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第六十三章 アントワネット一族(後編)

ジルが待ち合わせた場所は、郊外の寂れた喫茶店。地元の人間しか訪れないようなところだ。


「これはこれはアントワネット家ご息女、ジル様。お待ちしておりました」


どぶねずみはそこにいた。


「デカイ声出さないでよ。身分知られたくないんだから」


そのくらい察してもらいたい。

ジルは無精髭を生やした男の向かい側に雑に腰を下ろす。


「驚きましたよ、まさかアントワネット一族の次期頭首から直々に連絡を頂くなんて」


男も腰を下ろす。

お世辞にもいい給料はもらってないとわかってしまう身なり。おもむろに財布から名刺を取り出そうとする。


「申し遅れました。私は……」


「いらないわ。身内のネタで生計を立ててる人間と、こうして会ってるだけでも危ない橋なのに、名刺なんてもらえるわけないでしょ」


「くくく……これは失礼」


身分が違う人間からの暴言からは慣れたものだ。どぶねずみはタバコに火を点ける。


「で、今日は私に聞きたい事があるとか」


どぶねずみは、ジルがアントワネット一族に纏わる噂を消す為に来たのだと期待している。その期待とは『金』。つまり口止めに来たのだと思っている。


「一番大きなネタを聞きたいわ」


どぶねずみがアントワネット一族のどこまで知ってるか確証が持てない。だからジルはカマをかける。


「一番大きなネタ……ですか。はて?アントワネット一族にはいろんな噂がありますからねぇ」


「とぼけないで。あんたが最近、やたらと古い文献からアントワネット一族の歴史を調べてるのはわかってんのよ」


事実、どぶねずみはアントワネット一族の歴史を調べている。

その歴史を知りたいのだ。


「ハハハ」


「何がおかしいのよ」


「失礼。いえ、正直なところ、調べるには調べたんですが、あまりに現実離れした歴史でしてね、百年以上前のネタでしたし記事にはならないかと思ってたんですが………」


ちらりとジルを見る。確証を得ようとしていたジルが、逆にどぶねずみにネタの確証を与えてしまった。


「知ってる事全部話して」


ジルは札束をバッグから三つ出す。


「ほう………奮発しましたねぇ」


札束を取ろうとするどぶねずみの手を掴み、


「時間が無いの、早く話して」


話してからの報酬だと伝える。


「わかりました」


どぶねずみはタバコの灰を灰皿に落とすと、またくわえる。


「今では多種多様なジャンルで活躍するアントワネット一族。世界有数の大企業。しかしですね、そんなアントワネット一族にも冬の時代があった。百年くらい前ですかねぇ、かなり危機に陥っていたようでしたよ」


タバコの火を消し、コーヒーを口にする。


「あ………何か飲みます?育ちが悪いせいか、気が利かないのがたまに傷でして」


「私は結構。続きの方が気になるから」


アントワネット家は莫大な資産を所有している。一族を合わせれば莫大の二乗は超えるだろう。それは代々の積み重ねだと教えられていた。アントワネット一族に危機があった?だとすれば、百年足らずで今の資産を築いた事になる。その理由がガーディアンの研究援助に関係がある?


「私が見つけた文献には、危機に陥ったアントワネット一族が、兵器開発をしていた組織へ全財産を注ぎ込んだと書いてありました。その兵器というのが実におかしくてですね、人造人間だって言うじゃないですか。それも生身の人間を使って。一族の危機を救う為、当時のアントワネット一族の頭首が研究に加わった」


「加わったって、費用を肩代わりしただけでしょ?一族が危機なのに全財産を使ったってわけ?」


「それだけの研究だったんでしょう。いや、きっと成功していたに違いない。でなければそんな怪しげな研究に全財産は賭けられない」


「それで?それからアントワネット一族はどうやって今の資産を?」


「そこから得た人体実験による人体のデータを元に病院経営に乗り出したんですよ。知らなかったんですか?当時の医学では計り知れない知識と技術を持つ病院。各国の政財界が利用し始め、経済的な潤いだけでなく人脈も着々と広がって行き、僅か五十年でその名を世界に轟かせるにまでなった………後は何をやっても成功したでしょう。世代交代をしても、特に政界の連中は大企業のアントワネット一族からの支援を欲しがる。華麗なるネットワークが誕生したわけです。もっとも、人造人間の研究がどうなったかは存じませんが。ただ気になる事が………」


「気になる事?」


どぶねずみは再びタバコをくわえ火を点ける。


「ここからは追加料金が発生しますよ?」


「倍だすわ」


ジルは迷わず答え、更に札束を三つ重ねた。


「話が早くて助かりますよ」


年収は軽く超えただろう。


「それで気になる事って何?」


「くく………それなんですがね、実は近年アントワネット一族は超高性能コンピュータを開発したらしいんです。極秘で」


「………極秘?そんな話知らないわ。私にも秘密のプロジェクトなんて…………」


ジルに悪い予感が訪れた。

超高性能コンピュータ……………まさかと思いつつも、拭えない予感。


「世界中が協力して作ったらしいですよ。世界の未来を計算し、よりよい形で導いてもらうんだととか。しっかし、表ではいがみ合い、裏では手を組む。普通は逆だと思うんですけど………お偉いさんの考える事はさっぱりですよ」


「その超高性能コンピュータの名前は?」


「名前?ああ、確かマスター………なんだっけ?」


「マスターブレーン………」


「そう!それです!マスターブレーン!」


身体が震える。アントワネット一族が携わっていたのは百年前の研究だけじゃなく、現在もだった。それも選定の儀を企てた中枢。

そして博士の存在。石田が推測するに、ガーディアンを研究していた博士はヒヒイロノカネを使って今も生きているだろうとの事。その博士が百年も個人で身を隠すのは不可能。おそらく博士をかくまい、研究の援助をして来たのはアントワネット一族。ジルは確信した。


「ありがとう、十分よ」


「それはどうも。では料金を頂戴します」


どぶねずみは六つの札束をジルの前から取り、自分のバッグに入れる。


「この事なんだけど……」


「ご心配なく、口外はしませんから」


「ええ………そうしてちょうだい」


ジルはバッグからデザートイーグルを取り出してどぶねずみを撃った。

そして店内にいたもう一人………店のマスターも。


「ごめんなさい、育ちが悪くて」










メビウスはフリオとメイド達を外に出すと、ダージリンの前に立った。


「久しぶりだね………β(ベータ)。こんなに苦しんでるとは………」


ダージリンの頬を撫でると、ダージリンがゆっくり目を開ける。


「…………ジル………」


しかし目の前にいたのは見た事のない男。


「………誰?」


「僕だよ………ダージリン」


メビウスはキャップとサングラスを外す。


「…………あなたは………」


苦しみながらも、見慣れた顔に安心する。


「どうやらヒヒイロノカネが体内で暴れているようだ。今、楽にしてあげるよ」


「…………あなたが?」


「そう……僕がだ」


メビウスはポケットから注射器を出した。


「…………やめて………お願い………」


異様な空気を読み、ダージリンが怯えるとミルクが吠え出す。


「ワン!ワン!」


「犬がいたのか………目障りだ」


メビウスは近くにあった果物ナイフをミルクに投げた………ダージリンの前で。


「ミルク………!!」


起き上がろうとするが身体が言う事を聞かない。

ナイフはミルクの身体に刺さった。


「さ、君の番だ」


「ミ……ミルク………」


ダージリンの瞳から涙が零れた。そしてメビウスを睨む。


「な………なぜ?」


近付くメビウスの腕を掴む。だが、メビウスに力で押さえ付けられる。


「ダージリン、君は思い出すんだ、あの過酷な人体実験の日々を。そして生まれ変わる…………本当のガーディアン・ガールに」


そのままダージリンの首に注射器を刺し、何かを注入する。


「うっ……………あ………」


ダージリンの身体が痙攣し、意識を飛ばす。


「もうアントワネット一族に用は無い。それに、君を苦しめたのはアントワネット一族だ。存分に復讐したまえ」


気を失ったダージリンを見つめ、


「アントワネット一族の歴史に幕を下ろすんだ」


そう言った。


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