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第三十一章 望むもの

「なあユキ」


真音は不意にユキを呼んだ。


「………なあに?」


ケンカしてるわけでもないのに、空気が重く感じる。


「どっか具合でも悪い?」


「どうして?」


「だって………ヘリの中でも一言も喋らなかったから」


とは言っても、ユキいわく『敵』が一緒にいたのだから無理もないのか。


「全然平気よ」


「そ、そう。ならいいんだ」


心なしか、ユキの態度が冷たく感じる。

こんな雰囲気のユキは初めてだ。人を寄せ付けない壁がある。

人造人間研究所………真音達の目的はマスターブレーンの情報だが、もしかしたら失ったメモリーが見つかるかもと緊張してるのか………。

黙々とやはり手がかかりを探す真音とユキ。見つけるのもやはり『青薔薇』というガーディアンに関する観察日記のようなもの。ただ、本人は気付いてないが。


「『The Blue Rose Project』?」


残念な事に中は英文だった。それも筆記体。真音の顔は引き攣った。かろうじてファイルの表紙だけが読み取れた。


「さすがにこれは読めないな………」


「何か見つけた?」


「うん………なんだかわからないけど、英語がえらい事になってる」


「貸して」


そう言って真音からファイルを取り上げた。

ユキが英語を、それも達筆な筆記体を解読出来るのか疑問ではあるが、今は任せるしかない。


「わかる?」


「……………百年前のガーディアンの研究日誌みたい」


「百年前の…………ガーディアン?」


「『青薔薇』って名前。表紙に書かれてるのはガーディアンの名前ね」


よくまあ残っていたものだと感心してしまう。


「何が書かれてるの?」


中身は気になるところだ。

真音の気持ちに応え呼んでやる。


「『青薔薇計画』。数百体あった人造人間の検体の中で、唯一『ヒヒイロノカネ』に耐えられた彼女も、精神の安定は犠牲になったようだ。皮肉な事に、精神が不安定な状態ほど力を発揮する。手を使わず物を飛ばしたり、スプーンなんかはもちろん、鉄パイプを念力で折り曲げてしまう。これだけでも十分な成果だと思うが、博士は更なる力が眠っていると断言。彼女にはかわいそうだが拷問に近い実験が加せられるだろう。…………だって」


「拷問に近い実験って………」


「特殊能力を引き出すには追い込むしかないのよ。研究費用だって馬鹿にならなかっただろうし、結果を急いだんじゃないかしら?」


「でもガーディアンにそんな能力があるのか?ディボルトして初めて能力が宿るんだろ?だとしたらこれは………」


「はぁ〜〜〜…………」


「なんだよ、ため息なんかついて」


「真音、研究っていうのは予定外の事が多々起こるものなの。百年前は超能力的なものを開花させるのが目的の研究も、月日を重ねて科学が発達するに従い、人の遺伝子にガーディアンを………」


「わかったわかった。その話は散々聞いたからわかってるって」


言いたい事はわかっている。百年前には無かった技術が今はある。ナノビートが開発され、ディボルトと呼ばれる現象でガーディアンを原子にまで分解、人の細胞に組み込む事で様々な恩恵が受けられてる。もっとも、それ自体が現代の科学を超越しているが。


「ヒヒイロノカネに関する事は書かれてないの?」


ずっとベールに包まれたままのキーワードだ。


「ん〜………全部『青薔薇』の事ばかりね」


しかし、推測出来る事はあった。ヒヒイロノカネを使わねば能力は使えないという事。つまり、想像してたアンドロイドとは違うらしい。そしてこの頃既にガーディアンに感情を植える事に成功していた。精神の安定の記述が証拠だ。そのくらいなら真音にでも推測は可能だった。


「でもさ、どう見たって研究所は閉鎖されたんだろ。なのにひそかに研究してた人物がいたんだろうな。じゃなきゃ、選定の儀をやるって決まってから、短い時間でガーディアンを造るのは無理だもんな」


もっと何か無いか探してみる。


「それにしてもすごい荒れようだな」


石田とは違って嗅覚の薄い真音には、壁の傷が不自然である事までは気がつかない。


「もうひとつ聞いてもいいかな?」


ふと思い立ったように真音が言う。


「何?」


「どうして『青薔薇』ばかりが取り上げられてるんだ?そもそも『ヒヒイロノカネ』あってのガーディアンだろ?ヒヒイロノカネの状態や実験データと照らし合わせて『青薔薇』の研究が進むんじゃないのか?精神の安定と能力の発動を解きたいなら、『ヒヒイロノカネ』のデータは絶対のはずだ。『青薔薇』の精神状態に合わせるのはおかしくないか?」


たまに鋭い事を言う。ユキは真音の実力を垣間見た。学校のテストだけでは決して明らかにならない知能。答えの無いものに答えを与え説明する。正否は別だとしても、馬鹿には出来ない芸当だ。

そして真音の言ってる事は確かだ。文献を読む限り、人造人間を造るのが目的ではなく、人造人間に超能力を使わせるのが目的だと取れる。つまり、『ガーディアン』≠『ヒヒイロノカネ』。断じてイコールにはならい。言い換えれば、『ヒヒイロノカネ』無くしてガーディアンは成り立たない。スポットライトを当てるのなら、むしろ『ヒヒイロノカネ』なのではないだろうか?

 まさかこれだけ大掛かりで未知の研究をする者達が、『ヒヒイロノカネ』の実験・研究を行わずしてガーディアンに使ったとは考え難い。


「真音って頭いいんじゃない。どうして勉強はダメなのかしら?」


「勉強は関係ないだろ」


痛いところを突かれ唇を尖らせた。

教科書さえ暗記出来れば結果の出る勉強とは違い、こういう事には想像力が求められる。言わば知識と知恵と言ったところだろう。


「真音は将来何になりたいの?」


「急になんだよ………」


「真音は科学者にでもなるべきよ!本職でやっていた人の研究記録に疑問が持てるんだから、才能はあるのよ!」


なんだかよくわからないが、突然として真音を褒め出すユキ。

褒められて悪い気はしないが、くすぐったい。


「その前にいい大学に入れるようにちゃ〜んと勉強もしなきゃね!」


笑顔を見せるユキにホッとした。少しでも緊張がほぐれたのならそれだけでよかった。


「頑張るよ」


科学者になどなる気もないが、せっかくの晴れ模様を曇らす事もないだろうと肯定しておく。

ユキの笑顔が真音にはなりよりだからだ。

その時だった。外がやけに騒がしくなり、もはや力技でしか開かなくなった窓を必死に開ける。


「あれは!」


真音が見たのは軍用ヘリ。そのボディには見覚えのあるマークがあった。


「レジスタンスよ!」


十字架に絡み付く白い蛇。随分趣味の悪いマークだとユキも思った覚えがある。


「真音、準備はいい?今度ばかりは避けられないわよ!」


「ああ。奴らの目的がガーディアンの中のヒヒイロノカネなら、それを守るのは選定者の役目だ。だからもう迷わない!」


ユキを守りたい。それだけが今の真音を駆り立てる。


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