第六十七章 advantage
二ノ宮は、声をかけて来た男を見たのは初めてだったが、それが誰であるかは一発でわかった。
「わざわざこんな山奥までご苦労だな…………ビリアン」
二ノ宮の済むロッジがある山の中。二ノ宮が一人トレーニングをしてるところにビリアンが現れた。
「私を知っているのか。光栄だよ」
リオの事は二ノ宮もずっと気になっていたが、ビリアンが直に現れたところを見ると、状況は悪いのだろう。
「知ってるさ。写真を見たし、よく話も聞いてたからな」
「リオ君にかね?」
「言わずともわかってるんだろう?でなきゃお前自ら姿を現すなんてないだろうからな」
今ここで、ビリアンを殺す事など他愛もない。青生生魂は鞘から抜いた状態で手元にある。だが聞かねばならない事がある。
「リオはどうした?億が一にもお前らに殺られるような事はないはずだ」
二ノ宮は二歩三歩と詰め寄った。
「リオ………ねぇ。呼び捨てにするほどの仲というわけか」
「なんだ、嫉妬してるのか?フッ………大組織の指揮をとるくせに一人の女が惜しいのか」
「認めたくはないが、私はリオ君に惚れていたらしい。才能だけでなく、女としても」
「そりゃそうだろう。リオほどの女は果たしてこの世に何人存在するかな?人として、女としてあれほど完璧な女はいない」
「ガーディアン・ガールとしても………かね?」
「……………………。」
「リオ君なら自分から海に落ちたよ。大分捜索はしたが見つからなかった。今も捜索は続けているが…………まあ見つからんだろうな」
リオは生きている。二ノ宮はそう信じている。だから何も言わない。言う必要がない。
「リオ君はガーディアン・ガールとして素晴らしい力を見せてくれたよ。そこで確信した。リオ=バレンタイン………彼女は青薔薇だろう?」
確信はしているが、もっとはっきりとした証拠が欲しい。
ビリアンは含みのない表現で言った。
「……………青薔薇であって欲しいのか?」
「フフ。図星のようだね。彼女が好意を寄せた男、どんな男か楽しみにしてたんだが………意外に熱くなるタイプだったか」
「ああ。冷める間もないほどにな」
睨み合いとは違う。二人が黙って視線を交わすのは、戦いが間近故。二ノ宮はこの場でビリアンを殺す事を止めた。
「セイイチ〜!」
張り詰めた空気を破ったのはロザリアだった。
てくてく駆けて来るロザリアは、近くまで来てビリアンを見ると失速し立ち止まる。
そしてビリアンはロザリアを見て驚いた。
「…………君の……ガーディアン・ガールか?」
二ノ宮に背を向けたまま聞いた。
ビリアンが驚いているのは、ロザリアにリオの面影を見たからだ。銀色の髪、青い瞳、垂れ目の愛らしさ、被るところがいくつもある。
ロザリアはビリアンを警戒しつつ後ずさる。
「ロザリア、家で待ってろ。すぐに戻る」
二ノ宮にそう言われて全速力で走り去る。その姿をビリアンはただじっと見つめていた。
「彼女は何者だ?」
ビリアンはロザリアが気にかかる。いや、虜になっている。
「ロザリアを詮索するのはやめてもらおうか。あいつはリオとは関係ない」
「リオ君を初めて見た時、私は彼女の美貌………それだけでない、あの独特の雰囲気に我を忘れた。それをまたこうして………」
ロザリアに惹かれているビリアンを見て、一度は殺すのをやめたが青生生魂を握る手に力が入る。すると、どこにいたのか李奨劉が割って入る。
「お前は第4選定者…………」
「殺るなら俺が相手だ」
李はディボルトしている。いくら二ノ宮と言えども、ディボルトとした選定者と戦えば負ける。
「李奨劉、もういい。用は済んだ」
ビリアンは李を制した。
その時、ビリアンの携帯電話が鳴る。
「私だ。………………わかった、すぐに戻る」
ビリアンはニヤリと笑った。
「確か君はニノミヤ………だったね、私を知っているという事はレジスタンスのアジトも知っているんだろう?」
「………ああ、知ってるさ」
「来るつもりならいつでも来るといい。私の元にはリオ君の遺したヒヒイロノカネがある。そして、ヒヒイロノカネがなんであるか解明されたようだ」
「なんだと……!」
「それが何を意味するか………わかっているようだね」
ビリアンは風向きが追い風になった事を確認した。
「今日のところはサヨナラだ、Mr.ニノミヤ。君との戦いの前に片付けておきたい事もあるんでね」
ビリアンは顎で李を促して帰路についた。来るべき戦いの日を楽しみにして。
「熟してない果実を口にしなければならないようだな」
二ノ宮は苦い戦いになる事を覚悟する。
アドバンテージはビリアンにあった。