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第四十二章 裏切りの女

『嶋津』。生き証人の名字らしい。古びた表札にそう彫られている。住まいはお伽話をイメージさせる茅葺き屋根の家屋。人里離れた山の中にそれはあった。


「お疲れッス」


一足先に来ていた正之が石田達を迎えた。


「こんな山ん中とは思わなかったよ」


石田は久しぶりに正之の顔を見たが、運転の疲労でたいして会話をする気にもなれなかった。


「あっ!」


真音は車から降りると正之を見て声を上げた。


「やあ」


短髪の青年。警察署で会った男だ。石田の仲間なのだから刑事という身分は嘘。その笑顔がそう言っていた。


随分辺鄙へんぴなところに住んでるのね」


ジルは風情のある場所は嫌いじゃない。まるで観光地にでも来たように軽い雰囲気でいる。


「正之、もう会ったのか?」


「ええ」


「どうだった?」


「ん〜………普通のお爺さんって感じッスかね」


「そんなわけないだろう?140歳だぞ。『普通』って事はないだろ」


何をもって『普通』なのか。

 正之は物事を深く考えないタイプだ。真に受けるわけにはいかない。石田が疑っていると察して正之は説明を付け足す。


「いや、ちゃんと会話も成り立ちますし、ボケてる風でもないですよ」


会ってみるのが一番だろうが、前情報というのは重要だ。心構えというものがある。


「わかった。行こうか」


石田が正之を促すと、


「ちょっと!」


ジルが呼び止めた。


「ああ、君達はここにいてくれ」


忘れてたわけではないのだが、ついつい放ってしまう連中だ。


「そうはいかないわ。私達にも権利というものがあるわ」


「しかしこれは組織の任務だ。君達には悪いが関係ない」


「あらあら……言わせてもらうけど私達は眠れる獅子の一員でもなけりゃ仲間でもないわ。そこを勘違いされると困るわね」


ジルが言うと、真音達も同意見らしく石田を見つめる。

どうやら都合よく考え過ぎていたらしい。真音にまでそう思われているとなると、なんだか少し淋しくなる。


「石田さん、俺達は自分がどうしてこんな事に巻き込まれているのか知りたいだけなんです。その為に必要な情報には、例え僅かでも知って起きたい。それだけなんですよ」


「…………………わかったよ如月君。だが大勢で押しかけるわけにはいかない。ジル、君だけ来てくれ。如月君達はここで正之と待っててくれないか?」


真音達はジルを見る。彼女の判断に任せるのだろう。

ジルはめんどくさそうに、


「わかったわよ。言い出しっぺは私だからね。私が行って来るわ」


「決まりだな」


そう言って、石田とジルは140歳の生き証人の元へ向かった。










「もしもし………リオです。例の件ですが、ヒヒイロノカネをガーディアンから取り除く事は不可能ではなさそうです。………………ええ、もう少し時間を下さい。……………わかりました。また連絡します」


リオは倉庫の中で携帯電話で話していた。

携帯電話を切って地下の研究施設の廊下に出て何もなかったように歩き出した。

時は真夜中。施設内にはまだ研究員がいるが、昼間ほどざわついてはいない。リオも今日の仕事は終わり、後は自宅へ戻るだけだった。


「……………?」


ふと、嫌な空気を感じた。

それは的中し、背後から声がかかる。


「夜中に隠れて電話とは、なかなか色気があるんだな。仕事一筋かと思ったよ」


「李奨劉………」


李は堂々とリオの前に現れた。


「ここへの立ち入りは許可してないはずですが?」


李のレジスタンス内部での行動範囲は制限されている。地下の研究施設へは立ち入りを禁止している。


「そういう強気な態度、電話の相手にも取れるのか?」


「…………何が言いたいの?」


「電話の向こうには誰がいるのか…………大体予想はつく」


「回りくどい言い方はやめなさい」


「クク………哀れな女だ。あんたはもう用済みなのさ」


「どういう意味かしら?」


「聞いたまんまだよ。あんたあの島からヒヒイロノカネを持って帰ってたんだな」


「…………どうしてそれを?」


ごまかしても意味がなかった。李はなにもかも知っている。リオの背中を冷たい汗が流れた。


「ビリアンってあんたの上司があんたの自宅を家捜しをしたら、ヒヒイロノカネを見つけたんだとよ。俺も見せてもらったが。本物かどうかは知らないけど、少なくともあんたの上司はそう思っている。だからあんたを殺せとさ………裏切り者として」


「…………油断してたわ。まさかあの男がそんな姑息な真似をしてたなんて」


ビリアンの事は十分に騙せていたと自惚れていたかもしれない。家捜しなんてみみっちい事をするのは想定外だ。


「本来なら拷問にでもかけていろいろ聞くのが普通なんだが………なぜか殺せとの事なんでね。悪く思わないでくれ」


李の黒い鉄甲が鈍く光る。


「今が一番大切な時期なのに…………これじゃ台なしね」


「楽に殺してやるよ」


李が腕に力を溜めてリオを襲う。別に能力を使うまでもなかったのだが、抵抗されずに確実に殺すにはそれしかなかった。

だが、拳がリオに触れる瞬間………


「!!?」


身体が吹き飛ぶ。


「くっ………」


なんとかそのまま宙返りして着地はしたが、今までに感じた事のない気配をリオから感じる。


「おあいにくさま、殺されるのは私じゃなくてあなたよ………李奨劉」


リオの瞳が金色に光っている。


「な……………おまえは……!?」


銀髪が手伝って金の瞳が映える。

リオが手を前に出すと、李の身体の自由が奪われる。


「ぐあっ…………なんだこの力は………」


リオはそのままゆっくり近づいて来る。


「どう?追い詰められた気分は?」


「貴様………選定者か!?」


「ウフフ……さあ?どうかしらねぇ」


常人でないのは確かだ。選定者がガーディアンとディボルトでもしなければ有り得ない力。身体の骨が軋み始める。


「あなたでは私には勝てない。それでも私を殺すの?」


「知れた事………!」


「そう」


まるで悪魔にでもなったかのようなリオ。まぶたを一度閉じて、カッと開く。すると李を締め付ける得体の知れない力が一気に強まる。


「うあああっ!!」


『リ……リー……!』


ガーネイアも強烈な痛みを共感している。耐え難い痛みを。


「あなたも馬鹿な男。こんな仕事さえしなければ死なずにすんだのに」


世の中には知らなくてもいい事もあるのだと言わんばかりに微笑した。

その時、


「ああ………っ!」


リオの左肩に矢が突き刺さった。


「勘が鋭いだけの女ではなかったな」


胸元に赤いリボンのある制服。


「メグミ=スズキ………」


かつて真音の学校で弓道部の部長をしていた少女だった。


「くそっ……」


力から解放はされたが、李は大分ダメージを負い、立つのがやっとだ。


「ビリアン様も見る目がない。あなたみたいな女狐を好んで傍に置いておくんだから」


めぐみは再び弓を引く。


「そんなもので私は倒せないわ」


「どうだろうか?その矢には毒が塗ってある。死ぬのは時間の問題だな」


男っぽい口調で語るめぐみがリオはお気に召さない。


「……………原始的なのね、見かけによらず」


リオは矢を抜き取り反撃しようとしたが、レジスタンスの兵隊が集まって来た。


「手回しがいいのね……」


「あなたの上を行かなきゃ認めてもらえないからな」


リオの額に汗が滲む。おそらく毒の効力だろう。


「バカか………ビリアンは内密にしろって言ったんだぞ」


李は朦朧もうろうとしながらもめぐみに言った。


「相変わらず秘密を作るのが好きな男ね………ビリアンは」


肩の傷を押さえるわけでもなく、リオは雄々しいくらい余裕がある。


「強がりはそこまでだ。リオ=バレンタイン、覚悟を決めろ」


めぐみの声で全員銃を構える。


「メグミ=スズキ、あなたにひとつ聞いてみようかしら」


「なんだ?」


「命は平等だと思う?」


何を聞かれるのかと少し構えたが、肩を空かされ鼻を鳴らした。


「フン。なんてつまらない質問。命は平等だろ。だから権力者達は神という特別な存在を形にしようとしたのだろう?」


それを聞いてリオ失笑した。


「フッ……やはりそれだけの人間なのね。いいわ、教えてあげる。命は平等じゃないのよ。特にあなた達みたいに虫けらにも等しい人間の命は無くても誰も困らないわ」


「偏った思想はいらない。終わりだ!」


めぐみが矢を放つと、一斉に銃声が轟く。しかし………放った矢も銃弾も、リオの前で止まってしまった。そして真下に落ちる。


「そんな…………!」


「残念ね。こうなった以上は遊んでる暇はないわ」


驚くめぐみを尻目に、リオは逃亡を謀った。


「逃がすな!追って!」


めぐみの指示で隊員達がリオを追う。


「李奨劉、もう一仕事してもらう」


「クッ………言われなくてもやってやる」


痛みを堪え、めぐみと共にリオを追う。

リオ=バレンタイン。その力は神かそれとも幻か………。


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