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第三十七章 Viva!温泉パラダイス! 〜青いメロディ〜

旅館に着き、最上階に宿泊する一同は、部屋から見える爽快景色に感動していた。


「うわあ………綺麗………」


ユキは初めて雪化粧というものを知った。

辺りは一面銀世界。太陽の光がキラキラと反射して歓迎を受けているようにも思える。エメラも同じ反応をしている。

もしかしたら、雪を見るのは初めてじゃないかもしれない。

削除されたメモリーの中にあったかもしれない。そう考えると寂しい気もするが、とりあえずタダで温泉に入れるのだ、楽しまなきゃ損だろう。


「エメラ、ダージリン、温泉に入って来ようよ!ジルも行くでしょ?」


ユキは子供のようにはしゃいでる。


「そうね。それが目的なんだからそうしないとね」


エメラがそわそわしている。自分を保とうと必死なのだろう。

ダージリンはバッグの中から何やら缶詰を取り出して、


「ミルクにご飯………」


温泉にミルクを連れて行くと言い出し、連れて来てるのだ。部屋に入れるわけにはいかないから、旅館の裏手に置かせてもらっている。


「じゃあ先に行ってるからすぐ来てね」


ユキの問いにダージリンはコクンと首を下げた。


「ジル、早く早く!」


「待ちなさいよ」


待ち切れないユキを落ち着かせようと…………はしない。決してしない。絶対にしない。ジルは日本に来たら温泉に入りたいと常々思っていたのだ。待ち切れないのは同じだ。

ユキ達が部屋のドアを開けると、調度真向かいの部屋もドアが開き、真音達も出て来た。


「ユキ…………どこ行くの?」


「決まってるじゃない。露天風呂に行くの。真音達は?」


「俺達もだよ。夕飯の前に入って来ようかなって」


こんな小さな奇遇でも真音には嬉しかった。


「なんでもいいけど、あんた達さあ…………」


ジルが髪を掻き上げ、


「覗かないでよ」


念を押す。


「誰が覗くかよ!」


真音と石田の耳元でトーマスが叫んだ。

ほんの少しでもジルに見とれた自分が許せないのかもしれない。

ジル達がエレベーターに乗ったのを見届けてから、またエレベーターを呼んで乗り込む。やけに面倒な事をするが、女湯と男湯は隣り合わせになっている。時間を空けて入らないと、『また』からまれる。

石田としては自分に害はないからどうでもいいのだが、思春期を生きる二人には重大な問題なのだろう。


「うらやましいねぇ………青春ってやつが眩しいよ」


来年には三十路を越えて一年目を迎える石田。真音の半分余計に生きてる。色々あったなと、遠くを見てしまう。


「そうですか?俺は早く社会に出て働きたいです」


前向きな真音の想いと、かつては同じ気持ちでいたが、もう忘れてしまった。


「そう思えるのはまだ責任が無いからだよ」


「責任?」


「ああ。自分の人生にな」


自分の人生になら責任を持ってるつもりだが………真音にはまだわからない。

思い悩む表情の真音を見て、


「考える必要はないさ。そういうのは人生でいろんな事を経験して学んで行くものだからね」


タイミングを見計らったようにエレベーターが停まった。










レジスタンスの本部へ着いたリオは、一路ビリアンの部屋を目指していた。

島で見付けたアタッシュケースを華奢な手で運ぶ姿は愛らしくもある。ただし、今度は迷彩服ではなく、黒のハイヒールに黒のストッキング、藍色のスカートにジャケット、インナーは白いTシャツでキメている。

目的地まで着くと、ドアを三回ノックして二秒くらいしてから中へ入る。


「失礼します」


ビリアンは立って窓の外を眺めていた。


「只今戻りました」


アンティークの大きな机を挟んでビリアンの背中に言った。


「…………ご苦労だった」


もったいぶったようにゆっくりリオに向く。


「その顔を見ると収穫は期待していいのかね?」


リオの笑顔には種類がある事を知っている。ひとつは相手に警戒心を抱かせない笑顔。所謂営業スマイルというやつ。二つ目は仕事仲間への配慮からする疑似的な笑顔。今ビリアンが見てる笑顔はそのどちらでもない。

かと言って、若い女性が見せる艶のある笑顔でもない。

リオは机にアタッシュケースを置き、開けてビリアンの方へ向ける。


「研究所から見付けたガーディアンに関する、かなり深い資料です」


ビリアンは適当に手に取ってみる。


「これは日本語?…………ドイツ語にフランス語………英語にラテン語まで…………」


こんなに数多くの言語を目にしては、さすがに眉をひそめてしまう。


「研究所には様々な国の研究者がいたようです」


「あの当時の世界は…………」


当時の世界情勢は手を取り合うような時代ではなかったはず………そう言いかけたが、それは間違いだったのか、それとももっと他の事情があったのか、真実はおそらく『こっち』だ。


「一通り目を通しました。これがそれぞれを訳した文面です」


『SECRET』と書かれたディスクを差し出す。


「フッ………いつの間に………。仕事の早さは天下一品だ」


「ありがとうございます」


「訳したという事は、中身はもう呼んであるんだね?」


「はい。戻って来てからでは真偽を確かめるのも遅くなりますから。それに、長老達には極秘という事でしたので」


「なるほど」


長老達に警告された真偽はまだ確かめていない。


−信用に足りる人物か−


誰より信頼して来たパートナーを疑う事は、自分自身を疑うのとなんら変わらない。問うべきかどうか、まだ腹は決まらない。


「因みにこの資料の中で一番の収穫はなんだね?」


とりあえず会話からでもそれが確認出来ないか試みる。


「一番………ですか?」


どれもこれも驚愕の情報ばかりだ。甲乙は付け難い。


「強いて言うならば、ガーディアンの製造方法が書かれたものがあります」


「………そいつは興味深い。で、それは可能なのか?」


ガーディアンが存在する以上は可能だろう。ビリアンが聞いてるのは、ガーディアンを自分達の手で造れるのかという事。


「科学についての知識は乏しい私にでも、それは『可能』なのだと理解出来ました。ただ、それには『ヒヒイロノカネ』が不可欠です」


「ヒヒイロノカネ…………それについては?」


「残念ながらヒヒイロノカネに関する資料は見付かりませんでした」


「………当然か。現存するガーディアンの製造に必要だったんだろうからな。それにしても誰がガーディアンを造ったんだ?」


長老達でさえ知らない事。マスターブレーンの場所さえもだ。

選定者候補の情報は長老達がほぼ奇跡的に手に入れたと聞かされている。それがきっかけでレジスタンスが組織されたのだと。


「調査は引き続き致します」


「頼む」


リオが頭を軽く下げビリアンに背を向けると、


「リオ君」


ビリアンに呼び止められる。


「はい?」


腹を決めたのだ。あやふやなままでは今後に影響する。


「長老達が君を疑っている」


「え………?私を……?」


微細ではあるが、表情が曇った。


「実は今回の任務もなぜか長老達にはバレていたよ」


「本当ですか?」


「ああ。それでね、第6選定者との内通者が君ではないかという話になった」


「私が?……フフ」


「何がおかしいのかね?」


「まさかビリアン様、真に受けてるわけでは?あまりにバカバカしいお話です


「私は君に絶大な信頼を置いている。だからこうして聞いているのだ。どうなんだね?」


リオはさっきとは違う種類の笑顔を見せ、


「第6選定者とは会った事はもちろん、声を聞いた事すらありません」


嘘をついた。リオは島で二ノ宮を見ている。しかし今それを言えば、話がこじれかねない。せっかく得た信頼をわざわざ捨てる必要などどこにもない。


「…………わかった。君を信用しよう」


再びビリアンに頭を下げ部屋を出た。


「どう思う?」


ビリアンは隣の部屋にいる人物に声をかけた。


「信用するんだろ?」


若い少女の声が返って来た。


「私は君に聞いている」


少女は制服のリボンを直しながら、


「リオ=バレンタイン…………組織の個人情報に嘘はなかった。なら信用出来るんじゃないか?」


「彼女を甘く見ると痛い目に合う。だから慎重に見定めたい」


「確かに、『出来る女』ではありそうだけど………そこまでとは思えないね」


「それは嫉妬じゃないのか?」


「イギリス人って笑えないジョークが好きなのかい?」


「リオ君はキレ者だ。飼い犬に手を噛まれる程度では済まないのだよ………敵に回すとね」


「案外臆病ですのね。もっと絶対的な性格かと思ってましたけど」


皮肉でもなんでもない、素直な少女の意見だ。

長老達は置いといて、ビリアンは事実上レジスタンスをまとめ上げている人物。王様のような人間かと思っていたのだ。


「覚えておきたまえ、上に立つ人間ほど臆病者なのだよ」


上に立った者だから言える言葉なのだろう。


「説得力のあるお言葉です。ですが………」


少女はドアを開け、


「誰を傍に置くかによっては、状況は一変すると思いますけど?」


リオへの宣戦布告にも取れる発言をした。


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