第三十四章 3値理論
廃工場での借りは高い利子を払えたと言ってもよかった。
動かずに攻撃出来るトーマスと機敏な動きが信条の李とでは、リスクは常に体力を使う李にあった。
「はぁ………はぁ………こんなバカな事があるのか………」
足元にも及んでなかったトーマスに、逆にやられっぱなしでフラストレーションはMAXに達している。
「観念しろよ。お前だけは生かしておかねーからな」
トーマスも饒舌になる。
李にとっては最悪な事に、トーマスの攻撃を回避して時間を稼げば稼ぐほど、使い慣れない力をトーマスは使いこなして行く。
「一つ目のヒヒイロノカネは李、お前から貰う!」
自分の手に帯電させてを李を狙う。
「クソッ…………」
かわす自信はなかった。ディボルトしてるだけでもかなりの疲労を伴っている。李は膝から落ちた。
『トーマス!!』
エメラが頭の中で叫ぶ。
「悪いなエメラ、お前のお友達殺しちまうけど勘弁してくれ」
手の平を開いて李の頭にかざす。
「グッバイ……チャイニーズ」
『待ってトーマス!』
キメたと思ってたのに邪魔され、
「なんだエメラ!邪魔するな!」
イラついた。
『違うの!ガーネイアじゃないわ!さっきのガーディアンの気配…………崖の上よ!』
「だからなんだよ。俺はこいつさえ殺れればそれで………………何っ?」
トーマスは崖の上を見上げる。
感じた。強い力を。
「…………第6選定者……………もう一人いる………」
強くなったと思っていた自分を遥かに凌ぐ強い力。
膝を落とした李も、そのとてつもない力に息を呑んだ。
青生生魂を振り回し果敢に攻める。
一方、オリオンマンは馬鹿でかい槍を具現して応戦していた。
「そんな華奢な武器で私の命を計れると思うな!」
オリオンマンが槍を振るう度に奏でる空気を切る音が凄まじい。
「たいした自信だが、これでもその自信が続くかな?」
二ノ宮が青生生魂の刃に左手を添えると、刃が炎に包まれる。
「何をするかと思えば……」
嘲笑い受けて立とうとするオリオンマン。
二ノ宮が青生生魂を地面に突き立てる。すると、刃の炎が地面の中へ吸い込まれた。
『ダメ!避けて!』
メロウだけは異常なエネルギーを感じていた。
オリオンマンの足元に亀裂が入り、吸い込まれた炎が一気に噴き上がる。
「……………やったか?」
二ノ宮が炎の柱を見つめていると、
『セイイチ!上!!』
ロザリアに言われ頭上を見る。
「終わりだ二ノ宮!!」
オリオンマンは二ノ宮の技を回避すると同時に上空へ飛び上がったのだ。
「フッ………」
二ノ宮は鼻で笑い、なんとそのまま消えた。
標的を失っても落下速度を落とせないオリオンマンは地面に槍を突き刺す。その衝撃で地盤が豪音を立て陥没した。
「ふざけた真似を!どこに行った!?」
瞬間移動をやって見せた二ノ宮を探す。見失ったら厄介な相手だとメロウが告げている。
『気配事消えるなんて………早く見つけて!危険な相手よ!』
瞬間移動で見失っても気配で居場所を特定出来ると思っていただけに、メロウも焦り出した。
「ここだ!オリオンマン!」
後ろに急に気配が生まれ振り向くと、
「ぐあっ…………!」
鳩尾に二ノ宮の拳が捩り込んだ。
でかい図体が派手に倒れた。
「なんでもデカけりゃいいってもんじゃない」
青生生魂の刃をオリオンマンの首に近付ける。
「……………何と言う強さだ」
オリオンマンは見た目だけで二ノ宮を判断した事を悔いた。
「お前に教えておいてやるよ。ガーディアンは…………」
二ノ宮が言いかけた時、二人のものとは違う気配を感じて辺りを見ると、銀髪の女性が見ていた。
「……………………。」
銀髪の女性は驚いたように固まっていた。
『セイイチ!』
ロザリアに呼ばれハッとすると、オリオンマンの拳が腹部に入る。
「ぐはっ!」
迂闊にもよそ見をしてしまった。オリオンマンは二ノ宮が怯んだ隙を見て逃げた。
「くっ………逃がすか!」
辛そうな表情をしながらも、逃げたオリオンマンを追った。
銀髪の女性………リオは無造作に置かれたアタッシュケースを見つけて中を開ける。
「…………ガーディアンの研究資料………」
そしてテニスボール大のプリズムに光る物質も入っていた。
「まさかこれは…………!」
リオはケースを閉めてヘリへと戻った。