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第百十五章 百年の終わりに

「キャアッ!!」


爆発が行く手を阻む。ジルは吹き飛ばされ派手に転がる。


「ジル!」


ダージリンが慌てて駆け寄り抱き起こしてやる。


「なんなのよ、いきなり爆発しまくりだなんて」


かなり苛立ちはしてるが、怒鳴るほどの体力はジルにはなかった。

そしてそれはトーマスとエメラも同じだ。傷だらけの身体を庇いながらでは、歩くのすらやっとだ。


「きっと真音はメビウスを追い詰めた。追い詰めたられたメビウスが私達を道連れにしようと爆弾を起動させた」


ダージリンの端的な説明は、三人を納得させるに事足りた。


「マッドサイエンティストがやりそうな事だわ」


ジルは起き上がり膝とお尻を叩いて砂を落とす。


「真音、大丈夫かしら?」


エメラがトーマスに聞いた。


「俺に言われてもなあ。まあ、あんだけ強けりゃ大丈夫だろ」


実際、聞かれても困る。トーマス自身、いっぱいいっぱいだ。それに、今は真音を信じるしかない。


「それより早く脱出するぞ。下敷きになりたくねーからな」


トーマスがジル達の顔を見回し、最後の力を振り絞り走り抜く意志を伝える。


「待って」


だが、ダージリンがトーマスの意志を遮る。


「なんだよ、時間ねーぞ」


「研究所の地下には、確か核が保管されてる。もし爆発が地下まで及べば………」


遮ったまではまだよかったが、この状況であまり聞きたくない情報だった。


「それ…………本当なの?」


「本当」


エメラがダージリンに確認をする。よもや嘘は言わないだろうが、出来ればいつものボケであってほしかった。


「なら尚更早くここを出て石田のオッサンに伝えねーと!」


「そうね。のんびりしてる場合じゃないわ」


ジルもトーマスに賛成だ。

その時、美紀がタイミングよく駆け付ける。


「よかったぁ。みんな無事だった」


息を切らし汗を拭う。


「あんた………真音はどうしたの?」


一人で来た美紀を見て、ジルが尋ねる。


「如月君はメビウスを追って…………地下に核があって、それを爆発させるとか、それで追って……」


「わかったから、少し落ち着いて」


とにかく伝えようとする美紀をエメラが宥めた。

とは言え、美紀の伝えたい事はちゃんと伝わった。ダージリンに聞いたばかりだからだが。


「追ってって………一人で行かせたのか?」


「自分はいいからみんなに伝えてくれって」


せき立てるトーマスに、言い訳する子供のように言った。


「でもメビウスはヒヒイロノカネを体内に持ってる。真音はあなたがいなくなったらただの人間。危険だわ」


エメラが言うと、不意に全員が不安に陥る。ただ一人を除いて。


「核を爆発させようとしているのなら、それはメビウスが自分に勝ち目がないと悟ったから。つまり、ヒヒイロノカネの力に身体が耐えられなくなっている。今なら真音がヒヒイロノカネを持たなくても、十分にメビウスと渡り合える」


ダージリンだけは冷静に分析をする。それには理由がある。


「あなた」


ダージリンは美紀を呼んだ。


「は、はい」


「ジル達をお願い」


決心した。渡り合えるのは十分であっても、一人で脱出となると真音だけでは厳しい。ダージリンは真音を助けに戻る決心をしたのだ。


「え………でもあなたは……?」


「私は戻って真音を助ける」


「それなら私が………!」


その役目を美紀はダージリンには譲りたくない。


「ダメ。あなたは慣れないディボルトで疲労困憊。戻っても足手まといになるだけ」


体調を読まれ、こうはっきりと言われては、美紀には言い返せる自信がなかった。

そんな美紀の心も読んだらしく、


「心配いらない。真音はちゃんと返す」


要らぬ世話までしてやった。


「ダージリン…………」


もう一人、ジルはダージリンの事が心配だった。


「私は大丈夫。真音を助けに行くだけ。一緒に帰って来る」


引き止めたいのは山々だが、真音を見殺しにするわけにはいかない。


「真音が言う事聞かなかったら、ひっぱたいてでも連れ帰るのよ」


ダージリンはジルの言葉に強く頷いた。


「任せたぞ、ダージリン」


トーマスもダージリンに一任するしかない事はわかっている。


「気をつけて」


エメラがダージリンの肩に手を乗せて言った。

ダージリンはまた強く頷いて、


「行って」


煽った。

ジル達は美紀に連れられ石田の元へと急ぎ、ダージリンは真音の元へと戻る。



絡み付いていたそれぞれの運命が、少しずつ一人歩きを始めていた。










「メビウス、もう諦めろ!」


「うるさいっ!島ごとお前らを吹っ飛ばしてやるんだ!そこをどけ!」


核爆弾のスイッチにはプログラムの起動が条件だったらしく、まごまごしていたメビウスを真音が突き飛ばし阻止したが、爆発がすぐそこまで来ていて予断は許さなかった。


「ユキももういない!お前は負けたんだ!」


「黙れっ!僕は負けてない!」


メビウスは真音に掴みかかって必死にプログラムを起動させようとする。

しかし、今のメビウスに真音に勝てるだけの体力はなく、あっさりと抵抗されてしまう。


「はぁ…はぁ…なんでこんな事に………」


ふがいない自分を、メビウスは呪った。


「ユキのところに送ってやる」


真音は鉄パイプを拾い、振り下ろす為に大きくモーションをとった。


「……自分自身に夢を奪われ………自分自身に殺されるのか………」


「メビウス、お前は人類を消す事を夢って言うけど、そんなものは夢とは呼ばない。夢ってのはもっと尊いものだ」


「………フン、揚げ句に説教とは…………」


メビウスは絶望感に蝕まれていた。

死刑執行される人間の気持ちがよくわかる。

目を閉じ、執行されるのを覚悟した時だった。


「真音!」


「ユキ………!」


ボロボロになった身体で、右手にはダガーナイフを持って現れた。青薔薇の姿ではなく、ユキの姿で。

これにはメビウスも驚いた。死んだとばかり思っていたのに、満身創痍とは言えそこにいるのだ。


「青薔薇……」


メビウスは真音の顔を見る。そして理解した。


「ハハ………ハハハハ!!そうか、そうだったのか!青薔薇を殺さなかったんだな?クックックッ…………殺せなかったと言った方が正しいか………なるほど、やはり惚れた女には弱かったか」


ゆっくり立って、ユキに気をとられている真音を後ろから羽交い締めにする。


「メビウス!!」


「バカが。墓穴を掘るとは正にこの事だ。恨むなら自分を恨めよ」


さっきまでのふらふらとした力ではない。わずかな体力を使って、ヒヒイロノカネの力を少しだけ使っているのだろう。振りほどけない。


「青薔薇!そのナイフで真音を刺せ!さあ!早く!!」


汗と血にまみれた微笑で命令した。

ユキも汗と血にまみれてはいるが、微笑も浮かべず近寄って来る。暗殺でもするかのように足音を立てずに。


「ユキ………」


「真音、あなたは間違ってた」


絶望はメビウスから真音へと感染する。

ユキの目が鋭さを極め、真音から言葉を奪う。

揺れがひどくなったと感じた瞬間、天井が派手に爆発をした。


「何をしてるんだ!早く殺せ!お前がいるならまだ夢は叶う!ここから逃げてまた機会を作ればいい!」


ユキはダガーナイフのグリップを握り直し、


「もう以前のようには戻れない」


真音の脇腹の傷を蹴る。


「うあ゛ぁっ!」


声を短くあげ、激痛でしゃがみ込む。そしてすぐにダガーナイフを刺し込む。

メビウスの脇腹に。


「ぐあっ………」


とっさに回避してなければ、間違いなく胃袋を突き破っていただろう。


「青薔薇…………お前……血迷ったのか………」


前屈みで青薔薇を睨む。


「血迷ってたのは私達よ………真音」


ユキはメビウスを『真音』と呼んだ。


「まさかお前まで裏切るのか………?」


リオに裏切られ、その上ユキにまで裏切られるなど………メビウスは混乱寸前だった。


「私は、あなたのひたむきな姿が好きだった。だからガーディアンになるのも躊躇わなかった。本当ならヒヒイロノカネは様々な病気の治療に使われるはずだったのに、いつの間にか戦争の道具に使われる事が前提になってた。それでも!若さを理由に認めてもらえなかった、あなたの研究が陽を浴びれるのならと………そう思って百年、生きて来た。でも間違ってたのよ」


ダガーナイフをつたうメビウスの血を見て言った。


「これ以上、罪を重ねたくない。重ねてほしくない」


「正気………か?」


「人は百年は生きられない。私達はこの時代に生きていてはいけないのよ」


「くっ…………何を吹き込まれた………?」


「私が選んだの。自分で考えて、自分の意志で判断した。操り人形の青薔薇には…………もうなりたくない」


爆発はピークに達し、天井が崩れ落ちて来た。


「早く逃げて」


ユキは真音を見て言った。


「ユキ………」


「温泉行ったり、ゲームセンター行ったり、楽しかったよ。ジルにトーマス………ダージリンとエメラ、みんなに出会って知らないうちに私は変わりたいって願ってた。それをあなたと戦う前に気付いてたら…………」


ユキはメビウスの頬に手を当て、


「時代があんなんじゃなかったなら………あなたも苦しまなかったのに………」


「青薔薇…………」


涙を見せた。

そして、崩れ落ちた石が核爆弾のコンピュータに直撃して起動させてしまう。


「しまった!」


真音は慌てて駆け寄ろうとしたが、岩まで崩れ落ちて不可能にする。

アナログな警報音が鳴り、危険を促す。


「真音!核爆弾が爆発するまでは時間があるわ!今ならまだ間に合うから、早く!」


「お前達はどうすんだよ!」


「私達は………」


ユキは一度メビウスを見てから、


「ここで終わりにしたいから」


真音に優しく微笑んだ。


「………………。」


瓦礫がユキとの距離を塞いで行く。

メビウスはまだ真音を睨んでいたが、真音はユキの顔が見えなくなるまでユキを見ていた。



その笑顔を永遠に忘れないように。

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