第二十一章 はじまりへの系譜
冬の寒さは姿を見せず、今日は見事なまでの快晴だった。世界中どこでもとはいかないにしても、青々とした空が眩しい。
「ビリアン様、先日の呼び出しはどうなさいました?」
リオの銀色の髪に陽射しが反射する。
「どうもこうも………いつもの通りにかわしただけだよ」
はなっからまともに相手をする気などない。機嫌を損ねない程度にしてれば取り立て問題はない。
「第6選定者とガーディアンの件はどうなった?」
「はい。第6選定者については現在調査中ですが、ガーディアンについて実に興味深い情報を入手しました」
「ふむ。聞こう」
リオは信頼出来る情報しか持ってこない。その彼女が興味深いと言うからにはよほどだろう。聞く価値はある。
「ガーディアンは、およそ百年前より研究をされていた可能性があります」
「何?ガーディアンが百年も前に?」
「はい。人造人間研究所、通称G.R.Iと呼ばれる施設が存在しています」
「バカな。第一次世界大戦よりも前にか?ありえん。君の情報は信頼したいが、百年も前に人造人間を造る施設があったとは思えん。どこでそんな情報を?」
リオはファイルを渡す。
ファイル自体は真新しいが、中の書類は黄ばみ、傷みも激しい。しかしそれが近年のものではないと証明しているようなもの。ビリアンは英語で書かれた書類に目を通す。
「……………確かに日付、紙の具合から百年前のものだと言われても疑いはない。しかし…………」
書かれた内容をよく読んでみる。もっと確かな証拠が欲しい。
願わくば偽物でない事を祈る。
「これは…………!」
そして見つけたのは『証拠』ではなく、ガーディアンの秘密。
「イギリスのとある図書館より発見したと報告を受けてます。どうです?興味深いと思いませんか?」
興味の範疇など当に超えている。
中身を読めば読むほどに驚愕してしまう。年甲斐もなく胸が騒ぐのだ。
「人造人間研究所か…………こいつは面白い。リオ君、場所の特定を………人造人間研究所があったと思われる場所の特定を急いでくれたまえ」
「長老達には………」
「もちろん極秘だ」
「了解しました」
思いもよらぬチャンスが転がり込んで来た。
「今に見ていろ………神になるのは私だけでいい!」
彼もまた選定者になれなかった一人。
「クソッ!なんであいつみたいに出来ないんだっ!?」
トーマスは廃工場の一件以来、修羅の如く特訓をしていた。
『数日の特訓くらいで身につく力じゃないのよ』
冷静なエメラは二ノ宮の力がにわか仕込みでない事を見抜いていた。
焦るトーマスの気持ちはわかるが、あがいてどうにかなる問題でもない。
「あいつが特別だって言うのか!?」
プライドの損傷が激しく、どうにも怒りが収まらない。
『そうは言ってないわよ。私が言いたいのは………』
「もういいっ!」
トーマスからディボルトを解く。
「トーマス、気持ちだけではどうにもならない事もあるわ」
「うるさいっ!ほっといてくれ!」
エメラの心配など気にかけるフリすらしない。選定者とガーディアンの心が離れてしまえば、とてもじゃないが戦いになっても待ってるのは死のみ。
言われるまま、エメラはトーマスをほっといてやる。
「こんなんじゃマスターブレーンのところへは行けん。何が違うって言うんだ………第6選定者と俺と………」
必死だった。無理もない。醜態を晒す為に日本へ来たわけではないし、トーマスなりにエメラを申し訳なくも思っている。
エメラがガーディアンとして優秀かどうかは、彼女の性格を見れば十分理解出来た。
力不足はあくまで自分自身の責任。素直じゃないトーマスを理解しているエメラでなければ彼のパートナーは務まらない。
「………ダメだ。癇癪起こしてても始まらん。もう一回、落ち着いてやるんだ」
もう醜態は晒したくない。自分自身を客観的に見てトレーニングに勤しむ。
神になる為、その為に選定者は存在する。