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第五十三章 対極する立場

ジルの説得もあり、真音とトーマスはユキとエメラの身体検査を本人の同意の上でならと了承した。

ユキは乗り気じゃなかったが、エメラは自分の事は知っておきたいと言い張った為、一人だけ拒否は出来なかった。


「変な先入観は捨ててくれ。なんならついでに如月君達もどうだ?その若さで病魔に蝕まれてはいないだろうが、いい機会だと思うよ。人間ドックでこのメニューはとんでもなく金がかかるからな」


石田はプリントを真音とトーマスに見せたが、二人とも苦笑いをして回避した。


「俺達はいいよ………なあ真音?」


「そ、そうだね……あはは……」


そんな二人を見てユキは、


「情けない」


エメラも、


「男なんてそんなもんよ」


冷たい言葉で男を『肯定』した。


「ダージリン、本当にいいのね?」


ダージリンだけが特別ではないが、どうしても心配になる。ジルはダージリンの目を見ながら聞いた。


「いい。私も自分が知りたい」


そう言われては何も言う必要はない。


「さ、行こうか」


石田に連れられユキ達は眠れる獅子の施設へ入って行った。


「大丈夫かなぁ」


真音がユキを気にする。


「大丈夫だろ。解剖されるわけじゃあるまいし」


トーマスはあまり心配してないようだが、真音が気にしてるのはユキの気性だ。わがまま言って困らせないか不安なのだ。


「ユキはエメラやダージリンと違うから………」


「ならちゃんとしつけしろよ。女ってのはなんだかんだ言っても強く言ってくれる男が好きなんだ」


トーマスが真音に女のなんたるかを説くも、


「エメラが聞いたらなんて言うかしら?」


ジルに玉砕されてしまう。


「トーマスはエメラの尻に敷かれてるからなあ」


真音にまで追い討ちをかけられる。


「なんだと〜!お前だってユキにいいようにされてんじゃねーか!!」


「俺はユキを手の平に乗せてるのさ」


「ならユキに言ってもいいのか?真音に遊ばれてるぞって」


「そんな言い方したら誤解されるだろ!」


「誤解も六回もあるかよ。ユキは感情の起伏が激しいからな、手が出るぜ?温泉の時みたいに」


トーマスは自分でそう口にしながら、迂闊にも思い出してしまった、喜ばしい………もとい、痛々しい温泉での出来事を。


「ま、まあ、あれはあれでいい思い出だよ」


真音も思い出したらしい。


「だ、だよな」


情けないというかだらし無いというか…………この二人が少年から大人になるまで…………何度考えてもまだ先。ジルはユキとエメラに同情のため息をついた。










「リー………」


ガーネイアはまだ傷の癒えない李を気遣かっていた。


「リー………無理はあかんよぉ。少し休まないと………」


李はベッドに座り、ダンベルをゆっくり上げ下げしている。

ビリアンから日本へ同行するようにと言われ、身体を馴らしていた。


「リーってばぁ………」


「うるさいぞ、ガーネイア。静かにしてくれ。気が散る」


全身の骨はリオにやられて亀裂している。ダンベルなんかで鍛えてる状況ではないが、日本へ行けばトーマスがいる。島での借りを返したいと思っている。


「なんでよぉ………なんでそんなになってまで戦うん?」


ガーネイアにとって李は優しい兄のような存在。選定者とガーディアンの関係以上に気にかかる。

李はダンベルを下ろし、ベッドから立ち上がる。


「俺は勝たなきゃならないんだ。例え腕をもがれ足をもがれても、命ある限り戦う事が義務付けられてる」


「わからんよ………リーの言葉はまるで死を望んでるみたいで…………」


半ベソかきながらタオルを噛む。


「ガーネイア………俺は負けるくらいなら死を選ぶ」


「いややぁ………どうしてなん?どうしてそういう事言うん?」


「お前は知らなくていい。ヒヒイロノカネが五つ手に入ったら、最後はお前からも貰う事になるんだ………」


「リー……………」


悲しかった。李はビリアンに会ってから優しくなくなった。表情も暗いままで、ガーネイアとでさえあまり話さなくなった。

ガーネイアにはそれが悲しかった。


「シャワーを浴びてくる。一時間もすれば出発だ。用意しとけ」


死に急ぐ李を止めたい。

淡いガーネイアの気持ちは李に届くだろうか…………。










真音とトーマスはなんのかんの言っても打ち解けたようで、ユキ達の人間ドックならぬガーディアンドックが終わるまで街をふらつくと言ってたので、ジルも一人で街をふらついていた。

日本フリークなジルはそれでも堪能出来た。


「楽しそうだな」


ウインドウショッピングをしてると、ガラス越しに二ノ宮が映る。


「女性に声をかけるなら、もっと紳士的にしないと相手にされないわよ?」


「フッ。紳士的にされるようなタマじゃないだろ」


「あら?話のわかる男だと思ってたんだけど、違かったかしら?」


「あいにく、女心のわからない男で評判なんだよ」


皮肉と皮肉で挨拶し合うのは二人ならではかもしれない。


「今日はあの臆病なガーディアンはいないの?」


「ロザリアか?あいつなら家で必死に昼ドラ見てるよ」


「昼ドラ?」


「昼間に放送されるドラマだよ。悪い影響しか与えないんだな、これが」


外人ばりのジェスチャーで呆れ返った。


「あなたも苦労が堪えないみたいね。その様子だと」


「わかってくれるかい?年頃の娘を持つ親の気持ちがわかるよ」


意外なところで共通の悩みがあるのだと、ジルには印象がよかったようで、


「ところで、女性に声をかけておいて立ち話で済ませる気?」


ジルの方から誘う。


「これはこれは失礼。お詫びに食事でもどうでしょう?」


二ノ宮はおどけて見せると、腕を差し出した。


「もちろん奢りよね?」


ジルは腕を絡めてウインクした。


「お好きな物をどうぞ」


「なら日本食をいただこうかな」


無邪気な笑顔を見せると、二ノ宮を引っ張って走り出した。


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