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第十二章 選び定められし者達(後編)

世間が騒げば騒ぐほど、冴子の感情は冷めて行く。

総理大臣が暗殺されても、また新しい総理大臣が誕生するだけ。留守には出来ないポストなのだから必然であり、どうせ短いサイクルで代わっているのだから特に騒ぎ立てる事件でもない。

国民とてわかっているはずで、騒ぎ立てるのは単なる野次馬根性でしかない。誰がトップになっても何も変わらない事をみんな知っている。


「レジスタンスの情報は何か入った?」


少しピリピリしながら冴子は言った。部下達に緊張が走る。

なぜなら、レジスタンスの情報は何一つ手に入ってないからだ。

デスクの上をボールペンでカタカタと小刻みに叩く。シャキッとしない部下に苛立つ証拠だ。


「どうなの?」


数十人はいる部下達を睨みつける。眼鏡がキラリと反射して尚更に威圧する。


「それが…………レジスタンスに繋がるような情報はまだ………」


部下の一人が言う。何も言わないでいればカミナリが落ちるのは避けられない。女であっても上司に違いないのだから、無下に怒らせる事は好ましくない。


「情けないわねぇ………あなた達は情報収集のプロと言われる中でもえりすぐりのエリートでしょ!選定者はもう動き出してるって言うのに……」


「お言葉ですが本部長、我々も手は尽くしております。ご理解下さい…………」


「あのね、学校じゃないんだから『努力してます』だけではお世辞も言えないの。わかる?」


そうは言っても最善を尽くした結果なのだ、成果がない事だけ責められても言い返す事は何もない。


「ハア………まあいいでしょう。よくはないけど……いいわ。とにかく、一秒でも早くなんでもいいからレジスタンスに繋がる情報を集めなさい。解散!」


冴子が拘束時間を解くと、一斉に会議室を出て行く。


「しわが増えますよ」


入れ代わるように石田が入って来る。ネクタイもせずスーツを着込む姿は、一匹狼の証だろう。意図はないだろうが。


「気にしてるんだから言わないでよ」


もう四十に手が届く。若さを羨む歳になったのだ。


「それより、如月真音に着いてるのが任務じゃなかった?」


「まあそうなんですが………レジスタンスが選定者を狙うでしょうか?彼らは無差別テロを計画してるだけなのでは?」


「最初はね。でも選定の儀の情報を知って、ヒヒイロノカネとかいうものを集める気らしいじゃない。ヒヒイロノカネはガーディアンが持ってるらしいし、張ってれば必ず現れるわ」


唯一の情報はレジスタンスと名乗るテロ集団が、選定の儀を知り行動を開始したという事のみ。だいたい、レジスタンスがテロ集団かどうかも定かではない。全ては『上』からの情報。そうした経緯から、眠れる獅子は計画的に誕生したわけではなく、湧いて誕生したような組織なのだ。だからまとまりがなく、仕事も努力虚しく結果が着いて来ない。


「なんにしても、『上』がうるさいのよ」


「思いつきで勝手に組織を立ち上げ、俺らでさえ名前しか知らない組織の壊滅を命令……そんなんで簡単に情報なんか集まんないと思いますけど?」


「正論ね。でも組織に属する以上は従うしかないのよ」


石田には信頼を寄せている。だから組織の規則には縛りつけずに、自由にやらせている。


「相手はまだ高校生。どんな理由でも手段でもいいから、近づいて親密になっておけば、万が一レジスタンスに襲われたりすればあなたに連絡して来るはず。それまではうまくやってね」


「でも他の選定者から襲われてる時に連絡が来ても、俺では勝てないかもしれないですからねぇ…………あまり褒められたやり方ではないと思いますが」


「今はわらにもすがる想いなの、髪の毛ほどの細さの可能性も手放す気にはなれないわ」


「ごもっとも」


石田とてわかっている。どんなに無躾な組織でも、属するからには仕事はしなければならない。理不尽を要求されても断れないのは労働者のつらいところだ。


「ま、なるようになりますって」


最終的に軽く言うのが石田流。

深く考えても始まらない。


「フッ………石田君らしいわ」


眠れる獅子もまた選ばれし者達で作られた組織だった。










「ヒヒイロノカネは貰うぞ」


李は左手でエメラの髪をわしづかみにして、右手は指先を伸ばし貫く構えを取った。

胸中は期待がひしめき合う。エメラからヒヒイロノカネを奪えば、神への一歩を踏み出す。


「エ………メラ………」


ダメージで身体が動かず、真音には李がエメラを殺す瞬間を見届けるしかない。


「やめろっ!」


理由は違うが身体が動かないトーマスも見届けるしか出来ない。

李は何も言わず手刀をエメラの心臓目掛けて突き刺そうとした…………その時、


「ぐあっ……!!」


李が右手を押さえ叫ぶ。その手からは血が流れ出る。


「ぐっ………誰だ!?」


「こんなところで選定者が三人して地味な事してるわねぇ」


現れたのは、


「ジル…………」


真音がそう言った。


「よかったわねダージリン、遊び相手がいっぱいいて」


ジルの後ろからひょこっと顔を出す。


「銃の改造…………うまくいった」


「それはいいから。あんたが遊びたいって言ったんでしょーよ。」


「よくない……………ご褒美がないなら壊す」


「壊す必要はないでしょ!わかったわかった、今日はカレーにしてあげるから」


「カレーはやだ…………ケーキがいい」


「だあああっ!ケーキはデザートでしょ!いい加減にしなさい!」


「ジル…………」


「何?」


「怒ってばかりいると…………お嫁に行けない」


相変わらずの二人のようで、ジルは大きくため息をついて漫才を終わらせた。


「ジル………ジル=アントワネットか」


李は選定者リストの名前を思い出した。


「フン………中国人って嫌いなのよね」


過去に中国人に何かされたわけではないが、国民性が好きになれない。ジルの中国人のイメージは、何をするにも徒党を組むイメージだ。あながち的外れってわけではないのだが、ジルが思い込むほどの徒党性質は、近年の若い中国人には見られない。まあ嫌いなものは単純に嫌いという理由だけで片付けられてしまうものだ。


「好き嫌いはダメ…………」


ダージリンが駄目を押した。


「うるさいから」


「………………怒られた」


ジルの持つ雰囲気か、それともダージリンのボケがそうさせるのか、この二人がいるとどうも緊迫感に欠ける。


「ナメてくれるじゃないか………フランス人が!」


茶化されてるようで李は腹腸はらわたが煮え繰り返る。


「別にナメてないけど、まずはあんたのガーディアンからヒヒイロノカネを貰いましょうか」


「ハッ!笑わせるな。銃如きで俺を倒せると思うなよ」


「間合いさえ詰めなければ勝てるわよ。相手の懐にいないと戦えないあんたならさ。そうよね?ダージリン」


なんのかんの言っても、ガーディアンたるダージリンの知能は頼りになる。


「勝率………98.7674424%」


「細かくしなくていいから」


「………………ぶぅ」


わかりやすく気を使ったつもりが、ジルに軽くあしらわれてむくれる。


「さあ………おっぱじめましょうか」


ジルとダージリンはディボルトした。










『全員、別命あるまで待機』


無線機から流れるノイズ混じりの命令に従う者達が、真音達がいる廃工場を囲んでいた。

軍隊のようにライフル銃や、特殊部隊で使用されてるような屈強なボディの拳銃を手にしている。


『現在、中には選定者が四人、ガーディアンと思われる者が二人確認出来ている』


待機命令からわずか数分。説明が始まったという事は、説明が終われば待機命令が解除される。


『選定者とガーディアンがディボルトすればどんな攻撃を仕掛けられるかわからない。我々の常識は通用しないという情報もある。従って、生きて捕獲する必要はない。突入と同時に射殺せよ。ガーディアンに関してはヒヒイロノカネを持っている。必ず収集するように』


説明が終わる。

人数的には約三十人程度。それでも訓練されていれば、申し分ない戦力を誇る。

全員が銃を構え、赤いレーザーポインタを廃工場の壁に表示する。


『現時刻1645をもって作戦を開始する。全員突入開始!!』


黒色の戦闘服を着た部隊が指示に従い突入を開始した。

その左肩には十字架を締め付けるような蛇のマーク。そして、『RESISTANCE』の文字があった。


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