第二十七章 組織ニ準ズル者
人造人間研究所と称された外見は遺跡の建物に入ると、長い間全く使われてない事が伺えた。
埃にまみれ、窓ガラスは割れ、荒みきった人の心のジオラマのようだ。
「さて、どこから探索しようか?」
石田は転がる案内板を取り上げ砂を払う。
「悪いが俺とエメラは勝手にやらせてもらう」
トーマスはエメラを顎で促す。エメラも依存はない。全員で探索しても収穫は見込めない。
「私達も一緒は遠慮させてもらうわ」
ジルも否決に名乗りを上げる。
「わかった。君達はどうする?」
真音とユキに振るが、石田の真意は単独行動にある。
言ってしまえば、ここで得られる情報は全て独占したい。石田だけでなく、ジルもトーマスも思っている。
ジルとトーマスが得た情報で何が出来るかは、組織にいる石田と違い限られてしまう。それでも、得体の知れない組織に渡してしまうよりはマシだ。
「ユキ………」
真音は一応ユキに聞いてみる事にした。
「私達も別行動をするわ」
きっぱりと石田に言った。
彼を一番信用してないのはユキだろう。
「決まりだな。なら俺も一人で探索させてもらう」
それぞれが適当に道を選んで歩き出した。
遅れをとったのは真音とユキ。こういう事態は真音の頭には無かった。
「ユキ、せめて石田さんと……」
言いかけてやめた。人に頼り過ぎだと説教されたのを思い出したからだ。
「いや………行こう。二人だけの方がいいもんな」
「何考えてるの?二人だけがそんなに嬉しい?」
「は?」
「エッチ!」
そう言われてユキが何を言ってるのか理解した。
そしてユキは一人でそそくさと行ってしまう。
「ま、待てよ!なんか勘違いしてるだろ!」
トーマス同様、うだつが上がらないようだ。
「いいなあ………俺も行きたかったなあ。俺そういう未発見の島みたいなの好きなんスよ」
正之は屈託のない笑顔を見せながら、人造人間研究所に行けなかった事を悔やむという荒業を冴子に見せた。
「遊びで行ったわけじゃないのよ」
ジロリと睨み返し黙らせる。
「すんません。でも、選定者とガーディアンを同行させる意味があったんですか?保護したいなら組織の手元に置いておかなきゃ意味ないと思うんスけど………」
「斎藤君」
「はい?」
「サラリーマンやってんじゃないんだから、察しなさい。石田君が人造人間研究所に行ったのは、ガーディアンに関する情報、もしくはマスターブレーンに関する情報収集でしょ。今回はレジスタンスとの戦闘は避けたいのよ。万が一そこにレジスタンスがいたら、誰が彼を護るのかしら?」
「それは………特殊部隊の……」
「だ・か・ら〜!」
いい加減腹も立つ。勘の鈍い男が大嫌いなのだ。
「戦闘は避けたい!でも戦闘になってしまったら、なるべく早くケリをつけたいでしょ!選定者とガーディアンがいれば、一応はこちらの味方をしてくれるでしょ?つまり護衛!人造人間研究所をエサに彼らを利用したの!わかる!?」
正之に対する苛立ちもあるが、真音達を利用する組織への怒りもあった。口にするとその想いが溢れて来る。
選定者達とはまだ面通しをしていない。選定者は、集まるとすぐに人造人間研究所へと向かってしまったし、何かあったらと考えてしまうのは性分なのだろう。
「ごめんなさい。あなたに言う事じゃないわね」
つい口を突いてしまった。石田といい正之といい、言いやすい。年下だし、雰囲気が柔らかいし。
「気にしないで下さい。本部長もいろいろあるでしょうから」
「…………ありがとう」
弱い部分を見せられるのは石田と正之くらいだろう。他の者には死んでも見せられない。
「それにしても選定者とガーディアンを護衛役にするなんて………『上』は何を考えてるんスかねぇ。俺はてっきりレジスタンスから選定者とガーディアンを守るのかと思ってたんですけど………」
「欲が出たんだとしたら危険ね……そうでない事を祈るけど」
人造人間研究所の話が出てから、急に組織の態度が変化したように思える。当初の目的を失ってしまえば、ただのテロ集団に成り兼ねない。冴子が恐れるのは知らない内にそれに加担してしまう事。確証はないが、やはり怪しい動きを臭わせている。
もしかしたら、既に手遅れという事も無きにしもあらず。
手が打てない事のもどかしさが、ただただ冴子を悩ませていた。