表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/126

第七十三章 五重奏

ビリアンは、長老達に呼び出される事を今日ほど待ち望んだ事はないだろう。呼び出される時は決まって文句を言われる。自分達の都合よくいかないと、権力者というのは納得しない。

だが、それも今日まで。自分をここまで引っ張り上げてくれた愛すべき老人達。感謝の気持ちは冥土への案内で表してやるつもりだ。


「お待たせしました」


何度も言ったこの言葉。今日は真心を込めてやった。

上の方に長老達がビリアンを見下ろすように、背もたれの長い椅子に座っている。


「いつになく早いじゃないか」


「さすがに今回は言い分けは出来んと見たのかね」


「いや、彼の事だ、また適度な言い分けを考えて来たのだろう」


代わる代わる皮肉を言われるが、言わせてやろうと思う。悲しい老人への愛情だ。


「さてビリアン君、最近ヒヒイロノカネを熱心に研究しているようだが、成果のほどはいかがかね?」


長老の中でも一番の権力者が静かに口を開いた。


「はい。説明するよりも成果を直にご覧頂く方がよろしいかと」


「ほう。珍しく自信満々じゃないか。君は無下に自信を見せる男じゃないと思っていたが?」


ビリアンは出来る男だが、実力を振りかざす男ではない。そのビリアンが卑しくも自信を見せた。成果のほどは期待出来るとわかる。


「今日はきっとレジスタンス最高の日になるでしょう」


ビリアンは意味ありげな微笑を引っ提げ、


「入りたまえ」


そう言った。


「失礼します」


そして部屋に入って来たのは、


「メグミ=スズキ………」


「おお………我らがレジスタンスの星よ………」


長老達は入って来た少女に興味を示した。


「改めて紹介しましょう。我らがレジスタンスのガーディアン・ガール、メグミ=スズキです」


ビリアンにそう紹介された。見た目は日本での学生服ではあるが、確実な自信が彼女にもあるのだろう、意気揚々とした笑みを覗かせる。


「まさかガーディアン・ガールを造るにまで………?」


長老の一人が驚嘆の声を上げた。研究の成果がガーディアン・ガールだとは思わなかったらしい。せいぜいヒヒイロノカネからエネルギーを見出だす程度だと決め付けていた。成果と呼ぶよりは奇跡だ。自分達だけのガーディアン・ガールがいるのだから。


「ビリアン君、本当に彼女はガーディアン・ガールになったのかね?」


「はい。資料にあった青薔薇と同じように、ディボルトを必要としません。つまり、単体でその力を発揮出来るのです」


めぐみは誰に言われるでもなく右手をかざし集中を高める。何が始まるのかとビリアンを除いて誰もが思った矢先、長老達五人の座る椅子が浮いた。


「これは…………」


「なんと…………」


浮いた高さはそれほどでもないが、それはまさに超能力。長い年月を生きて来た長老達でさえ初めて見る不思議な力。

ビリアンはめぐみに合図する。めぐみは頷いて椅子だけを下ろし、長老達だけを宙に残す。

二人の異変に気付き、長老の一人が苦言する。


「な、何をしてる!?早く下ろしたまえ!」


だがもう遅かった。薄暗がりの部屋の中、めぐみの瞳がダイヤのようにプリズムに光る。

めぐみはそっと拳を握る。小鳥を握るように。すると長老達の身体が締め付けられる。


「ビ、ビリアン君!今すぐやめさせろ!」


「ぐおぉ………なんなんだこの力は…………」


慌てふためく醜い餓鬼の如き老人達。人生の手本を示す敬いもない彼らに相応しい。ビリアンが待ち望んだ光景だ。


「ビリアン君………聞こえないのか?もう十分にわかった。早く………下ろしたまえ……」


「聞こえてますよ。ですが要求を呑むわけにはいきませんな」


「なんだとっ………!ど、どういう意味だね……!?」


ビリアンは勝利を確信したように口元を緩めた。


「今まで散々我慢して来た甲斐があった………」


苦労を思い出す。屈辱感を抱かされた日々。雪辱を晴らす時が来たのだ。


「だがそれも今日まで。今日からレジスタンスは生まれ変わる。歳老いたあなた方に未来を造る力はない!未来を造るのはいつの時代も若者であるべきだ。そう思いませんか?」


長老達に問い掛ける。


「バ………バカな事を……!若者が未来を造るだと?ならば君は若者かね?」


「確かに、私はもう中年。しかし私のポジションは未熟な若者達に道を示す神。そう………神なのですよ」


「ぐっ………くだらん!我々を裏切る気か!?」


「裏切るわけではない。古い者は去り、新しい者が全てを担う。世代交代というわけです」


「お……思い上がりも甚だしい!」


「甚だしいのはお互い様でしょう。私には年寄りの人生を悟ったつもりほど甚だしいものはありません」


「おのれ………ビリアン!」


「はははははっ!そうだ………その悔しそうな表情!それを見る為に私はここにいる!めぐみ君………殺りたまえ!」


小鳥を殺さないように握っていた拳を強く握る。命を奪う為。


「「「ぐあぁぁぁぁっ……!」」」


長老達の身体は音を立てて破壊されてゆく。生き絶えたのを見届けると、めぐみは屍を散開させる。


「歳老いてまで欲を張った結果だよ」


二ノ宮達を迎え撃つ為、そして神になる為、全ての準備が整った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ