第十五章 発意
夕食を終え、当たり前のように真音の部屋で今日あった出来事を聞いていた。事態は刻一刻と変わっている事を改めて認識出来た。
「第6選定者とType−Ω(オメガ)…………」
ユキは何かを思い出すように眉をひそめた。
やっぱりユキの様子もおかしい。Type−Ω(オメガ)と聞いて黙り込む。あのガーディアンは確かに異色で、雰囲気というか気配が他のガーディアンとはまるで違う。彼女には何か秘密がある。真音はそう睨んでいた。エメラが言った言葉「廃棄されたはず………」、それとダージリンが言った「ガーディアンには記憶が削除された部分がある」という言葉。
作為というのは奇想天外な物を造る時には必ず付き物で、人造人間なんてのはまさに奇想天外な代物だろう。人間と変わらない肉体だという。前にユキが言った、「人工遺伝子によって造られた」と。
人工遺伝子……?遺伝子すら人が造ったというのか?
真音には納得が出来なかった。人類にとって都合のいい技術がそんなに簡単に湧いて出るものなのか?
「ユキ、エメラがType−Ω(オメガ)は廃棄されたって言ってた。廃棄って事は、本当は別のガーディアンが第6選定者の元へ行く予定だったのか?」
謎めく現実。単なる殺し合いの儀式ではなくなって来てるのではないか?
「ガーディアンはギリシア文字の数だけ造られたの」
ようやくユキが喋った。
考えがまとまったのだろうか。
「ギリシア文字?え〜と……」
「24よ」
ギリシア文字がいくつあるかわかってない真音に教える。
「α(アルファ)から始まりΩ(オメガ)で終わるの」
「じゃあ、ユキが一番最初に造られたのか」
「逆。Type−Ω(オメガ)から造られたって聞いてる」
「マスターブレーンにか?」
「そうよ」
文字の順番は関係ないらしい。でも一つ納得出来た。ロザリアというガーディアン、あのおどおどした態度は初体として不完全な証拠ではないだろうか?
どんな方法で人造人間が造られるのかは知らないが、ロザリアは不完全なガーディアンなのだ。だから廃棄された………はず。
「なあ、選定者リストに選定者は6人だ。当然それに付くガーディアンも6人だろ?なら他の18人はどうしたんだ?」
これはガーディアンのユキにしか知らない事だ。ユキ達は互いに顔を見知っていた。ロザリアの事だけ知らないのは不自然だ。記憶の削除がされてなければの話だが。
「選定の儀に必要な6人以外は全て廃棄されたはずよ。私が直接見たわけじゃないからなんとも…………」
「じゃあさ、ユキ達ガーディアンは互いに顔を見知ってるみたいだけど、エメラとダージリンと、第4選定者の黄色いガーディアン、他のガーディアンの事も知ってるのか?」
ユキは微妙な頷き方をして、
「私、エメラ、ダージリン、黄色いガーディアンスーツを着てたのはガーネイア、それとメロウってガーディアンがいるわ」
「後一人は?」
「…………わからない。メモリーが曖昧で………」
悲痛な表情は思い出せない過去への苦しみか。ユキが頭を抱えてうめく。
「ごめん!もういいよ、ありがとう」
ユキをベッドへ寝かせる。
「やっぱり私は役に立たないね。真音………ごめんなさい」
「そんな事ないよ。無理に思い出さなくていいから。今日はゆっくり寝て」
初めてユキの髪を撫でた。無意識に。ユキが嬉しそうな顔を見せたのは見間違いではなかったろう。
「真音は?」
「俺は隣の部屋で寝るから」
ユキの部屋は真音の部屋の隣。真音にも知らないが、生まれた時から隣の部屋は空き部屋だったのだ。と親に聞かされていた。まるでユキの為に空けてあったかのように。
ユキが真音の部屋で寝る以上、真音も一緒というわけにはいかない。一応。
「うん。おやすみ、真音」
「おやすみ」
電気を消して部屋を出る。
普通にしてればユキは可愛い女の子だ。真音はユキに選定者としての気持ち以外を抱いていた。
その感情をごまかすように携帯を取り出しメールを打つ。石田へ。
返信がすぐあり、近くの公園で待ち合わせていた。
「悪い悪い、待った?」
駆けて来るくらいだからよほど会いたかったのだと解釈せざるを得ない。
「いいえ」
時間は22時。高校生が徘徊する時間ではない。
「いやあ酒飲んだから車で来れなくて、タクシー捕まえて来たよ」
「あはは。それは大変でした」
何をどうやって説明しようか、真音は悩んでいる。
石田が探してる二ノ宮には会った。殺人の疑いがかかっている事も、まんざら嘘ではないと知ってしまった。
しかし、選定者の事、ガーディアンの事、そしてあまりに二ノ宮のインパクトが強くて聞かず終いになっているが、レジスタンスという組織の事………話していいものかどうか、まだ決め兼ねていた。
「話ってなんだい?」
「……………………。」
「どうした?何かあった?」
「…………この前の男の写真、もう一度見せてもらえますか?」
とりあえず時間稼ぎに写真を確認する事にした。
「おう。ほら」
よく見るまでもなく、二ノ宮だ。石田も以前そう言った。
「この人…………今日会いました」
「!!!!」
石田の顔が変わる。
「どこで!?」
真音の両肩をわしづかみにして意気込む。
「い、痛いですよ……」
「あ、ごめんごめん………つい……」
手柄を立てたいようにも見えないのだが………。第一、テレビで報道されてるのを見た事がない。殺人を犯してるのは今日見た。でもレジスタンスの人間が殺された報道もされてない。つまり、レジスタンス自体が表に出られない組織。でなければあんな廃工場だ、まだ気付かれてない?
「如月君、彼とどこで会った?」
「その前に石田さん、俺はその人が殺人を犯した報道を見た事がないんですが、どうしてなんですか?」
今になって石田が怪しく思える。
「だからその可能性があるってだけで………」
「だとしても報道はされますよね?」
強気な真音の真意を読んだ。口には出さないが、真音が二ノ宮とやり合ったのか、はたまたレジスタンスが絡んでる可能性を見た。
強気な姿勢は頼れる存在を探してる表れだ。
「総理大臣が殺されたのは?」
「総理………大臣が……?」
バタバタしてて知る時間すらなかった。
「今朝の話だ。それをやったのは二ノ宮だろう」
「ちょっと待って下さい!それじゃ他の国の大統領を暗殺して回ってるのも………」
「二ノ宮だと睨んでる」
真音の反応を見る。こちらからあれこれ言うわけにはいかない。
「………………………。」
確信した。黙り込む真音が語っている。二ノ宮とやり合ったかもしれないが、可能性は低い。
二ノ宮がヒヒイロノカネを狙うのなら、真音は既にこの世にはいないだろう。後考えられる事は、レジスタンスとの接触。そこで二ノ宮と会ったのだ。後者で間違いない。
「如月君、今日はもう遅い。明日また連絡してくれ」
石田は賭けに出た。聞かせたいはずの情報に自分が興味を示さなければ、真音の中には聞いてほしいという気持ちが芽生えるはず。必要とされる者は、必要とする者にあまり関心は持たない。それが反対になると話は変わる。必要とされなくなった途端、追いたくなるものだ。
それに近い感覚を真音に与える。彼からまた連絡してくる方に賭けるのだ。今無理に問いただすより、次連絡して来た時は彼から話して来る。
公園を離れ、冴子に電話する。
「もしもし。夜分にすいません」
『どうしたの?』
「如月真音と会って来ました」
『レジスタンスの情報?』
「わかりません」
『わかりませんって………』
「でも間違いないでしょう。レジスタンスと接触してます」
石田の少ない言葉から推測する。真音の反応とかで判断したのだろうと。
『それで?』
「明日、彼から連絡して来ると思います」
『…………わかったわ。あなたに任せる』
「もしレジスタンスとの接触が認められた場合、彼を保護しますか?」
『………………私の独断では決められない。その時はあなたが彼を監視してるしかないわね」
組織というのは今すぐ判断が欲しい時にやけに慎重になりやがる。
「そうしましょう。なるべく急いで下さい」
『ええ、そうするわ』
「それじゃ……」
『ああ、石田君。この前言い忘れたんだけど』
「なんでしょう?」
『しばらく本部には戻らないでねって言ったの………忘れてないわよね?』
「…………この前は忘れ物を取りに戻っただけですから」
電話した事を後悔した。
『なんにせよ、用事がある時は事前に連絡入れて。眠れる獅子の中でもあなたは特別な位置にいるんだから、あまり組織の人間に知られたくないの』
なんだそりゃ。と言えないのが部下たる弱み。
「気をつけます。では」
通話を切る。
「電話する度会う度に説教では…………ありゃ婚期逃すな」
飲み直す為、足はネオン街を求めた。