第十六章 splendid depression
真音はある矛盾に気がついた。いや、矛盾ではないのかもしれないがおかしい事には違いない。
ユキはガーディアンが人工遺伝子で造られたと断言している。ところがダージリンはどうやって生まれたのか知らないのがガーディアンだと言った。
それはダージリンのメモリーに削除が行われたのか…………だとすると、メモリーの削除はガーディアンによってまちまちだという事だ。ある者には残したメモリーを、ある者からは削除した。そう考えるのが妥当だろうが………何の為に?
メモリーの削除をしたのはマスターブレーンだろう。六人いるガーディアンのメモリーを、統一性を欠いて残しても意味がないように思う。
ただ相手は超がつくコンピュータ。人類の英知。真音の考える事など足元にも及ばないのかもしれない。
ガーディアン…………その存在意義に疑問がある。
多分、思ってるより秘密がある。そのチラつく曖昧さは故意なのか?
もう謎解きに躍起になるのが日課になっていた。
寝返りを打つ度に疑問が零れる。そして見つからない解答を必死に探す。
(やっぱりマスターブレーンのところまで行かなきゃいけないのか?)
でもヒヒイロノカネを奪い合う戦いは避けたい。
石田に二ノ宮の事を話したいし、ユキを連れて二ノ宮のところにも行きたい。
どちらかと言えば、思想の似た二ノ宮のところに行きたい。ガーディアンの事も詳しく知ってそうだったし。だが、暗殺して回るような男を信用は出来ない。
かと言って石田に全てを話すのも躊躇の域。
日が経つ事に複雑になっていく迷宮へ迷い込んだようだ。
(クソッ………どうしたらいいんだ!)
こんなに眠れない夜は初めてだった。
女心をわからないで眠れない方がまだよかった。
「ビリアン君、我々はこんな紙切れ一枚が欲しいわけじゃないんだよ」
何がよくて部屋を薄暗くしてるのかは全くもって不明だが、ビリアンを囲む五人の長老達はお気に入りらしい。
「ですが報告書を出せとおっしゃったのは皆様方では?」
普通ならこの状況ではっきり物を言うのは困難だ。
自分より偉い者が五人、そして裁判をするように囲まれ、かつ長老達の座っている場所は、高い位置にある。圧迫感に耐えられないだろう。
しかし、ビリアンはしれっと言い返す。出せと言われたから出したまで。責められるのはお門違いだと内心思っている。
「これが報告書と呼べるかね?我々が知りたいのは、選定者達がどうやってあの人数を一掃したかだ。まさか神になったわけでもあるまい」
「選定者は神の候補者。全員が神になってたとしても不思議ではないでしょう」
「口を慎みたまえ。君の皮肉を聞きたいわけじゃない」
「………失礼しました」
もう慣れっこだ。なんだかんだと長い時間をかけて説教したいだけなのだ。年寄りの冷や水と言ったところだろう。
「無線機に出た第6選定者。彼が一人でやったのだという者もいるが………事実はどうなんだね?」
情報というのはどこかしらから漏れる。人の口に戸は立てられない。
「まだ限定は出来てません。ただ可能性は高いかと」
「世界中の首脳達が暗殺されている。つい最近は日本の総理も暗殺された。どの国もセキュリティは万全。だが蓋を開ければセキュリティを堂々とくぐり抜け、一夜にして事を成して来るらしい。噂ではこれも第6選定者がやったという事だ。しかしあまりに現実離れ過ぎて信用するに苦労する。この点についてはどうなのかね?」
代わる代わる喋って来る長老達に、一回一回向きを変えるのは非常に面倒。ビリアンはただ前を向いたり、時に俯いたりして会話する。
「まだ調査中です。しかしながら、これについてもその可能性は高いかと」
「また可能性かね。忘れてもらっては困るが、君が今の立場を維持出来るのは我々の力があるからであって、決して君の力ではない」
「もちろん、重々承知しております」
「ならばもっと仕事をしてもらわねば困る!」
昨日の今日でも結果を求めるのが『上』の人間だ。自分はこうはなるまいと心に決める。
「まあ待ちたまえ。ビリアン君もよくやってくれてる。責めてばかりではやる瀬ないだろう」
ビリアンの正面の長老が言った。
「我々レジスタンスの目的は、ガーディアン・ガールからヒヒイロノカネを奪い、レジスタンスの中から神を生み、世界を支配する事。そこへ辿り着ければなんら問題はない」
「だがガーディアン・ガールには謎が多過ぎる。一人の人間に超人的な力を与えるとすれば、この上ない障害になる」
「わかっている。だからこそビリアン君に全て任せてあるのだ。大船に乗って待っていようじゃないか」
これが長老のやり口だ。散々責めて最後に持ち上げる。
「お任せ下さい。レジスタンスが世界を支配する日が一日でも早く来るように全力を注ぎます」
義理で言っとく。
「頼んだよ、ビリアン君」
ビリアンは知っている。自分は捨て駒だと。