第三十二章 STORM
全員が異変気付くまで時間はかからなかったようだ。
トーマスとエメラだけが先に来ていて、他はほぼ同時に研究所の入口に着いた。
「遅かったな」
高ぶる気持ちを抑え切れずトーマスはストレッチを始めている。
「厄介な事になったか」
石田は銃を取り出し弾を確認する。
「フン、俺達がいる。あんたの銃が火を噴く事はないだろ」
トーマスのやる気に真音もジルも触発される。
「行きましょう、石田さん」
「どうせ最初からこういう時の為に連れて来たんじゃないの?」
真音は弓を、ジルも愛銃を取り出す。
「あら?今日はマジックショーはやらないの?」
最後にジルがトーマスをからかう。余裕の表れだろう。
「手札が多くても勝てないんじゃ意味がないからな。ショーじゃない本物のマジックを見せてやるよ」
石田は全員が準備出来てる事を確認すると、
「行くぞ!」
号令をかけ外へ飛び出した。
極秘のはずの『仕事』がばれ、ビリアンは説明に追われていた。
「どうなのかね?我々に隠し通せるとでも思ったのかね?」
野太い声が頭上から降り注ぐ。
いい加減慣れたとは言え、気持ちのいいものではない。
「誤解があるようなので説明させていただきますが、隠すつもりは毛頭ありませんでした。ただ、存在の怪しい島でしたので存在を確認してからと思っておりました。文献にしても古いだけで信憑性は薄かったので、今一度の確認をと」
こういう事態も常にシミュレーションしている。どうって事はない。
「ビリアン君、最近少し勝手が過ぎるようだが、足元はちゃんと固めておいた方がいいと忠告しておこう」
「と、おっしゃいますと?」
いつもなら感情剥き出しにする長老が冷静に物を言う。それがビリアンに不安を煽る。
ビリアンの顔色が変わると、正面の長老が言い出した。
「君の片腕のリオ・バレンタイン。果たして信用に足りる人物かな?」
「おっしゃってる意味がわかりません」
ビリアンはリオに絶大な信頼を置いている。彼女を引き合いに出されては、演技も上手くはいかない。
「何度も言うが、レジスタンスは選定者になれなかった者達で組織されている。彼女が選定者候補に上がっていた事実はないのだよ。我々も最近知った事だが」
「バカな………」
「君は内通者がいると言った。調べればすぐにわかる事だと思っていたが、一向にわからないのはどうしてだと思うかね?」
「……………………。」
考えるまでもない。答えは単純だ。
「わかったようだね。調査してる本人が内通者であるからだよ」
「信じられません。彼女はこれまでよく働いてくれました。レジスタンスの為に。なぜここに来て第6選定者と内通してるなどと………」
ビリアン自身、リオに対して好意はない。仕事のパートナーとして不可欠であるだけ。
だからこそ、信頼を失いたくない。
「リオ=バレンタイン。彼女が無事帰って来たら直接聞いてみてはいかがかな?」
長老達もいつもビリアンにしてやられているのは知っていた。今日はビリアンを皮肉って終わる。何がおもしろいのかは不明だが、長老達はずっと笑っていた。
外に出ると、レジスタンスに囲まれていた。
「また大勢で来たな」
楽しそうにトーマスが言った。
「眠れる獅子って役に立たないのね」
殺され、あちこちに倒れてる隊員達を見てジルは呆れる。
状況は不利。正面から赤いベレー帽を被った銀髪の女性が歩いて来る。
「こんにちは」
まるで場に似合わないセリフを笑顔で吐いた。
「私はレジスタンス指揮官、リオ=バレンタインです。早速ですが、あなた方がここで見つけた物を差し出して下さい」
恫喝されるのかと思っていただけに、拍子抜けもいいとこだ。
真音達を押し退け、石田が前に出た。
「俺は眠れる獅子の石田博志という者だ。要らぬ戦いは避けたい。そこをどいてもらおうか」
「戦いを避けられるかどうかはあなた方次第です。さあ言う通りになさい」
まあ予想された答えだ。
「無駄だよ。渡しても渡さなくても殺す気だ。わかってんだろ」
トーマスは石田のマニュアル通りの行動がうざったい。
石田も避けられる戦いではない事くらい承知している。石田が敢えて会話を交わすのは、少しでも相手を知る為。むざむざ死ぬつもりはない。
「さあ………お出しなさい」
「悪いがゴミ一つお前らには渡せないね」
石田が断ると、リオは片手を上げる。同時にレジスタンスが銃を向ける。
「トーマスが正しいわね。殺気むんむんするもの」
ジルは頭を掻いて面倒臭そうにした。
「石田さん、俺達が相手しますから下がってて下さい」
真音が男の表情を見せた。
「エメラ、行くぜ?」
「いつでもいいわ」
トーマスはエメラに確認をする。ジルも、
「ダージリン、おもいっきり暴れるわよ?」
「暴れる…………ダメ父親のように」
ため息をついた。
「ユキ、やれるね?」
「真音こそ、今日は助けを期待しないでよね」
そしてユキ、エメラ、ダージリンはヒヒイロノカネの力で肉体を原子分解して真音達に同化…………ディボルトする。
「神になる資格を持つ者達か………やるね」
石田は特撮のヒーローでも見るようだった。その時、
「少しは腕を上げたんだろうな?」
リオの後ろから現れた者。真っ先にトーマスが気付く。
「貴様…………李奨劉!!」
黒い鉄甲をぶつけ合って鈍い音を出す。
「彼が第4選定者か………」
真音達意外の選定者を石田は初めて見る。
見るからに真音と変わらないくらいの歳だろう。彼からすればまだ子供。
「指揮官さんよ、危ないから下がってろよ」
李が退避を促した。
「わかりました。お任せしましょう」
そう言うと一人消えて行く。
間際、隊長にも口添えしておく。
「隊長、彼だけにいいカッコはさせないで下さい。期待してます」
「了解!!」
敬礼してまた銃を構える。
リオのテクニックとも知らずに。
「真音!ジル!李奨劉は俺がやる!お前らはザコをやれ!」
エラソーにしてるのはトーマス。だがいちいちケンカしてる暇はない。
「お好きなように」
ジルはオッケーした。もちろん真音も異論は………あるが、ない。
「今度は負けるなよ」
軽く叩いて我慢する。
「カンに障る野郎だぜ……」
ゴングが鳴った。
真音達とレジスタンスのやり取りを一部始終二ノ宮はロザリアと見ていた。
「加勢しないの?」
「これはテストだ。自力で乗り切ってもらう」
表情が硬い。本気で言っている。
「でも第4選定者は強いよ?」
「強くなるのに近道はない。そう教えてやったんだ、戦いから逃げないほど自信のつく訓練をしたんじゃないか?」
「もし……もしだよ?もし負けちゃったら…………」
ロザリアはセイイチがまた一人になるのが忍びない。だから真音達には勝ってほしい。小さな胸がチクチク痛む。
「生き死にの戦いに『if』はない。生きて更なる選択権を掴むか、死んで冥界の亡者に喰われるか………ま、死んだ方が楽かもしれんがな」
生殺与奪は一瞬一瞬の選択肢の中にある。