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第三十五章 孤島より旅立つ

リオがヘリまで戻って来ると、それを待っていたかのように隊長が駆け寄って来た。


「バレンタイン殿!退却命令を!このままでは全滅です!」


選定者の驚異に晒され、もはや戦意は見られない。

リオもこうなる事は予測していたから落胆する事はない。欲しかった物も手に入れた。


「随分殺られてしまいましたね………」


軍用ヘリ3機に分けて乗って来たが、どうやら帰りは1機で間に合いそうな人数だった。


「いいでしょう。皆さんが働いてる間に用は済ませました。引き上げます」


リオがそう言うと、隊長が笛を鳴らした。退却の合図だ。

先にヘリへ乗り込んだリオは、パイロットにも退却の意志を伝え準備をさせる。

待機していた残る2機も離陸準備に入る。

 隊員も数人ばかりだが、慌ただしく駆け込んで来る。それだけ恐怖を感じたのだ。


「彼はどうします?」


隊長が言った『彼』とは李の事。まだトーマスの前で動けないでいる。


「置いて帰るわけにはいきません」


選定者とガーディアンは研究対象としてもレジスタンスには必要だ。


「しかし助けに行くのは危険過ぎます!」


「心配ありません」


取り出したのは閃光弾。発煙筒に似た赤い包を専用の銃にセットして、


「李奨劉!!」


リオは叫んで閃光弾を撃つ。

それだけで伝わるかは李の勘に賭けるしかなかった。

放たれた閃光弾はちょうどトーマスと李の頭上付近で勢いをなくす。それは役目を果たす合図。

あらかじめ不測の事態の時の為に赤い包は閃光弾だと教えておいてあった。見ればどういう意味かはわかるはず。


「みんな伏せろっ!!」


石田が叫ぶと、それに反応して真音達は地面に平伏す。その隙を突いて李は一気にヘリを目指す。


「李!!」


逃げて行く李を見た直後、トーマスの眼前は強い光に包まれた。


「くあっ…………!!」


目の奥に激痛が走りトーマスの視界は遮られた。

李はよろけながらもヘリまで辿り着き、リオの手を取って乗り込めた。

レジスタンスのヘリはパイロットのみの2機が先に離陸し、生き残った隊員達が乗ったヘリが最後に離陸した。

この島での任務は終わったのだ。










「行っちゃったよ?」


ロザリアは二ノ宮を介抱しながら空へ消えて行くヘリを見ていた。

結局、オリオンマンを追いきれなかった。


「せっかくの資料………持ってかれちゃってどうするの?無駄足になったじゃない」


ぶうぶうと珍しく文句をつけた。


「…………成るように成るさ」


オリオンマンに殴られた腹部を抑えながら言うと、乗って来た小型クルーザーのエンジンを始動させる。


「時間だ。近くまでチャーターしたヘリが迎えに来る。行こう」


端的な言葉になるのはダメージが大きいからだろう。

アクセルを全開にして発進させた。










訓練はしたが、慣れないディボルトのせいで立ちくらみがする。


「第6選定者…………何と言う奴………」


オリオンマンが感心したのは二ノ宮の能力ではなく、鳩尾みぞおちへの攻撃の事。二ノ宮は殴る瞬間、中指の第二関節を突き出したのだ。それは見事に急所を捕えた。


「どうするの?他の選定者に会って行く?」


メロウに疲労は見られない。

まだ余力があるようだ。


「いや、今回は見送る。出直す方がいいだろう」


「そ。なら帰りも海賊に頼む事になるけど?」


オリオンマンとメロウは、海賊に依頼してここまで来たのだ。詳しくは言わなかったが、メロウの交遊関係は広いらしい。海賊に依頼するお金も、オリオンマンはどこから出て来たのかわからないでいた。そんな事よりも、海賊風情に頼るのが気に入らなかった。他に方法が無いから仕方なく従ったが。


「……………そうするしかあるまい」


渋々承諾した。さすがに陸地まで泳ぐ自信はない。


「それとさあ………」


メロウが何か言いかけたので、オリオンマンが見ると。


「船ん中でケンカ売る言動はやめてね」


「ケンカ売った覚えは………」


「船に乗ったら一切喋らないで。あなたが喋ると話がこじれるから。海賊相手に正義を説く人なんて聞いた事もないわ」


オリオンマンは口をつぐんだ。

どうもメロウには頭が上がらない。

ガーディアンに頭が上がらないのはオリオンマンばかりではないのはガーディアンの特徴なのか、それとも選定者が不甲斐なさ過ぎるのか…………誰も知るところではなかった。










「操縦出来るんでしょーね?」


冷ややかな目でジルは石田を見た。


「一度訓練で操縦した事はあるんだ」


自信の無い口ぶりから、『一度』の経験も危ない予感がした。

眠れる獅子の隊員達は全員殺されていた。帰りのヘリは無傷で済んだものの、無事帰還出来るかは疑問を拭えない。


「はぁ………やれやれだわ。命の保証すら無いなんて……」


半分自棄になってナビシートにどかっと腰を下ろした。


「んなもん最初からないだろ」


操縦席にトーマスが顔を出す。


「じゃあ死んでもいいって言いたいわけ?」


「そうは言ってねーだろ。ったくフランス人とは合わねーな」


「アメリカ人は誰とも合わせる気がないんじゃないの?自分達さえよければそれでいいって人種だものね」


「んだとっ!」


「何よ!」


戦争が起きるのを防ぐようなタイミングで真音が来た。


「なんか騒がしいけど、トラブル?」


状況を把握してない間の抜けた空気が見事に戦争を制止した。


「お前は気楽でいいよ」


「寝るわ」


二人がため息をついて後方の座席に戻って行ったが、真音は二人の態度に「?」しか浮かばなかった。


「よしっ!準備万端だ!」


トーマスとジルを無視した甲斐があって離陸準備は出来た。大切なのは『これから』なのだが、石田は既に一仕事終えた感になっていた。


「如月君、みんなにベルトをするように言ってくれ」


そう言いながらもう一度計器類を確認する。


「わかりました。でもいいんですか?」


「何がだい?」


「もっと隈なく研究所を探索した方が………」


「そうしたいのは山々だけど、またレジスタンスに戻って来られても困るし、君達から貰った資料と俺が見つけた資料でも十分だ」


「全部『青薔薇』ってガーディアンの観察日記ばかりですよ?多分みんな………俺もですけど、『ヒヒイロノカネ』に関するものを期待してたんじゃないかと………だとすると、持って帰ってもその資料が役に立つかどうかは………」


「如月君」


「はい」


計器類の確認も終了し、すぐにでも離陸出来る。だから余裕を持って教えてやる。


「役に立つかどうかは組織が判断する。不足ならば、今度は人員を増やして探索に来るはずだ。組織が一番恐れるのは、俺達が帰らない事なんだよ。元々存在すら怪しかった島だ。その存在が確認出来ただけでも組織にとっては十分な収穫だろう。それに…………」


ヘリのプロペラが声を上げる。


「君達をこんなところで死なすわけにはいかない」


石田の言葉に嘘は見当たらなかった。

ヘリは砂埃を巻き上げて飛び立つ。決して少なくない犠牲を残して。

雲行きが怪しくなった。百年もの間誰も訪れる事がなかった孤島には、人知れず青い薔薇が咲いていた。


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