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終章

戦いが終わって一ヶ月が過ぎ、そのほとんどを、真音達は病院のベッドの上で過ごした。

そして今は空港。真音、美紀、石田、トーマス、エメラ、ジルの6人がいる。


「淋しくなるよ」


石田はトーマス、エメラ、ジルにそう伝えた。


「いつかアメリカに行くよ。フランスにもね」


その隣で真音が約束する。


「その時は、ミキも連れて来るんだな」


トーマスが真音と美紀をからかった。

美紀は顔を真っ赤にしてあたふたとしてる。


「そそそ、そういうトーマス君こそエメラさんと、ななな仲良くやらなきゃだからね!」


気が動転して何を言ってるのかあやふやだ。でも、何が言いたいのかはわかる。


「私とトーマスは大丈夫よ。あなた達がアメリカに来る頃には、ラスベガスの舞台に立ってると思うから」


エメラは美紀のように頬を染める事もなく言った。

エメラも美紀も、もうガーディアン・ガールではない。ヒヒイロノカネを取り除く為、入院中に髄液を入れ替え普通の女の子に戻った。

永遠に生きる事はなくなったが、それは戦う必要がなくなったという証にもなる。


「期待してるね」


美紀には二人の未来が、そう遠くない気がしていた。


「ジル、君も元気で」


石田は手を差し出す。

最近のジルは元気だ。ダージリンの事を引きずってはないように見せているが、奥底ではまだ涙が止まってはいない。石田はそれがわかる。自分も親友を失ったのだから。


「言われなくても私は元気よ。アントワネット家の当主の椅子が待ってるし、やらなきゃいけない事が山積みなんだから」


「ならいい。頑張って立派な当主になるんだな」


「とりあえずは裏の世界からは手を退くわ。今まで一族がやって来た事を考えると、今度は世の中の為に何かしていかないと。ダージリンの為にもね」


既にビジョンは出来上がっているようだ。しっかり者というよりは、アントワネット家の血がそうさせてるのかもしれない。


「そういえばさトーマス、妹は大丈夫なのか?」


「うん?ああ………まあこれから治療費とか稼ぐさ」


真音の問い掛けに、少し不安げに答えた。ジルとは違って見通しがつかないのだろう。


「その事なんだけどさあ」


不意にジルが口を開く。


「あんたの妹、うちの病院で面倒見てあげようかと思ってたんだけど………」


トーマスの顔色を伺いながらそう言った。

突然の申し出に、トーマスは返事をしかねてる。


「治療費はアントワネット家で全部持つから、お金の心配はしなくていいわ」


「マ………マジで言ってんのか?」


「そのかわり、妹さんにはフランスまで来てもらうけど」


願ってもない事だ。しかし、治療費の額は半端ではない。それを金持ちとは言え、ジルに負担させていいものか考えてしまう。


「甘えましょう」


悩むトーマスの背中をエメラが押した。


「いや……しかしよぉ……」


「お金は有名なマジシャンになって返せばいいのよ。あなたなら出来る。私も一生懸命サポートするから」


どうやらトーマスはエメラの尻に敷かれる事は決定のようだ。

真音達は思わず噴き出した。


「ま、まあジルがそう言うなら………た、頼むよ」


ぎこちない返事をしたトーマスを見て、不器用な男だなと石田は微笑んだ。


「恩に着る必要はないわ。難病の患者のデータも取れるし、世界的に有名なマジシャンと知り合いなら自慢になるしね」


本音はそこにはない事を誰もが知っている。だからあえて何も言わなかった。


「石田さん、冴子さんはどうしたんですか?」


美紀が思い出したように言った。


「ん?ああ、指揮官なら………」










「辞める?」


「そう。辞めるの」


突飛もなく冴子は石田に言った。


「なぜです?」


女とは言え、石田は冴子に信頼を寄せていた。上司として満点とは行かないが、それでも人間味に溢れた人柄が嫌いじゃない。


「ん〜〜〜なんだか疲れちゃって。いろんな事あったしね」


「しかし、指揮官がいなくなったら眠れる獅子は………」


「後任にはあなたを推薦しといたわ」


「………は?」


「眠れる獅子の指揮官に、石田博志………あなたがなるのよ」


「ちょ、ちょっと待って下さい!!無理ですよ!」


「大丈夫よ。私よりもいい指揮官になれるから」


「そういう問題では………!」


相談もなく辞めると言い出し、おまけに責任まで押し付けられても心構えが出来ていない。


「ずっとね、あなたを見てて思ったの。あなたは決断力があるし、勇気もある。信念がなければ組織は運営出来ない。その信念を育て、突き動かすのは勇気なのよ。人の上に立ってしまうと、知らないうちに守りに入ってしまう。気付いた時にはがんじがらめになって………組織を運営してるはずなのに、組織が自分から離れて行ってしまってるのよ。私にはそれだけのスキルはなかった。あなたや斎藤君がいてくれたからやって来れただけ」


「そんな事はありません。俺達の仕事で無茶した後始末、いつもしてくれてたじゃないですか」


そうそういない上司だった。だから惜しい。

だが冴子の決意が揺らぐ事はなかった。


「これからはあなたがそれをやるのよ」


冴子はガランとしたオフィスの鍵を石田に手渡し、


「給料………結構いいわよ」


そう囁くと長年愛用したオフィスを後にする。


「これからどうするんですか?」


まさか結婚はないだろう。浮いた話の無い人だったし。


「田舎に帰って農業でもやるわ」


背を向けたまま片手を上げ、石田に別れを告げた。










「農業………ですか?」


冴子が農業をする姿など、美紀には想像出来なかった。


「ま、あの人ならなんでもやれるよ」


組織のなんたるかを教わり、人としても成長させてくれた冴子に、石田は感謝していた。


「さあてと、そんじゃ俺達は行くぜ」


トーマスが背伸びをして言った。それは淋しさを隠す彼なりの習慣。


「また会いましょう」


クールなエメラが笑顔を見せた。

しばしの別れ。距離はあるが、またいつか会える。気持ちは同じだった。


「あ、言い忘れたけど、私もアメリカに行くから。しばらく止めてね」


そう言って、ジルはアメリカ行きのチケットをトーマスに見せた。


「な、なんでお前が来るんだよ!」


「バッカねぇ。あんたの妹、私がフランスに連れて行くのよ。その方が安心でしょ」


「そ、そりゃまあ……」


「別にあんた達の邪魔はしないって」


口に手の甲を宛がって笑ってやる。


「ジル!!」


さすがに今度はエメラも顔を赤くした。


「これもまた青春………かな」


石田がやれやれとジェスチャーしてみせた。

次に会う時は、この笑顔達が自信に満ちて、人として魅力溢れている事だろう。


「必ずまた会おうな」


真音が拳を突き出すと、


「もちろんだ」


トーマスも応えた。

アメリカ行きの搭乗時刻を報せるアナウンスが流れ、トーマス達は故郷へと帰って行く。


「行っちゃった」


名残り惜しそうに美紀が呟く。


「人は旅をするものさ。旅をして自分を磨き上げるんだ。君達もうかうかしてられないぞ」


「誰かの受け売り?」


真音が鋭いところを突いた。その言葉の持ち主は多分……


「孤独の中でしか生きられなかった男の言葉だよ」


二ノ宮しかいないだろう。


「さて、俺はこれから会議だけど、途中まで送って行こうか?」


時間を気にしながら真音と美紀に声をかける。


「いえ、私達は………」


空気を読めと言わんばかりに、美紀が上目を使って訴える。


「そ、そうか。なら行くよ」


石田は申し訳なさそうに去って行った。

頼れるんだか頼りないんだか………結婚はまだ先かな。と、美紀は心の中でクスッと笑った。


「ねぇ………如月君」


「ん?」


「世界が平和になってよかったね」


なんとも気の利かない一言を発してしまったと後悔した。

告白をしている手前、恋話に繋がるような話を避けてしまう。


「世界は元から平和だよ」


「え?あ、そ、そうだよね」


世界の危機を感じていたのは一握りの人間。本当に危機ではあったのだが、人々はそれを知らない。それはつまり平和という事だ。つまらない事を聞いたと、美紀はため息を漏らした。


「でもね」


そんな美紀を思ってか、真音が話を繋げる。


「人の歴史は争いの歴史。いつかまた今の世界にも争いが訪れる」


「……………そ、そうだよね。で、でもさ、争いを起こさないように、偉い人達が頑張ってくれるよ」


急にストイックな話になり、緊張してしまう。が、自分から切り出した話だ、答えないわけにはいかないし、こんな話でも真音となら楽しく思える。


「あまり期待しない方がいいよ」


「どう…して?」


「戦争の悲惨さを知る人間がいる間は、戦争は回避される。でも、いつか戦争を知らない世代が世界に蔓延すれば、すごく簡単に戦争が始まる。その繰り返しだよ」


今日の真音はやけに語る。厳しい戦いの末、彼の中に何かを残している。


「じゃあさ、私達がしっかりしなきゃいけないんだね。今回の戦いを教訓にして」


難しい話もいいが、やっぱり色気のある話をしたい。真音からしてくれるのがベストなのだが。


「過ちを犯すのが人間だよ。教訓なんて役に立たない。ただ………」


真音はそっと美紀の手を握る。

予想外の出来事に、美紀の心臓が激しく踊り出す。

 もうなんでもよかった。好きな異性からの温もり。ディボルトが出来なくなった今、肌を触れ合う事でしか真音を感じられないのだから。


「ただ、どんな過ちもいずれ歴史の一部になってしまう」


真音が軽く力を入れる。


「き、如月君………」


「それをわかっていれば、僕達に罪と罰は必要ない」


そう言った真音のもう片方の手には、ヒヒイロノカネが握られていた。




ガーディアン・ガールズ 〜完〜

ガーディアン・ガールズを最後まで読んでいただき、ありがとうございます。これからの作品への参考の為、もしよければ、感想・評価などいただけましたら幸いに思います。

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