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第四章 正しいのは誰か?

どうしても話したい事があって、休みの中早起きして真音の家の前にいた。


「………よし!」


たかだかインターホンを押すだけなのに気合いを入れるのは、美紀の真音に対する気持ちの表れだろう。

入れた気合いを無駄にしない為に、しっかりとインターホンを押した。


「………………おかしいな。いないのかな?」


日曜日の朝9時だ。たいていの庶民は家にいてもおかしくない。

もう一度インターホンに手を掛けた時、静かに玄関の扉が開いた。


「あ、おはよう………ござ…………」


丁寧に挨拶をしなければと思っていると、自分と歳の変わらなそうな少女が出て来た。

真音は確か一人っ子だ。兄弟がいるとは聞いていない。


「誰?」


「あ、あの………如月君いますか?」


「真音に何か用?用件なら私が聞きます」


真音を呼び捨て、加えてぶっきらぼうな少女の言い方に誤解を生じる。美紀の中では要らぬ妄想が繰り広げられていた。


「いえ………如月君と直接お会いしたいんですけど………」


「真音は寝てる。夕べは激しかったから」


もちろんこれも誤解だ。しかしこの手の話に免疫のない美紀は、顔がまっ赤に染まり湯気を立てている。

そこへ状況を知らぬ真音が寝ぼけまなこでやって来た。


「ユキ、誰か来たのか?」


少女を呼び捨てにしてる真音の『眠そう』な顔が、なお妄想を掻き立てる。


「赤木?どうしたんだ、こんな朝っぱらから」


美紀には真音の白々しい態度が耐えられなく、


「ふ……不潔よ!!知らない!!」


そう言ってどこかへ走って行った。


「あ、赤木!?」


ただ呆然とするしかなく、何で怒鳴られたのかもわからず終い。


「俺なんかしたか?」


「………さあ?」


ユキにも悪気はないのだが……。


「それよりも真音、夕べの続きをするから準備して」


「またやるのかよ〜?また明日にしない?」


「言ったでしょ。他の選定者が襲って来たら今の真音では勝てないわ。さ、特訓よ!」


「飯くらい食わせてくれよ」


「………………しょうがないわね。朝食終わったらすぐだからね!」


「へ〜い」


気のない返事に喝を入れた。

ユキは真音の両親に『刷り込み』を行い、親戚の子を預かってるという設定にしたらしい。

あたかもずっと暮らしているかのような……両親のユキへの接し方にも舌を巻くばかり。その上、朝方まで激しい特訓。もうへとへとだった。

美紀の事を気にしてる余裕があるわけがなかった。










「信じられないっ!!まだ高校生なのに!!如月君があんなハレンチな人だなんて思わなかった!」


どうにも気持ちが収まらない。

勝手に勘違いをしてるところに、妄想のスパイスが効き過ぎて自分で自分に手がつけられない。


「あら………どうしたのかしら?そんなに苛立っちゃって」


ブロンドの女性外人が美紀に話し掛ける。


「あ…………わ、私?」


辺りをキョロキョロして話し掛けられているのが自分なのか確認した。


「そう、あなた。聞きたい事があってさ」


「な、なんでしょう?」


「如月真音………あなたの学校にいるでしょ?知ってる?」


「知ってます………けど」


また妄想してしまう。よく見れば美人だ。こんな美人が真音になんの用事があるというのか…………尽きない妄想、美紀の悪い癖だ。


「よかったわ。リストには細かい住所までは載ってないからさ、おとといの不覚をそのままにはしておけないもの」


「いい笑い者……………美人薄命」


「あんたは黙ってなさい。だいたい美人薄命は関係ないでしょーが」


気付かなかったが、紫色した変なコスプレ衣装っぽい服を着た黒い髪の少女が外人の脇にいた。


「全く………ごめんなさい、ボケる癖があるみたいで………。ところであなた名前は?」


「赤木美紀です」


「ミキ?いい名前ね、私はジル。ジル・アントワネット。でこいつはダージリン。」


『ミキ』の発音を確かめ、馴れ馴れしく自己紹介する。


「早速だけど、真音のところに連れてってくれない?」


行きたくない。戻ればまた要らぬ妄想をしてしまう。

まあ……美紀の勝手だが。


「人は悩む……………人生は短いから」


何かを考える美紀を見て、ダージリンが場違いな事を言った。


「だ〜か〜ら〜、あんたはおとなしくしてなさいっつうの!」


「怒られた……………嬉しい」


「悲しいの間違いでしょ!」


「嬉しいと悲しい………似てる」


ジルはやってられないジェスチャーを見せた。多分いつもこの調子なんだろう。


「あの、如月君にどんなご用なんですか?」


やっぱり気になる。


「用って………まあ……たいした用事じゃないんだけどさ」


「真音は敵…………ジルは殺しに行く」


「バ、バカ!」


聞き捨てならない一言を聞いてしまった。

あわてふためくジル、その姿に嘘は見当たらない。


「如月君を…………殺す?」


「ち、違うの!この子何言ってんだか………アハハ……」


「ダージリン………嘘は言わない」


ボケなくていい時にボケるくせに、不完全な人造人間にジルは頭が痛い。

隙をついて美紀は逃げようとしたが、ダージリンに回り込まれてジルとの間に挟まれる。


「逃げようなんて思わないでね………あなたは真音のところに連れてってくれるだけでいいの。別に何もしないから」


「ジルはサディスト…………悲鳴が好き」


「このバカ!言うなっつってんの!!」


二人のやり取りさえ美紀には笑えない。

ジルはしかたなく銃を取り出し美紀に突き付ける。


「言う事聞くわよね?でなきゃあなたを殺すまでよ」










「ナノビートはガーディアンとのディボルトを可能にするスイッチのようなもの。選定者の遺伝子の配列プログラムに故意に傷をつけ、ディボルト時に常人にはない身体能力を与えてくれるのよ。ちょっと!聞いてるの?」


真音は近くの森林公園でユキと特訓の最中だった。


「聞いてるよ。それに、昨日何回も聞いたから」


「ならもう一度行くわよ?」


真音とユキがディボルトする。

ユキの肉体が原子レベルまで分解し、真音の肉体と融合する。見た目には、ユキの肉体が泡になったように見えた。


「なんか変な感じだ…………」


『慣れるまで我慢して』


真音の頭の中にユキの声が響く。ジルやトーマスからダージリンとエメラが現れた理屈がわかった。


「それで?俺は何を武器にすりゃいいんだ?」


銃もなければトランプを弄ぶ器用さもない。


『弓があるでしょ。なんの為に持って来たのよ』


ユキが言うのは部活で使ってる弓道の弓。


「これはダメだよ。バイトしてやっと買ったものだし、まして人を傷つける道具じゃない」


『まだそんな事言ってるの?他にあなたの得意とする武器があるの?』


「そんなもの無くたってなんとかなるさ」


『甘いわ。他の五人は命を奪いに来るのよ?どうやって対応するの?私の役目はあなたを神にする事。役目を果たす為なら鬼にでもなる覚悟でいるんだから、真音も自覚して』


真音には命の奪い合う気は毛頭ない。願わくば話し合いで事を収めたいと思っている。

すんなり行くとは考えてないが、こんな事が黙認されてるのには疑問がある。自分とジルとトーマスを除いても、残り三人の選定者も殺し合いを望んでいるとは思えなかった。


「一人でぶつぶつ言ってるところを見ると、ガーディアンと接触出来たみたいね」


「ジル!」


カジュアルな服装だが、安物ではない雰囲気がある服が彼女をより際立たせている。


「わざわざあなたの自宅まで行ったのよ?そしたら出掛けたって言うから………たまたま見つけたからよかったけど」


ひとつひとつの仕草が大振りなのに、嫌味がないのは外人だからだろうか?


『彼女も選定者なの?』


ユキが話し掛けて来る。


「ああ。話しただろ、第2選定者だ」


『おかしいわ………』


「何が?」


『ガーディアンの気配を感じない』


「ディボルトしてないって事か?」


ジルは真音が自分とディボルトしていると知っている。ガーディアンとディボルトしないで姿を見せるのは自殺行為だ。真音がその気ならとっくにやられてる。

にもかかわらず、あまりに無防備だ。


『何か企んでるのかも……警戒して』


「わかった」


言われるまでもなく、おとといの『やり方』とスタイルが違うという事は、有利に立てるカードが手持ちにあるという意味だろう。


「フフ……ガーディアンと相談してるの?無駄よ、こっちには切り札があるんだからさ」


何もしてないのに切り札を使うのもいかがなものか。

などと皮肉る暇などない。


「ダージリン!」


ジルが呼ぶと、真音の後ろからダージリンが現れる。美紀を盾にする形で。


「赤木…………!」


真音の顔色が変わる。


「あなたを倒す為…………感謝して」


ダージリンの故意か天然かわからないボケに浸る余裕はなくなっていた。


「こういうやり方は好きじゃないんだけど、他の選定者も日本に来てるみたいだし一人でも多く減らしておきたいのよ」


刑事ドラマ的な状況はさすがに予想してなかった。

選択肢も出て来ない。


「ユキ、どうする……?」


『決まってるじゃない、あの選定者を倒すのよ!』


「赤木はどうする気だよ!?」


『神になる為に犠牲は付き物。一人の人間の為に手をこまねくなんてナンセンスだわ』


ユキにはユキの役目があり、彼女はそれだけの為に存在している。

わかっていても真音には我慢がならない。


「赤木を離せ!」


『真音!!』


戦う意志がない真音を叱咤するが、ガーディアンが選定者の肉体を操作する事は不可能。真音との意思疎通が計れてない限り、細胞の融合だけでは戦えない。


「如月君!逃げて!この人達如月君の事殺すつもりよ!」


「人質は黙ってなさいな。これは私と真音の問題なんだからさ」


手を後ろに回し銃を抜き、鈍い光がギラリと勝ち誇って見える。


「ごめんね………如月真音。立派な神様になるから許して」


おどけるジルに睨みを効かせる。

人間が神になれるわけなどない。真音はそう思っている。


「さよなら」


ジルが引き金を引いた瞬間、ユキとのディボルトを解き、銃弾の両脇に二人が移動した。

銃弾はそのままダージリンの髪をかすめて後ろへ流れて行った。


「そんな………!」


ジルは意外な方法で難を逃れた二人に舌を巻く。

その隙をついて、ユキはダージリンに、真音はジルに飛び掛かる。

あらかじめ打ち合わせなどしてないのだが、そこはユキの気転のよさ。真音が何をしたいのか読んだわけだ。

そんなユキの想いとは裏腹に、ジルに体当たりを噛まして銃を取り上げる。

ユキも、ダージリンから美紀を奪取した。


「なかなか味な事をするじゃないのさ。選定者になるだけの事はあるわね」


「余裕だな。」


今度は真音がジルに銃を突き付ける。


「余裕よ。だってあなたに引き金は引けないでしょ?」


嫌な汗を流したのは真音だった。こっから先の行動までは考えてなかった。


「真音!撃って!type−β(ベータ)よりもまずは選定者よ!」


嫌な汗はユキにも流れる。真音に引き金が引けないのはわかっているからだ。ダージリンを敬遠しながらも、真音が引き金を引いてくれる事を願う。


「撃てないわよ……如月真音、あなたには」


嘲笑うようにジルは言った。

真音の手は震えとても照準を合わせる事など困難だった。

ジルの勝ちだ。


「くっ……………」


「情けないわねぇ…………どうやら買い被り過ぎたみたいね」


銃を降ろす。ジルはそれでも警戒しながら立ち上がった。


「………………俺はどうなってもいい。でも赤木とユキは見逃してくれ」


銃をジルに返して口調の弱い懇願をした。


「如月君…………」


美紀には状況は把握出来てないが、少なくとも自分を想っての言葉だと理解には苦しまない。


「真音…………なんてバカな事を!」


ユキは怒り浸透、あまりにくだらない駆け引きに投げる言葉さえ見つからなかった。


「そうねぇ…………そっちの女の子は別にいいけど、type−α(アルファ)を見逃す事は出来ないわ」


戻って来た銃をユキに向ける。


「頼む!せめて今だけは見逃してくれないか!」


尚も懇願する真音の眼差しは、ジルの気持ちにも何かを落とした。


「甘いボウヤ。そんなんでは選定の儀は戦い抜けないわね」


そう言いながらも銃をしまい、


「ダージリン!お腹減ったから今日はここまでよ!」


「甘いのはジルも同じ……………でも嫌いじゃない」


「あんたは一言余計なのよ!いいからさっさと来なさいっ!」


間違いなく照れ隠しだった。


「勘違いしないでちょうだい。私は一日四時間しか働かない事にしてるの。今日はいろいろ忙しすぎたわ。よかったわね、如月真音」


ジルはおととい真音の前から去ったように背を向けて歩いて行った。

その後をダージリンはてくてくと着いて行った。

なんとなく二人の姿が見えなくなるまで眺めていた。


「ふぅ………また助かったか。つくづく運がいいんだな、俺は」


一先ずの安堵から、肩の力を抜いた真音だったが、ユキの平手に頬を打たれた。半分殺意の篭った…………。


「な、何すんだよ!」


真音は当然だが、美紀も唖然とした。


「最低最悪の選定者ね。みすみす敵を逃がすなんて。冗談じゃ済まされないわ」


真音の行動はユキにすれば理解を超え、次元の違う行動に見えた。あれほど説明したのに全然わかってない。


「何も叩く事ないだろ!乱暴だな!」


「あなたがパートナーじゃなかったら、とっくに殺してるわよ!」


真音にはまだ事態を理解しきれていない。突如としてガーディアンと名乗る少女が現れ、突如として神になる戦いを強要され命を狙われた。夢でない事は確かだが、現実だと認識するにはあまりに非現実的だ。

そんな真音の戸惑いこそ、ユキの怒りを買う原因でもある。


「はっきりしましょう、私の役目はあなたを神にする為に選定の儀を勝ち残る事。でもあなたにその気がないのならここで死んでもらうわ!」


かわいらしい顔立ちからは想像出来ない殺気がユキから漂っていた。


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