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第十三章 薔薇の名を持つガーディアン

慌ただしく流れ込んで来る黒い戦闘服の男達に、ジルと李は集中力を切らす。


「なんなの………!?」


ジルが言うより早く、一斉射撃を浴びる。

あっという間に砂埃が立ち込め視界を塞ぐ。隊長らしき男が射撃の停止を指示した。


「全員射撃やめっ!」


無駄になった弾などなかったくらい集中砲火を喰らわせた。肉片ひとつ残ってないかもしれないと、目を凝らして砂埃が収まるのを待った。


「…………………バカな!」


そこには誰もいなかった。


「どこに行った!?」


隊長の困惑は部下にも伝染して、選定者とガーディアンを探す。


「いたぞ!上だ!」


部下の一人が叫ぶと、レーザーポインタが天井付近に集中する。

ジルと李は自力で、真音はエメラが抱えて上に飛んだ。トーマスはいまだ吊されたままで恰好の的になりかねないが。


「何者よ?あいつら」


誰に聞くともなくジルが口を開いた。


「日本の警察じゃなさそうだな」


李はジルに撃たれた手を庇いながらいる。


「え〜いっ……撃て!」


予想外の選定者達の行動に隊長はカッとなったのか、怒鳴るような声で叫んだ。

再び射撃が再開される前に、エメラが吊されたトーマスの元へ飛び、鎖を手刀で断ち切った。そして下へ着地すると、的になるのを防ぐ為に近くのコンテナへ隠れる。


「これじゃ戦うどころか、逃げる事すらままならないわね」


ぼやくジルに同意した李が、


「一時休戦だな」


提案した。もちろんジルも賛成だ。

だが射撃が止む事はない。任務を完了まで撃ち続ける気だろう。

もはや訓練の成果はいらず、ただひたすらに撃って来る。その時、何かが光ったかと思うと、壁に『×』の亀裂が入る。


「待て!全員撃ち方やめーっ!」


隊長は一瞬痺れを切らした別部隊が突入して来たのかと思ったが、そんな話は聞いていない。

壁が崩れ入って来たのは…………


「愚かな人間に制裁の時間だ」


刀を手にした白いコートの男。


「誰だ!?」


「第6選定者、二ノ宮誠一。レジスタンスなるバカ共が選定者とガーディアンを探してるって聞いてな、こっちから出向いてやったのさ」


その言葉に真音達も驚く。


「あの人………」


真音には見覚えがあった。そう、石田が探していた金のフレームに青いレンズの眼鏡をかけた男だ。


「第6選定者…………フン、出先が悪かったな。構わん!奴を撃てっ!!」


隊長は的になりやすい場所にいる二ノ宮を狙った…………が、銃弾は二ノ宮の前で波紋を広げてピタリと止まる。まるで映画のワンシーンのように。


「そんな………」


ジルが息を飲むと、


「あ……ありえん………」


李も言葉を失う。


「エメラ、あれは……?」


気性の激しいトーマスですら。


「あなた達の言うところでの超能力よ」


エメラが答えた。

更に目を疑ったのは、刀を一振りすると、レジスタンスの兵隊を隊長だけ残して斬り捨てた。


「あ………ああ…………バ…………バカな…………」


本能で怯える。隊長は震える手で無線を取ろうとするが、落としてしまう。慌てて拾おうとすると、


「拾ってやろうか?」


二ノ宮が見下ろしている。

真音達は同じ選定者でありながら、全く質の違う力を使う二ノ宮を観察する。彼は………何者なのか………。


「ひ、ひいぃぃ………」


隊長の怯えを嘲笑うような笑みを見せ、しゃがんで無線を拾う。


『銃声が止んだが終わったのか?応答せよ』


どこかで成り行きを見守る者がいるようだ。


「だってよ。出なくていいのか?」


『部隊長、応答せよ。現況報告しろと言っている!』


二ノ宮が優しく無線機を手渡す。そして言えと言わんばかりに顎で指図した。


『どうした!何かあったのか?』


「こ、こちら、ブブブラックスネーク………せ、選定者が………」


震えて言葉にならない。


『選定者がどうした?ちゃんと話せ!』


もう限界だと悟ったのか、二ノ宮は無線機を取り上げた。


『聞いてるのか!?選定者がどうした!?』


「うるせーなあ。聞いてるよ」


『……………誰だ貴様?』


「救世主だよ」


『救世主?貴様、選定者か?』


「第6選定者の二ノ宮だ。おたくらの部下は隊長さんを残して全て片付けた。文句があるのなら出て来い。一分だけ待ってやる。一分待って姿を見せない場合、逃げたと見なして隊長さんも片付ける。どうぞ」


『……………………………』


何かは言おうとしたらしく、無線機独特のノイズが入るが、間もなくして切れた。


「かわいそうに………捨てられたな」


「あわわ………」


「なあ、助かりたいか?」


そう二ノ宮が問うと、すがるように首を縦に振る。


「よし、ならレジスタンスのアジトを教えてくれ」


「わ、わわわわかった!おお教える…………」


言った途端、隊長の額が撃ち抜かれた。


「口封じか。末路だな」


二ノ宮は立ち上がって銃弾の跳んで来た方を見た。おそらくもう撤退しただろうが、一応『かまして』やろうかと思って。

それが済むと、


「出て来いよ」


身を潜めていた真音達を呼ぶ。

トーマスとエメラが、李も逃げたコンテナの上から飛び降りディボルトを解く。ジルはユキのいない事に気付いて、真音を連れてやはり飛び降りディボルトを解いた。

第6選定者二ノ宮の周りに、それぞれ警戒しながらも集まる。


「ガーディアンが一人足りないようだが?」


選定者の人数とガーディアンの人数が合わない。


……………………………。

……………………。

……………。


誰も何も言わない。


「フッ……まあいい。一応挨拶しておこう、第6選定者の二ノ宮誠一だ。そして………」


ディボルトを解く。すると赤いガーディアンが現れる。


「ガーディアンType−Ω(オメガ)、ロザリアだ」


ロザリアと紹介された少女は、二ノ宮のコートの袖を掴み、後ろに隠れる。

どこか怯えたような仕草が、他のガーディアンとは違って見える。


「すまないな、ロザリアは臆病で心を開いた者にしか話さないんだ」


二ノ宮は刀を腰に提げた青い鞘に収めた。


「あんた…………本当に選定者?」


ジルがようやく口火を切った。


「もちろんだ」


「さっきの技は………?とてもじゃないけど人間の成せる技じゃないわよね?」


「銃弾を止めた事か?レジスタンスの阿保共を瞬殺した事か?」


「どっちもよ」


二ノ宮はジルから目を離し、他の者達を見る。思ってる事が一緒だと悟ると、


「そうか、ガーディアンとディボルトする意味を知らないのか」


「どういう意味?」


ジルが突っ掛かる。


「人間には眠ったままの力がある。それをガーディアンと細胞を融合する事で引き出すのがディボルトだ。常識で追えない力をな。ディボルトして武器の威力や性質が変わるのは、その恩恵だ。正確に言えば『そう望む』からそうなるのであって、枝ですら切れ味の鋭い刃になる」


真音はジル達を見る。ここまでユキから説明は受けてない。それはジル、李、トーマスも同じようだった。推測だが、二ノ宮は自分達の知らないガーディアンの秘密をもっと知っている。そんな気がする。


「お前の目的はなんだ?」


トーマスが言った。

確かに選定の儀に参加するわけではなさそうだ。


「俺か?俺の目的はマスターブレーンを探し出す事だ。お前達も同じだろ?」


そう………選定の儀に携わっている以上、避けて通れぬ名。

でもそれは………


「どんなにあんたが強くても、簡単にヒヒイロノカネは渡さないわよ」


ガーディアンからヒヒイロノカネを奪うという事。最悪な事に、今ここにいる選定者には二ノ宮に勝てる者はいない。


「心配しなくていい。ヒヒイロノカネなんかに興味はない。自力で見つけてやるさ」


「ハン。とんだ選定者がここにもいたな。ヒヒイロノカネに興味がないという事は選定の儀に不参加を表明したのと一緒だぞ。情けない奴らだな………日本人は」


李が挑発的に言うのは、実力で勝てない事を認めたくないから。


「情けない?ならお前はヒヒイロノカネを集めてまで神になりたいのか?」


「当たり前だ。俺はその為にいる」


李の挑発に乗ったのか、二ノ宮も少し口調を変えた。


「なら聞こう、ヒヒイロノカネは全部でいくつだ?」


質問の意味に不満げな様子で李は答える。


「6つだろ。つまらん質問だ」


「そう、6つだ」


「それがどうした?」


「お前がヒヒイロノカネを俺達から奪えたとして、最後の1つはどうする?」


李にはまだ二ノ宮が何を言いたいのかわからないでいる。


「わからないか?最後のヒヒイロノカネはお前のガーディアンから奪う羽目になるんだよ」


「!!」


目を大きくした李に、更に続ける。


「殺せるか?共に戦ったパートナーを。神になるだって?そんなものに本当になれると思ってるのか?だとすれば情けないのはお前の方だ………李奨劉り・しょうりゅう。さあ、お前は隣にいる少女ガーディアンを殺せるのかと聞いている。答えろ!」


李だけじゃない、真音も、ジルも、トーマスも答えられない。

人には情という厄介なものがある。ユキと会って間もない真音でさえ、ユキを想う情はあるし、ジルとてダージリンを多分好きだろう。トーマスもエメラに、李もガーネイアに情を抱いている。


「権力を握るろくでなし共に、いいように操られてるのがわからないか?」


誰も彼の目は見れなかった。戦う大義名分があまりに高すぎる。選定者同士、ちまちまと戦ってた自分が小さく思えた。


「例えお前の言う通りだとしても、俺は………神になる」


弱々しくしか聞こえない李の声。李はガーネイアを見たが、ガーネイアは李を見なかった。

知っていたのだ。ガーネイアだけでなく、エメラもダージリンも…………おそらくユキも、最後は自分の選定者に殺されて儀式は完了するのだと。


「どうやら今は同意を求めても無駄みたいだな」


二ノ宮はわかっていたように言い、袖を引っ張るロザリアの頭を撫でた。

ロザリアはくいくいと尚も袖を引っ張り、二ノ宮に何やら耳打ちする。

ちらちらと横目を使いおどおどしてる。

ただ、真音には気になる事があった。ロザリアが現れてから、ガーディアンが黙ったままだ。沈黙しているというよりは、ロザリアに気を使っている感じだ。


「わかった。お前の言う通りにしよう」


二ノ宮は何かを頼まれたらしく、承諾した。


「覚えておくといい。選定の儀の目的は、最後に残った選定者が人の心を捨てられるか試す儀式。死線をくぐればくぐるほどガーディアンとの絆も深まる。そこを狙った卑劣な儀式だ。よく念頭においておけ」


そう言い残して去る。その後を、てくてくロザリアがついて行った。


「ま、待って下さい!」


突然、真音が二人を………どちらかと言えば二ノ宮を呼び止めた。

足を止め、真音を見る。


「あの…………俺は二ノ宮さんに同意します!俺もこの戦いは間違っている気がしてて………何て言うか、お手伝い出来る事があれば…………」


やっぱり同じ日本人だと安心した。自分と同じ想いをもっている選定者がいたのだ。何より、彼には説得力がある。心強い。


「…………日本人………如月真音か」


「はいっ!第1選定者です」


二ノ宮は周りを見る。


「お前、ガーディアンは?」


「あ………今ちょっと喧嘩っていうか………」


「話にならんな」


「え?」


「ガーディアンのいない選定者などただの人間だ。俺と対等に話したいのなら、ガーディアンを連れて来い」


「そんな………!ガーディアンなんかいなくったって………」


「ガーディアンを愚弄しないで」


ロザリアが弱々しいながらも真音に食らいつく。


「別に愚弄なんか……!」


ちょっと強めに言ったら、ロザリアはまた二ノ宮の後ろに隠れる。


「そういう事だ。また会おう」


真音の期待は儚く消える。

やがて知る事になる。ガーディアンに隠された秘密を。


「ロザリア…………薔薇の名を持つガーディアン。彼女は廃棄されたとばかり思ってたけど………」


不意にエメラが言った。


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