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第三十八章 Viva!温泉パラダイス! 〜ボルテージ〜

「はぁ〜………いい気持ち………」


すごく色艶のある声をジルが漏らした。


「生き返るわぁ………」


まるで生粋の日本人のようなセリフを口走り、ユキ達を驚かせていた。


「ん?何?」


ぽかんと口を開けたユキに気付く。


「ジルって外人じゃないみたい」


「あら、どうして?」


「だって温泉に入ってそんなセリフ言うのって、日本人くらいでしょ」


「ああ…」と納得して岩に寄り掛かる。


「堅苦しい家で育ったからさ、その反動でついつい解放的になっちゃうのよねぇ」


冬の寒さが温泉の保温効果を一生懸命に消そうとして来る。


「ジルって歳いくつなの?」


エメラも岩に寄り掛かってジルに聞いた。


「23。あなた達とは違って大人なのよ」


今度は寄り掛かっていた岩に座り、本人自慢の肢体を晒す。


「ちょ………ジ、ジル!!」


なぜかユキが真っ赤になる。


「何赤くなってんのさ。同じ女でしょうに」


全く恥じらう気配がない。


「そ……そういう問題?」


「そういう問題よ」


寒くなってきたのか、また自然の恩恵にあやかる。


「極楽極楽〜ぅ」


湯煙がジルの為の演出に思えるのは気のせいではないだろう。


「お気楽ね……」


「そう?楽しい時間はあっという間なんだから、楽しめる時に楽しむのが一番いいんじゃないの?」


ジルの言う事には一理ある。それはわかるのだが、なかなか受け入れる気にはなれない。それはエメラも同じ。


「起きてる問題から目を逸らす結果にならないといいけど」


「若いくせに慎重派なのね二人共。もっと羽を伸ばしなさい」


勢いよく立ち上がると、ジルはタオルを背中に背負う。バチンッと大きな音を立てて。

そのオッサン地味た行為にユキとエメラは目を丸くした。

二人の心中を察したのか、ずっと隅でおとなしくしていたダージリンが、


「ジルは案外オバサン」


キメてくれた。


「あんたはまた余計な事を!」


ジルがキーッとなって騒ぎ出す。『オッサン』と言わなかったのはせめてもの情けか。

二人のやり取りにユキもエメラも呆気に取られてしまったが、顔を見合わせると笑いに変わった。










「な〜にがそんなに楽しいんだ?」


風呂に入るくらいで笑い声が聞こえるのが、トーマスには不思議に思えた。女湯とは竹で作られたつい立て一枚。直に声が降り注いで来る。


「裸の付き合いは絆を深めるからな」


石田はジルがしていたように岩に寄り掛かる。当たり前だが、覗いていたわけではない。


「日本人の考える事はさっぱりわかんねーな。この寒い中、外でバスタイムとは………」


やれやれとポーズを取る。


「とか言って、まんざらでもないんだろ?」


ヘリの中でトーマスに殴られた事など忘れているのは温泉の効能だろうか、真音がからかうように言う。


「ケッ。くだらん」


言葉は建前で、くつろぐ姿が全てを物語っている。

それにしても騒がしい。一分に一度はキャッキャッキャッキャッと桃色と黄色い声が飛び交う。よからぬ煩悩に負けぬように三人とも精一杯頑張っている。


「うるさい連中だぜ」


と、トーマスは言ってるが、やっぱりそこまでうるさいとは思ってないようだ。

一人温泉から上がって屋内に入って行く。外から見てると、どうやら身体を洗いに行ったらしい。


「アメリカ人ってもっと度胸があるのかと思ったんだけどな………意外に恥ずかしがり屋なんだな」


生意気なトーマスの意外な一面に石田は微笑んだ。

大所帯での休暇(?)にいささか不満はあったが、なんだか修学旅行みたいで楽しくなって来た。


「石田さん」


「ん〜?どうした如月君?」


「俺達、これからどうなるんでしょうか?」


まだ前に進めてる気がしなかった。ディボルトによる能力の使い方はコツを掴めたがそれだけ。研究所から持ち帰って来た資料には『青薔薇』というガーディアンの事しか書かれていなかった。マスターブレーンの事もまだわかってないし、ヒヒイロノカネについてもだ。レジスタンスとの戦いだけが当たり前になっている。どこに進んでるのか、確固たる何かが欲しい。

例えそれが希望でなくても。


「先の事なんて誰にもわからないよ。君が不安なように、俺も不安なんだ」


「二ノ宮さんの事ですか?」


「………まあな」


「親友だったんですよね?」


「今でも親友さ。これから先何があっても」


遠くを眺めて答えた。多分思い出してるに違いなかった。


「石田さんが刑事じゃないとわかった今、あの時言ってた二ノ宮さんを追う理由も嘘って事ですか?」


石田が二ノ宮を追う理由。それは二ノ宮が殺人を犯したからだと石田は言っていた。たがそれは石田が真音に素性を隠していた時点での話。

確かに二ノ宮は各国の首脳を暗殺した。しかし、それなら各国の首脳を、眠れる獅子の組織力を使ってマークしていれば二ノ宮に会えたはず。そうしなかった理由が、今ならわかる。


「石田さんは個人的に二ノ宮さんを追ってるんじゃ………」


「ハハハ。鋭いね」


的は射たようだ。

でも雰囲気から詳しく言う気はないのだと悟った。他人には言いたくない訳があるのだろうか。


「如月君、俺が個人的に二ノ宮を追ってる事は誰にも言わないでくれ」


「…………わかってます。何となく、言ってはいけないんだろうなって思ってますから」


「二ノ宮は既に国際指名手配されている。それとは別に眠れる獅子も追っている。万が一にも彼が捕まるようなヘマはしないだろうが、誰よりも先に二ノ宮に会いたいんだ。最悪の事態になる前に」


急に辺りが静まり返る。不気味なくらい。

いつかわかる時が来るのだろうか?石田が二ノ宮を追う理由を。


「なんだ?真剣な表情して?」


我に返るとトーマスがいた。


「なんでもないよ」


誰にも言わない。そう約束したばかりだ。大体、トーマスにそこまで信頼は寄せてない。成り行きで一緒にいるが、よくよく考えれば仲良くする必要もない。それと…………


「…………思い出した!トーマス、お前そういえばヘリん中で殴ったよな!」


飛躍した話を突き付けられ、トーマスは一瞬怯む。


「ああん?何を今更……」


「思い出したら腹立って来た!」


そう言うとファイティングポーズをとる。


「一発殴らせろ!」


「バカか。殴りたかったらかかって来いよ」


トーマスもファイティングポーズをとる。話し合おうなんて気はさらさらない。


「止せよ二人共!」


石田が止めに入るが、若い盛りの二人の取っ組み合いに弾き出され温泉の中に転げてしまう。


「ぶはっ!」


よもや溺れ死ぬような奇跡は起こらないだろうが、反射的に焦ってしまう。


「……………げほ。…………ったく…………」


周りに人がいないのが幸いだろう。

二人は頬をつねったり、頬をつねったり…………殴り合う予定はどこへやら。まるで子供の喧嘩だ。

そのままあっちに行ったりこっちに行ったり。そして辿り着く先は、お約束の………


「お、おい!そっちは………」!


真音とトーマスは取っ組み合ったまま、つい立てに衝突。気付いた時には、つい立てはどちらに倒れるか迷っていた。


「やばっ!」


真音が声を上げた瞬間、つい立ては女湯へ倒れる事を決意したようで、見事ジル、ユキ、エメラ、ダージリンのあられもない姿と御対面出来た。


「……………ま、真音!?????」


ユキが慌ててタオルで身体を隠す。


「い、いや………これは事故なんだ………」


言い訳は通用しない。これには沈着冷静なエメラも顔色が変わる。


「トーマス……………」


「おおおお俺じゃない!こいつが………!」


そい言って真音を指差す。


「ひ、人のせいにするなよ!」


「お前がケンカ売って来たんだろ!」


「自分だって買ったじゃないか!」


「んだとっ!」


「なんだよっ!」


また、取っ組み合うが、


「「二人共いい加減に………」」


ユキとエメラからメラメラと炎が立つ。


「「しなさあ−−−−−−−−−−−−−−−−−いっっっ!!!!!」」


言うまでもなく、ぼこぼこにされた。


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