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第二十五章 ヘブンズドア

軍用ヘリ………まさかこんなものに乗るなんて夢にも思わなかった。軍用とは言っても、特に国旗が印されてるわけでなく、獅子の横顔がデカデカと両脇に描かれている。真音は一人踊る胸を抑えていた。


「何そわそわしてんのさ」


ジルが不思議そうにしている。

真音以外、ジルとダージリン、トーマスとエメラも眠れる獅子の任務に同行していた。


「いやあ………ヘリなんて初めてだから………」


志しは欠片も見当たらない。普通の高校生に戻っていた。


「ハッ!気楽なもんだな!」


トーマスだ。

二人は真音と違いこれと言った自身の目的はなかった。

ジルはガーディアンの誕生に興味があり、眠れる獅子に同行している。

トーマスは…………半ば強引に連れてこられたらしい。とにかく話を聞く事さえ拒んだようだ。そのせいでカリカリしてるのだろう。

もっとも、ジルもトーマスもその胸に何を秘めているのかは知るところではない。


「なんだよ、少しくらい楽しんだっていいじゃないか」


珍しく真音が突っ掛かる。


「遊びに行くんじゃないんだぜ?ま、人造人間研究所なんてホントにあるのか怪しいけどな!」


わざと声を大にして石田を見る。


「ハハハ………行ってみないとなんともな」


石田はばつが悪そうに答えた。

仕事とは言え、裏の取れてない場所へ行かなくてはならないのは正直気が引ける。


「どうだい?無理矢理人を引っ張って来たわりにこの程度だ。何の機関だか知らねーけど、どうせ取って付けた組織なんだろ」


トーマスに図星を刺され、石田もそして選定者を護衛する為の工作員も苦笑いを浮かべる。


「やめなさいトーマス。品位に欠けるわ」


この中でただ一人トーマスを黙らせる『力』を持つエメラが言った。

さすがのトーマスもエメラと言い争っては勝てないと、今回はおとなしく退いた。冷めた女だが、それだけに怒らせたらそこは未知の領域だと本能で知っている。


「で?眠れる獅子は人造人間研究所に私達を連れてどうする気なの?」


ジルは組んでいた足を組み直して石田に聞いた。


「君達を連れて行くのは……」


チラリとダージリンを見る。

別にダージリンでなくても、ユキでもエメラでもよかった。要はガーディアンであればよかったのだ。

ジルもなんとなく心中を察した。


「ふぅん………レジスタンス壊滅とガーディアン。一見関係なさそうでそうでもないわけね。敢えて聞く事はしないけど」


「君は大人だね、ジル」


「あんた達みたいな輩の考える事は案外単純だから」


なるほど。選定者の条件は頭脳明晰である事。その点ではジルが一番『らしい』ようだ。


「ジルはもう大人………心も身体も」


「おだまりっ!」


お決まりのパターンで閉めるのは、ダージリンの計算か。


「石田さん、第4選定者の李奨劉り・しょうりゅうはどうしたんですか?」


ジルとダージリンはとりあえず無視して真音が切り出す。あまりいい奴には思えないが、同じ選定者に変わりはない。気にはなる。


「彼はいなかったよ。ホテルまでは突き詰めたんだけど、既にいなかった」


「そうですか…………」


浮かない顔した真音を見て、


「彼がどうかしたのかい?」


不安がらせないように聞く。

事情を知らない石田は、真音の浮かない理由も知らない。


「いえ………何となく心配だったもので……」


李も権力者達の被害者であると考えている。

だが、トーマスはそれを快く思わない。


「まだ言ってやがる。日本人てのはどこまでお人好しなんだ。ヘドが出る」


「彼だって本当は選定の儀なんてやりたくないはずだよ。誰だっていきなり殺し合いをしろって言われてすんなり受け入れられるわけないじゃんか!」


トーマスお得意の人種否定に、カチンと音を立てた真音がまくし立てる。


「中国人ってのはそういう人種さ」


「お前はどーなんだよ!なんでわかり合おうとしないんだ!」


「わかり合う?ケッ、バカかてめーは。いい加減目え覚ませよ!イライラするぜ!」


「黙れよ!」


ケンカなんかまるでした事のない真音だが、トーマスの言動と態度に我慢出来ず掴み掛かった。

普通なら誰かしら止めるものだが、選定者達の深い感情と事情が、一滴の水も漏らさないほど雰囲気を埋め尽くしてしまい誰も口を挟めない。


「んだよ!やるってんなら相手になるぜ!来いよ!」


真音の腕を振り払いファイティングポーズを取る。


「トーマス!」


「止めるなよエメラ!このバカを叩きのめしてやる!」


そう言って真音の顔面に一発入れる。


「くっ………やったな!」


飛び出す真音を石田が止めた。


「やめるんだ!」


「離せ!我慢にも限度がある!」


見た目はスマートな石田も、それなりに訓練はされている。真音がどんなに暴れても、赤子同然に扱われてしまう。


「どうした?来ないのか?」


挑発するトーマスに尚もいきり立つ真音だったが、


「いい加減にしろっ!!」


石田がトーマスの腹を蹴った。


「ぐふっ………な、何しやがる!!」


「君達選定者の間に何があるのかは知らないが、君の言ってる事はあまりに大人げない。ここで争ったら苦悩が解消されるのか!」


「苦悩だと?誰が苦悩してるってんだ!」


「『お前』だよ。態度に表れてるじゃないか。如月君に当たっても何にもなんねーだろ!」


怒鳴るだけのトーマスに対し、石田からは威圧感が物凄い。

真音の怒りも冷めてしまった。


「日本人同士……ってわけかよ」


「言ってわからないなら俺が殴ってやろうか?」


素人ではない気配を感じてトーマスも引き下がるしかなかった。


「チッ………」


舌打ちの抵抗を残して。

その時、操縦士が『島』を発見した。


「石田、あったぞ…………地図に無い島が……」


石田よりは間違いなく年上の操縦士。経験も豊富だろう。それも軍用ヘリを操縦するくらいだ、決まった航路を運転するレベルではない。その彼が驚き過ぎて事実しか伝えられなかった。

そう、本来ならそこに『島』は無い。


「…………こんなに堂々としてるのに地図に載らないのか………?」


石田は生唾を飲む。


「着陸する。ベルトを締めろ!」


操縦士が言うと、全員シートベルトを締め着陸に備える。

徐々に高度を落として行くと、更にはっきりと島が姿を現す。

お世辞にも『小さくない』島だ。人工的とは尚更言えない。

 百年前の文献に載っていた島は、故意に隠され続けて来たニオイが漂う。

血に飢えた獣のようなその場所は、既にこの世のものではない事を告げるように生温い風が吹き荒れた。

ヘリは思いのほかスムーズに着陸、プロペラが回転をやめ砂埃が収まるのを待ってドアが開く。

こちらの意志で開いたはずのドアが、降りるのをなぜか躊躇わせる。なぜなら、第六感が全員に働いたからだ。

 心なしか、島が鼓動を打ち鳴らした気がした。真音達が来る事を望んでいたかのように。


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