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第四十九章 鍵を握る男

「すいません。嶋津氏は殺されてしまいました。……………途中までの内容はレコーダーに録音してあります。…………はい。…………わかりました、明日には戻ります」


石田は冴子への報告を済ませると安堵の息を漏らした。


「どうでした?」


正之が気になるのは冴子の機嫌。


「こっちに人を回すそうだ。後始末はやってくれるだろう」


「嶋津氏の遺体はやっぱり?」


「ああ。検死に回される。なんせ顔の半分にヒヒイロノカネを使ってるんだ、調べないわけないさ」


石田は車の中で憔悴してる香織を案じた。

香織が検死を拒否しても、組織は遺体を引き上げるだろう。

懇願されても何もしてやれない。


「い……石田さん………妙な生き物をいたって本当ですか?」


傷ついた身体を庇いながら、真音がやって来た。

どうやら香織から話を聞いたらしい。


「本当だ。あれは間違いなく人間ではない」


「その通りだ」


真音と石田に割り込むように現れたのは二ノ宮だった。

 ロザリアは相変わらず二ノ宮の後ろに隠れているが。


「二…………二ノ宮!!」


「久しぶりだな、石田」


石田にしてみればずっと追っていた男。なのにさらっと現れやがった。と思っている。


「嶋津は殺られたか………」


「嶋津氏を知ってるのか?」


「もちろん知ってるさ」


追ってた理由を殺人だとか言ってたわりに普通に話してるのは、やはり親友だからだろう。


「その顔を見る限り見たんだな?レプリカ・ガールを」


石田の曇った表情から、何があったのかは容易に読み取れる。


「レプリカ・ガール?」


「ガーディアン・ガールの複製品さ。知ってるとは思うが、ガーディアンは元々兵器として研究されたもの。その量産型がレプリカ・ガールだ」


二ノ宮が石田に説明していると、ジル達も集まって来る。


「詳しいのね」


一通り聞いてた…………というよりは聞こえてた。ジルは興味を覗かせる。


「時が来ればお前らにもわかるさ」


二ノ宮はまだ何も語る気はないらしい。


「レジスタンスと関係あるのか?」


トーマスが聞くと、二ノ宮はしばし何かを考え、


「いいだろう。少しだけ教えてやる。レプリカ・ガールの本来の役目は、選定者とガーディアンの監視と選定の儀がスムーズに行われるように影で取り仕切る事。選定者、もしくはガーディアンが選定の儀を放棄するような事があれば、容赦なく彼女達に殺される」


「監視って………いつもどこからか見られてるんですか?俺達………」


真音が周りを気にする。


「いや。おそらく選定者の体内にあるナノビートがレーダーのような役割をして、信号の送受信で監視してるんじゃないかと思う」


「世の中随分と便利になったもんだな」


二ノ宮の説明を石田が皮肉った。


「ま、嶋津が死んだ以上は、ここに用はない。俺達はな」


そう言って石田を見ると、


「どうする?今ここで俺を捕まえるか?」


二ノ宮に言われると石田は歯を軽く食いしばり、


「運のいい奴だ。今お前に構ってる暇はないんでな」


去れと言わんばかりに態度で示した。


「なら遠慮なく帰らせてもらうよ」


二ノ宮は石田に背を向け、真音達の間を通り過ぎる。もちろんロザリアはその後ろをてくてく小走りで着いて行く。


「また会おう」


立ち止まってそれだけ言うと、ロザリアと共に山を降りた。

真音達は、自分達が何も知らないちっぽけな存在だと思い知らされた。

確証はなくとも、二ノ宮が鍵を握り、思い通りに動かされてるのではないか………誰が敵で誰が味方なのか、自分すらも信じられない孤独感に、全員が襲われていた。










「失礼します」


めぐみは相変わらずの制服姿で、ビリアンの部屋を訪れた。

ビリアンとしては多少違和感が残る。扉が開く度に、リオの姿を見ていたのだ。無理もない。


「ビリアン様、リオ=バレンタインですが、やはり遺体は上がってません」


「そうか。しかし高さ百メートルの高さから夜の海に飛び込んだんだ、彼女が神でもない限りは生きてはいないだろう。心配する必要はない」


だが半分は不安もある。リオがあの夜見せた神のような力。あれは………


「めぐみ君」


「はい」


「リオ君の事だが………彼女は何者だと思うかね?」


真実に近づきたい。しかし一人では越えられない壁がある。今まではリオがいた。彼女がいれば何事もうまく行ってた………だがそれすらも見せ掛け。積み上げたものが崩れたのだ。


「正直わかりません。ただ………」


「ただ?」


めぐみの言葉に耳を傾ける。

一般的に立場が上になればなるほど、下の者の言葉に耳を傾ける事はしない。だがビリアンは必ず話を聞く。そうしなかった者達が衰退していったのは、歴史を見ても明らかだからだ。

彼は常に歴史から学ぶ。英雄と謳われた者にせよ悪魔と罵られた者にせよ、滅びる理由は大概一緒。自分だけはそうなるまいと、禁欲主義を貫く。


「ただ彼女が人造人間研究所……GRIから持ち帰った資料にあった『青薔薇』。私にはどうしても二人が重なるんですが…………ビリアン様はどうお考えですか?」


「……………私も君に同感だよ。他にガーディアンがいて、彼女がディボルトというものをしていたとは考え難い。むしろ、彼女自身がガーディアンだと見るべきだろう。だが選定者に付いているガーディアン達は、単体での能力は人の域らしいじゃないか。李奨劉のガーディアン、ガーネイアを見てもわかる。ではリオ君のあの力はなんなのか?答えは『青薔薇』だ。百年も前から生きていたんだよ」


「だとしたら、海に落ちた程度では…………」


「私は死んだと思っている。仮に生きているとするなら、行き先はわかっている」


「第6選定者二ノ宮誠一……」


「そうだ。必ず彼に会いに行くはずだ」


「では…………」


「リオ君がいるいないはこの際関係ない。個人的に第6選定者には非常に興味がある。だから行ってみようじゃないか、めぐみ君の故郷………日本へ」


「私も同行させてもらってもよろしいでしょうか?」


久しぶりに真音と美紀に会ってみたい。それと二ノ宮に。


「かまわんよ。李奨劉とガーネイアも護衛として連れて行く。出発は明日。チケットの手配は私がやっておくから、二人に準備をするように伝えてくれ」


「わかりました」


ビリアンは自分の中にある嫉妬の炎に従ってみる事にした。

嫉妬に値する男なら、男冥利につきる。才能や魅力のある男は嫌いじゃない。

今はただ、少年のように胸が踊っていた。


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