第十七章 動き出した運命
「お、おい、赤木……!」
なぜか無視する美紀を追っかけながら校内を歩き回る。
「待てって!」
美紀の腕を掴む。
「離して!」
「なんで無視するんだよ!」
真音の手を振りほどく。
「自分自身に聞いてみれば!?」
いつになく怒っている美紀に引き気味な真音だが、
「意味わかんない事言うなよ。なんで怒ってるんだよ?」
なんでと言われても返答に困る。まさかヤキモチだとは言えないし、本人がそれに気付いてないというややこしい事態なのだ。
「なんでって………わかんないっ!」
そうなってしまう。
「じゃあ怒るなよ!」
「怒ってない!」
非常に疲れる展開を避ける為、真音は美紀を誘導する。
「なら話聞いてくれるよな?赤木しか話せる奴いないんだ」
「如月君、彼女二人もいるでしょ!」
「彼女ぉ?」
「あの変な格好した女よ!」
白黒はつけたいらしい。
「ユキとエメラか?あいつらはガーディアンだって。エメラは別の選定者のガーディアンで、たまたま家に来てただけ。別に彼女なんかじゃない」
「嘘言ってない?」
「言ってない」
誘導は失敗だ。疲れる展開になってしまった。
「そ、だったら話聞いてあげてもいいよ」
ため息が廊下の埃を掃うように漏れる。
「何?嫌なの?」
「ち、違う!嫌じゃないです!」
ユキに振り回され、美紀にまで振り回され………それが幸せのひとつだと知るまでは、まだまだ人生経験が足りないようだ。
「実は、部室の鍵を借りたいんだ」
「部室の?なんに使うの?」
「いや…………練習っていうか………」
「部活に来ればいいじゃない」
「夜に使いたいんだ」
『夜』というキーワードは、美紀の妄想スイッチを押す。
「夜に部室なんて………」
「選定の儀については説明したろ?状況が悪化したっていうか………戦うって決めたんだ。だから少しでも練習したいんだ。。誰にも気を遣う事なく」
「あの女も?」
「ユキ?ああ、もちろん一緒だ」
真音に悪気は全くない。重ねて言えば、美紀に妄想癖がある事も知らない。美紀が真音を好きなのも知らない。素直なだけなのだが、その素直さがいつも災いする。
美紀が夜の部室で何が行われるか妄想する。
「あの的を射抜くまではやめられないよ」
暗闇の中の的を射抜く。高い集中力が求められる。
「真音………」
ただ見守るユキは神に祈る。既に限界を超えてる真音の身体が、この一本で休めるようにと。
そして矢を放つ。暗闇を裂く矢は、迷いもなく的を射抜いた。
「真音!」
歓喜する。
「目標達成だ」
ユキが駆け寄り真音の手を握る。
「おめでとう、あなたはもう私がいなくても生きて行ける」
「何を言ってるんだ。まだ射抜いてない的がある」
そう言ってユキの胸元に指を当てる。
「ま、真音…………キザよ……」
「ユキがそうさせるんだ」
照れるユキを抱き寄せる。男らしく力いっぱい。
「バカ………こんなところで……」
「的を射抜くまでやめられないよ」
「真音…………」
ユキは瞼を閉じて唇を……………
「不潔よ!!」
「ぬわっ!!」
突き飛ばされて後ろに転げる。
「あっ……!ご、ごめんなさい!」
妄想だった事に気付いて慌てて真音を起こしてやる。
「イテテ…………勘弁してくれよ……」
なんだかよくわかってないが、勘弁してほしいのは確かだ。
「だって如月君が………」
妄想でユキといちゃつくからとは言えず、悶々とする。
「まあなんでもいいけど、鍵貸してくれるんだろ?」
夜に部室を使うのは当然問題外。見つかれば大事になる。
「ダメよ。先生に見つかったら怒られちゃうもの!」
「大丈夫だって。迷惑はかけないから!」
「そういう問題じゃ………」
「頼む!赤木にしか頼めないんだ!」
「でもぉ………」
真剣に頼まれれば頼まれるほど断れなくなる。惚れた弱みだろう。真音の状況も、まだ信じたわけではないがわかってるつもりだ。真音が嘘を言ってるとも思えない。
拝み倒すように手を合わせる真音を見て、条件付きで認める事にする。
「わかった」
「ホントか!?」
「ただし、条件があります!」
偉ぶりながら胸を反る。
「条件?」
「私も同伴する」
「ど、同伴?」
「一応部長だし、責任がありますから」
目的は二つ。真音が言ってる事が事実かどうか。事実ならディボルトというものを見てみたい。もう一つは、ユキと二人きりにさせたくないのが理由だ。
「う〜ん〜…………」
「どうして考えるの?」
面白くない。すんなり答えない真音に苛立ってしまい、凄んで見せる。
「わかった。赤木の言う通りにするよ」
それがベストだろう。
「今夜八時に校門前。頼んだよ」
美紀の肩をポンと叩いて使い慣れないウインクをかます。
「ちょ………如月君!」
行ってしまった。
「んもうっ!勝手なんだから!」
惚れてしまったが為に、過酷な運命を辿る事になるとは美紀は知らない。