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第五十八章 布石

「すまない」


トーマスは真音に詫びた。

あんまりすんなり日本人のように頭を下げたので、焦ったのは真音の方だった。


「や、やめろよ!」


事情が事情なだけに行くなとは言えない。


「ジルがフランスに帰ったばかりだって言うのに………」


「言いっこ無しよ、トーマス」


ユキがトーマスの肩に手を触れ、頭を上げるように促す。


「ユキ………」


「み〜んな事情があるもの。いいんじゃない?戦いの前の休息って思えば」


トーマスも変わったとは思うが、ユキも変わった。何て言うか………仲間意識が強くなったような、そんな感じだ。


「明日出発なら準備急ぐだろ?石田さんには俺から言っておくよ。妹さんに会いに帰りましたって」


「真音………ありがとう」


あれだけ毒を吐いた奴に礼を言われるとは思いもしなかった。


「私達も早く帰って来るわ。それまでレジスタンスのアジトくらいわかると助かるけど」


今回はエメラが皮肉屋を買って出た。それはそれでバランスがいいのかもしれないが。


「余計なお世話よ。エメラ達が戻って来る頃には全部片付いてるかもね」


ユキぐらいしかエメラの皮肉を受け流せないだろう。


「おい、そりゃ困るぜ?」


「だったら早く戻って来いよ」


トーマスと真音は笑顔で心を交わした。


「じゃあ行くわ。ジルじゃないけど見送りはいらないから」


「わかってるよ」


エメラは気を遣ったわけじゃない。真音にもそれはわかっていた。

トーマスとエメラが雑踏の中へ消える。


「トーマスも大変なんだな」


「着いて行くエメラも大変よ」


国の期待と言えば聞こえはいいが、結局のところ国の野望に利用されてる立場。それを拭い去る為にトーマスもまた戦いに行くのだ。

真音は四人が戻って来るまで、何か自分にも出来る事をと誓うのだった。










オリオンマンとメロウは、他の選定者を探しに街へ来ていた。ただ、オリオンマンはメロウの服装が気に入らない。


「なんとかならないか?その服装」


「なんとかならないわ」


ロングブーツにエナメルのミニスカート。とてもガーディアンには見えない。


「ガーディアンスーツはどうした?」


「ホテル」


「ディボルトしなければならなくなったらどうするつもりだ?」


「服装は関係ないわよ。ディボルトは身につけてるもの全て原子にするから」


正直なところ、オリオンマンは恥ずかしいだけであって、ディボルトがどうとかは建前だ。


「あら?」


前を歩くメロウがいきなり立ち止まり、オリオンマンがぶつかりそうになる。


「おい、危ないじゃないか。止まるなら止まると言ってくれ」


などと、難儀な事を言い出したが、メロウは無視した。それよりも、前方をふらふら歩いて来る全身黄色の服を着た少女が気になった。


「何を見てるんだ?選定者か?」


メロウはすたすたとオリオンマンを置き去りにするように歩いてガーネイアに声をかけた。


「ガーネイア」


「………メ、メロウ……!」


その表情は曇りから快晴へと、段階を踏まずに変わった。


「なんだ?第4選定者のガーディアンではないか」


ぬうっと現れたオリオンマンのでかさに、ガーネイアは怯えてしまう。


「フン!ちょうどいい。選定者もいないようだし、ヒヒイロノカネを………」


オリオンマンは辺りを見回し李がいない事を確認すると、ガーネイアの顔など包み込んでしまうほどの手の平が伸びる。だがメロウが、


「待って、オリオンマン」


「なぜ止める?」


こんな絶好のチャンスはない。ガーディアンだけならばなんとでもなる………そうオリオンマンは思ったのだが。


「こんな街中で殺ったらどうなるかくらい考えて」


周りは行き交う人で溢れている。無論、ガーネイアを殺せば騒ぎになるのは避けられない。


「くっ……」


悔しがるオリオンマンは黙って伸ばした手を引っ込めた。


「こんなところで一人で何やってるの?」


優しくとはお世辞にも言えない言い方でメロウが聞く。


「……………なんにもしてないんよ」


ダメなのだ。メロウでは話にはならない事は知っている。話すのならユキかエメラしかいない。


「つれない態度とってくれるじゃないの。こっちは心配で聞いてやってんのに」


メロウは見た目、おっとりした顔立ちですごく優しそうに見える。が、アクティブな性格で自分に絶対的な自信とプライドを持っている。彼女に相談事など無意味だ。


「ご……ごめん………ガーネイアは急ぐからぁ………」


メロウの脇を駆け抜けようとしたが、腕を掴まれる。


「待ちなさいって。話だけでも聞いてあげる。わけありなんでしょ?」


今度は優しい言い方はしたが、目が笑っていなかった。


「い、いいのぉ〜……離して………」


腕を振りほどこうとすればするほど、メロウに強く握られる。


「人の親切は受けておくものよ。それがわからないなら………」


「!!」


メロウはガーネイアの腕を離し、握っていた手で彼女の頚椎に手刀を入れた。


「メロウ!」


「オリオンマン、彼女をホテルまで運んで」


「いや………しかし………」


突然の事にオリオンマンも呆気に取られるばかりだ。


「いいから!」


何を考えてるのかわからないが、とりあえずオリオンマンはメロウの言う通りにする。


「私を無視しようなんて絶対許さない」


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