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第二十四章 オリオンマン

電子音が車内に響き、二ノ宮はあらかじめ耳に装備させてあるイヤホンのボタンを押した。


「もしもし……」


ロザリアはナビシートでチョコレートをかじっている。

例外なく彼女も食欲旺盛なようだ。


「…………そうか。仕方ない、少し予定を早めるか」


シグナルが赤から青に変わると、予定調和のように鮮やかに滑り出す。


「わかった。頼んだぞ」


イヤホンのスイッチを切る。


「誰?」


ロザリアが聞いた。


「いつもの人さ」


いつもの人が誰なのかロザリアにはわからない。わからない誰かと話してるのが気に入らない。


「内緒話は好きじゃない」


「内緒話なんかしてないよ」


子供をあやすような口調で宥める。


「じゃあなあに?」


女ってのはどうしてこうも聞きたがりなのかと思いつつ切り出す。もちろんロザリアにも関係する話だからだ。


「人造人間研究所………その文献が見つかったらしい」


「…………………。」


ロザリアは黙り込む。


「言うまでもなく場所もきっちり書かれてたってさ」


「行ってどうするの?」


「マスターブレーンに関する情報を探すに決まってる」


「期待する答えは見つからないかも」


「なりふり構ってらんないだろ?お前の為なんだ、もう少し前向きになれよ」


ぽんぽんと銀色の髪を叩き、


「地図に無い島だと?フン………場所がどこだろうと、地球上にある限り俺のテリトリーだよ」


自信をあらわにした。










どんなに文明が栄えようとも、何千年も前の先祖達の暮らしをそのまま受け継ぐ者達もいる。


「来たか」


ジャングルの奥、更に奥深い場所に選定者はいた。

村と呼ぶにも小さな集落、その長が待ち侘びたように言った。


「お呼びですか」


屈強な肉体と黒い肌の男。第5選定者だ。


「オリオンマン、いい加減腹を決めんか………」


「またその話ですか………」


選定者として選定の儀を戦う事を拒み続けている。だが長はオリオンマンに選定の儀に参加するよう言ってきた。


「長、人が神になるなどありえません。まして殺し合って神を選ぶなど………人間というのはどこまで行っても愚かしい」


「嘆くでないオリオンマンよ。だからこそお前にマスターブレーンの元まで行って欲しいのだ」


「お言葉を返しますが、マスターブレーンとは単なる機械だと聞いております。わざわざ殺し合い、出向いたところで意味はありますまい」


文明とはほど遠い地で暮らすオリオンマンには、文明に頼り人としてのモラルを失って行く人種に関わる気もなければ、真音のようにくだらない戦いを終わらせようなんて意欲もない。

長もそれはわかっている。しかし、長がオリオンマンを選定の儀に行かせたいのには、もっと単純でけれども深い考えがあっての事だった。


「オリオンマンよ、お前が自然を愛し、文明を嫌うのは十分わかっておる。じゃが、お前は有り余る才能の持ち主じゃ。このような辺境の地で一生を送ってはならん。もっと世界を見よ。そして肌で感じるのじゃ。この世界に不満があるのなら、お前が正せばいい」


「重ね重ねお言葉を返しますが、世界に不満があるわけではありません。私とて一人間。ガイアの恩恵を受けて生きる者」


「なら何が不満なのじゃ?」


「…………人類の幼さに」


それはこの世に生を受けた事への後悔。


「ふむ………生真面目もよりけりじゃな………」


オリオンマンの唯一の欠点に、長もため息を漏らす。


「長、なぜそうまでして私を?」


親心。長とて文明に頼る生き方を肯定するわけではない。純粋なまでのオリオンマンへの愛だ。

才能を生かし、人生を堪能してほしいと願っている。長い歴史を持つ自分達の部族も、新しい風を必要とする時だと………それを彼に一任したいのだ。


「お前はもう二十歳。自分を試すいい機会だとは思わんか?」


「…………………私にどうしろと?」


「どうするかはお前が決める事。ワシの言いたい事はそれだけじゃ」


オリオンマンは長に礼を済ませて長の家を出る。家とは言っても、木で形を整えただけの簡易なもの。ギシギシ音を立てながら外へ出ると金髪に赤い瞳、全身を黒で包んだ女性がいた。


「まだ悩んでるの?」


「メロウ………」


Type−φ(ファイ)のガーディアンだ。


「堅物ね。なんでもチャレンジしなきゃ」


「簡単に言ってくれる。いきなり現れて図々しくないか?」


「失礼しちゃう」


「フッ………人造人間も怒るのか」


むくれ顔のメロウを笑う。


「メロウ………」


「なあに?」


「世界は広いか?」


「急にどうしたの?」


「飛行機というものがあれば、世界中をあっという間に行き来出来ると聞いた。それでも世界は広いと言えるか?」


「さあ?自分の瞳で確かめて見れば?」


オリオンマンとて若者。好奇心もあれば自分の可能性を試したい気持ちもある。熱帯雨林の生活が全てだとは思ってないのが本音。


「………選定の儀か。くだらないな」


集落を見渡し、目を閉じて深呼吸する。


「言っておくが、私の目的はくだらない殺し合いを止めに行く事だ。人が神になる事はないと先進国の馬鹿共に説いたら戻って来る。マスターブレーンだかなんだか知らないが、機械に踊らされるのはごめんだからな」


「いいんじゃない?でも後悔しないでね、世界はあなたが思うより汚いから」


これはメロウなりの皮肉。結論を出すまで随分待たされた事へのささやかな抵抗だ。


「後悔ならとっくにしてるよ。こんな世界に生まれて来た事をな」


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