていたのに。真音はやるせない気持ちになっていた。

李といい、めぐみといい、戦いたくない奴ばかりが敵になる。しかも今度は強敵もいいところだ。

超能力を自在に扱い、離れた敵さえ見えない力でどうにでも出来る。戦うとしても、どう戦えばいいのかすらわからない。


『こんなシチュエーションは予想してなかったわ』


意識を共有するというのも善し悪しで、ユキを頼りにしてたのに彼女の不安が伝わって来てしまう。不憫だ。


「どうする………?」


戦うも選べない、逃げるも選べない。特殊攻撃もあいにく持ち合わせていない。

コマンドの全てが使えないのだ。

めぐみは真音の出方を待っていたが、痺れを切らし先に仕掛ける。


「来ないならこっちから行くよ」


その言葉で身構える真音だったが、めぐみは意外にも格闘を選択して来た。

まずは右ストレート、そして回し蹴り。またも壁に激突した真音を膝蹴りする。


「うぁ………っ」


目が白目を剥く寸前まで行く。

見事なまでにプロの技だ。一女子高生が成せるコンビネーションじゃない。


「どうした如月。君のガーディアン・ガールの力を見せてくれ」


持っていた弓は既に手元にない。真音はよろけながら立ち上がる。


「ほ………本気かよ………」


「当たり前だろう?さあ、早く見せてくれよ………ウズウズしてるんだ」


ヒヒイロノカネがめぐみの瞳の中で妖しく光っている。


「ユキ………何か手はないのかよ?」


『逃げる気?』


「んな事……言ってないだろ」


『じゃあ戦える?』


さっきの不安はまだあるが、切り返しが意味深だ。多分、ユキは何か考えてる。逃げる事は叶わない。戦えるか?と聞かれれば戦うしかないのだろうと覚悟を決める。別に命を奪わなくてもいい。立てない程度に痛めつければ。


「戦うには戦うけど……」


煮え切らない真音に苦言を提したのは、ユキではなくめぐみだった。


「まだ決心がつかないのかい?なら後押しをしてあげるよ」


そう言って胸ポケットからリモコンを取り出す。


「きっと戦う気になるよ」


めぐみはニヤリとしてリモコンのボタンを押す。すると、スイッチの切れていたスクリーンが起動する。

最近のモデルにしては画像が粗い。何が映っているのか真音は目を凝らす。


「………外か?」


おそらくは今いるビルかその周辺。結構な高さにカメラは設置されている事だけはわかった。

めぐみはリモコンのジョグダイヤルを操作してズームアップしていく。2倍……4倍……正面にあるのは巨大な十字架。そしてそこに誰かが張り付けにされている。


「……………あれは!!」


真音は目を疑った。十字架に張り付けられていたのはめぐみと同じ制服の少女。


「赤木!!?」


真音の驚く顔に、めぐみは大満足だった。


「正解。ゲストとして連れて来たんだ」


めぐみは更にズームアップして美紀の表情を真音に見せる。


「鈴木!赤木に何をした!」


「別に何もしてないさ。ただ、ちょっと眠ってもらってるだけだよ。如月は優柔不断だからね、私と素直に戦ってくれるかは疑問だった。必要になるかもと、赤木に手伝ってもらったのさ」


「手伝ってもらった?とことん性根が腐ったみたいだな」


真音の怒りに満ちた表情。めぐみの思惑は叶ったわけだ。


「赤木の事になるとやっぱりムキになる。じれったい二人の距離がこれで縮まるといいんだけど。教えておくよ、彼女は向かいのビルの屋上にいる。この先の渡り廊下を行けば向かいのビルまでは行ける。見事、私を倒して辿り着けるといいけど」


「からかってんのかよ?赤木は無関係だ!今すぐ解放しろ!」


「無理だね。赤木を助けたいなら私を倒してからだと言ったろ。まあ、それが出来ればの話だけど」


こんな奴じゃなかった。それとも見抜けなかっただけか?

めぐみは人気のない弓道部を盛り上げてくれていた。同級生で女なのにすごく頼れる存在だった。文武共に優れ、真面目だけれどジョークのセンスもあった。そう、魅力的だった。

それが今はどうだろう?三流ゲームの悪役の如く卑怯な手段を、おいそれと見せてくれている。


『同じ力をぶつければ、優劣に関係なく相殺されるわ。大丈夫、私がいる』


ユキが真音を勇気づけるように言った。


「出来んのかよ?失敗したらジ・エンドだぜ?」


『ガーディアンの基本ベースは青薔薇よ。私にだって同じ力はあるはず。個人では無理でも、ディボルトしてれば使えるわ………きっと』


「きっと………か。わかった、使えるという前提で戦う。ユキ、サポート頼むぜ」


『任せておいて!』


かつての友人は倒すべき敵として立ちはだかる。

真音は今………試されている事に気付いていない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ