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第十四章 まどろみ

二ノ宮とロザリアが去り、残された真音達はレジスタンスの残骸を後にそれぞれ散る。


「真音」


呼んだのはジルだった。


「あんたのガーディアンなんだけどさあ」


「ユキがどうかしたのか?」


「うちで保護してんだけど」


「………………は?」


「なんだか真夜中に泣きながら歩いてる女の子がいてさ、よく見たらガーディアンスーツ着てるじゃない。もしやと思ったらユキだったわけ」


真音は近年稀に見る安堵を覚えた。ユキをほったらかしにしてたわけじゃないが、とにかく良かったと思えた。


「ジルは…………もれなく酔いどれてた」


「あんたは余計な事言わなくていいの!」


ダージリンは何かしら言わないと気が済まないのかもしれない。


「ユキはラッキー………ジルがその気ならもういない」


「一日何回怒ったら黙ってもらえるのかしら?」


二人のやり取りに思わず吹き出す。


「ま、とりあえず着いて来て。ホテルで待ってるからさ」


「わかった」


ジルの先導で出て行く真音に、エメラが言った。


「真音、あなたの決意を見届けるのはこの次にするわ」


真音はただ笑って答えた。


「エメラ〜!ダージリン〜!またなぁ〜!」


ガーネイアの元気というか陽気というか………絶好調な感じの声が轟いた。でも心なしか、真音にはガーネイアに陰りが見えた。

エメラもダージリンも特に反応は見せなかったが、複雑な心境なのだろう。彼女達の過去は知らないが、少なくとも顔見知りであるには間違いない。

友人と呼べる仲ではないにしても、ガーディアン同士に憎しみ合う気持ちはないと伺える。


「李奨劉!」


怒りの収まらない者もいる。トーマスだ。


「この借りは必ず返すからな!」


日本に来てからいい事がひとつもない。


「いつでも相手になってやる」


選定者同士はガーディアン達と同じようにはいかないようだ。


「ジル=アントワネット!お前もだ!俺はまだ負けたわけじゃないからな!」


「うるっさい男ねぇ。行くわよ、真音」


「あ、うん!」


考える事が多過ぎる。今はあれこれ考えるより目先の行動。それで十分だ。









ユキは泣いていたと言った。あれからずっと泣いていたのかと思うと不憫でならなかった。

そう思ったのは真音の間違いだろう。

ジルの宿泊してるホテルはかなり豪華で、多分一般人は簡単には泊まれない。


「すげー…………」


「何バカ面見せてんのよ。たいしたことないわよ」


そんな事はない。誰が見ても一流ホテルだ。ホテルの名前も聞いた事がある。


「ワンワン!」


こんな一流ホテルには似つかわしくない声………音とメタファした方がいいか、まあようするに犬の鳴き声がしたのだ。

その犬はまっしぐらにダージリン目掛け走って来る。


「ワン!」


まるで16ビートを刻むような難易度の高い尻尾の振り方をしている。


「犬?」


「ミルク……」


「牛乳ならコンビニで売ってるけど………」


「違う…………ミルクは名前」


まさかホテルで飼ってるとは思わないものだから、ダージリンが真音にミルクを紹介してるとは思わなかった。


「この前トーマスと戦った時に拾ったのよ。ホテルには住まわせられないから、あそこに預けてあるの」


ジルがちょんちょんと指差す先にはペットセンターがあった。


「でも、ダージリンが帰って来るとどっからか抜け出して来るのよ。どう見ても雑種なのに…………賢いのねぇ」


「雑種でも賢い奴は賢いよ。血統なんて人間だけが気にしてるだけだろ」


「もしかして禁欲主義?」


「そんなんじゃないよ」


「そ、難しい奴って苦手だからさ」


ジルには好意が持てる。悪い奴じゃないと確信した。


「ダージリン、ミルクを預けてらっしゃい。先に行ってるから」


ジルに言われると、ミルクを抱き上げた。


「真音…………」


「なんだい?」


「ガーディアンにはメモリー…………人間で言う記憶が削除されてる部分がある」


唐突にダージリンが話し始める。


「私達は自分がどうやって生まれたのかすらわからない。でも………」


「でも?」


「心はある。ダージリンもエメラもガーネイアも………そしてユキも」


ダージリンはミルクの首筋を撫でてやり、


「それだけ」


そう真音に告げるとペットセンター目指して歩き出した。


「驚いた…………あの子があんな事言うなんて………」


ジルが言うのだから今のダージリンは希少価値があるのだろう。


「部分的な記憶の削除………そういう事なのか?」


「ガーディアンには必要な記憶しか残されてないみたいね。選定の儀に邪魔にならないように」


「酷すぎる。記憶の削除だなんて…………ガーディアンを何だと思ってんだ」


「そう思ったから第6選定者は選定の儀を放棄したんでしょ。別にアイツの肩持つわけじゃないけど、気持ちはわかるわ。あんな臆病なガーディアンが傍にいたらなおさらね」


ジルはダージリンの背中を見て言った。










ジルの部屋の前で、真音は緊張していた。傷つけてしまった事を後悔している。だから謝ろうとはしているが、もし許してもらえなかったら………勝手かもしれないが胸が痛むと思う。

そんな真音の気持ちを無視して、ジルはカードでロックを解除して中へ入る。


「どうぞ」


意を決して真音も中へ入る。

 謝って謝って謝り倒すしかない。


「ユキ!ごめん!言い過ぎたよ。俺が悪かった!本当にごめん!」


ユキの姿は確認しなかったが、真っ先に土下座をした。

なんの応答もなく、真音はゆっくりと顔を上げる。


「………………………ユキ?」


そこにユキは確かにいた。ただし、フルーツを頬張り喋れなくなっているユキがだ。


「もふもふまふへほ」


真音を見て何か言ってるが、解読は不可能だ。


「なんでも頼んでいいっては言ったけど、フルーツの盛り合わせは高いのよ!せめて値段くらい見て頼みなさい!…………ったく、ダージリンも食欲旺盛だけど、ガーディアンってみんなこうなのかしら」


ジルは文句を言うとソファー腰を下ろした。


「真音……………」


ユキは口の中のフルーツをやっとこ飲み込み、ようやく普通の会話が出来るようになった。


「げ、元気そうでなによりだよ」


泣いていたと聞いて心配した自分がバカだった。


「何しに来たの?」


「何しにって………迎えに来たんだよ。帰ろう」


「……………やだ」


「ユキ!」


「だって真音は私が邪魔なんでしょ」


「そんな事言ってないだろ!」


「エメラと仲良くやってたらいいじゃない。お邪魔虫は消えますよーだ!」


「じゃあ帰って来なくていい!」


ジルは失笑せずにはいられなかった。

若さが青く滲み出てる。そんな時代が自分にもあったなと思い出していた。


「何がおかしいの!?」「何がおかしいんだ!?」


同時に言う様がまたいい。


「素直になりなさいって。ユキも帰りたいんでしょ?真音のところに」


「べ、別に帰りたいなんて思ってない!」


「泣いて『真音〜真音〜』って言ってたじゃないの」


もちろん嘘だ。


「い、い、言ってないし!」


「あははは。ムキになんないでよ」


親心半分、からかい半分ってところだろう。


「ま、まあ………真音がどうしてもって言うなら…………考えなくもないけど………」


「ケッ。俺はどっちでもいいんだ」


「なにその言い方!」


「なんだよ!」


たきつけたのは認めるが、他人の色恋沙汰を鑑賞する趣味はない。真音とユキに自覚はないけれど、第三者からは一発でわかる。


「はいはい。どっちにしても、ずっとここにいられても私が困るから、おとなしく真音のところに帰りなさい」


言い訳が立つようにしてやる。


「ジルがそう言うならしょうがないわね。感謝しなさい、真音。私はしょーがなく帰るんだからね!」


「俺だって!ジルに迷惑がかかるから連れて帰るだけだからな!」


丸く収まるのならなんでもいい。ジルは頬杖をついて眺めていた。










「第6選定者か…………」


レジスタンス内部は揺れていた。選定者とガーディアンに部隊一つ無くされたのだ。厳密に言えばたった一人に。

レジスタンスの指揮官であるビリアンは選定者を甘く見ていたと自責していた。


「失礼します。」


自動で左右にドアが開き、男が好みそうな顔立ちの女が入って来る。


「ビリアン様、長老達から今回の報告書を至急提出するようにとの事です」


「報告書なんか読んだくらいで何がわかるのかね」


ビリアンは四十歳。世間からはまだ若い部類に入る。

長老と称される輩から見れば尚の事。

ビリアンはパソコンの『ENTER』を押した。プリンターが眠りを妨げられたようにうめきながら起き出す。


「リオ君、持って行ってくれたまえ。お望みの解答が詰まっていると思うが」


リオはプリントアウトされた報告書を取る。枚数はたった一枚。今回の事について特筆するような事はない。わかったのは選定者とガーディアンがディボルトすると、スーパーマンにすらなれるという事のみ。レジスタンスという組織の強化に努めなければ、ガーディアンからヒヒイロノカネを奪うなど夢で終わる。


「一枚でよろしいんですね?」


リオは一枚で終わりだとは思えなく、何かの間違いじゃないかと確認するが、


「一枚だ」


「呼び出しを受けるかもしれませんよ?」


「口頭で釈明した方が早い。何せまとめるような事がないのだからな」


「ビリアン様がそうおっしゃるのなら」


リオはたった一枚の報告書を、丁寧にファイルに入れる。

彼女の性格を垣間見た瞬間だ。


「ところでリオ君」


「なんでしょう?」


「最近、各国の大統領が暗殺されてるのは知ってるね?」


「ええ。存じております」


「そこでだ、調べて欲しい事がある」


「調べて欲しい事…………と申しますと?」


「第6選定者と、そのガーディアン。二人についてわかる事をなるべく多く調べてくれ」


「第6選定者とガーディアン………ですか?」


「なんでもいい。とにかく多くの情報が欲しい」


リオにはなぜ第6選定者とガーディアンなのかわからない。その二人と各地での暗殺。ビリアンは二人がやったと思っているのだろう。しかし、二人に限定される理由が見当たらないように見受けた。

仮に二人の仕業とて、レジスタンスにはなんら関係のない事だ。


「極秘………ですか?」


なんとなくそんな気がした。


「ああ。長老達にもな」


長老はレジスタンスの創始者だ。その彼らにさえ極秘という事は、バレてしまえばただではいられない。加担した者もだ。

ビリアンもわかって頼んでいる。リオは悩んだが、


「わかりました。やれるところまでやりましょう」


「頼んだ」


引き受けたからには最後まで責任を全うする。彼女の信条だ。

リオが部屋を出て行くのを見届けると、天井を仰いだ。


「人工の神…………マスターブレーン……か」


思惑を秘める者がここにもいた。


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