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第百十三章 悲恋舞踏(後編)

真音と青薔薇の戦いが始まったとわかった。推測した通り茨の動きは急激に衰え、メビウスを援護しきれていない。

今のうちにと、ジルはなるべく多くの茨の処理を始め、トーマスは間髪入れずメビウスを攻める。


『どうした!援護がなきゃ何も出来ないか!?』


「トーマス=グレゴリー………調子にのるなよ………」


力ではメビウスが上でも、肉弾戦の『慣れ』ではトーマスの方が格段に上だ。どんなに頑張っても、経験の浅いメビウスがトーマスに敵うわけがない。

トーマスから何発もパンチや蹴りをもらい、体力の消耗は著しい。


『悔しいのか?ま、こんなところで百年も研究の為だけにいれたんだ、負けたくはねーよなあ。………そんだけの頭がありゃあ、もっといい人生送れただろうに』


「君達にはわかるまい。『若い』という理由だけで、相手にもされなかった僕の悔しさが!百年………僕を突き動かしたのは僕の存在を世界に認めさせる為だ!そして地上から人類を消し、僕と青薔薇だけの世界を創る為!復讐だよ」


『ハッ!笑わせんな!テメーの悔しさなんて所詮は逆恨みじゃねーか!』


「黙れッ!」


『いいや、黙れねーな。李とガーネイアの犠牲が、そんなくだらねー理由の上にあったとしたなら、絶対に許せねー』


「何を言う。李奨劉とType−ι(イオタ)は君が殺したんじゃないか」


『フン、知ってたのか。って事はレジスタンス(あそこ)にいたんだな?』


「見せてもらったよ。血みどろの戦いを」


『確かに李とガーネイアは俺が殺した。ああするしか他に方法はなかった』


「どんなに正当化しようと、二人を殺した事実は拭えない。犠牲も何もないだろう?」


『正当化なんかしねーよ。あいつらの魂は、俺の拳と共にある。それは俺にとっての十字架だ』


「ハハ。十字架?友情ごっこもたいがいにしろ!」


『その友情にお前は負けるんだ』


「負けるのはトーマス………君だ!」


トーマスの背負う十字架は、メビウスが思うほど軽くはない。









「やるじゃない。見直した」


真音の遠慮のない攻撃に、青薔薇は心底讃えた。


「でもその傷じゃあ………ねぇ」


しかしそれは余裕からで、真音の脇腹は血で赤く染まっている。毒のある微笑みが青薔薇を引き立たせる。


『ヘッ。お前こそ………左腕、使えないだろ』


一方、青薔薇も左腕に大きな損傷を負っている。


「腕の一本くらい、博士の夢の為なら惜しくないわ」


『嘘つくな。お前はそんな風に思ってない』


「私が……嘘を?」


『心の奥では、みんなとまた一緒にいたいって思ってるはずだ』


「バカバカしい。なんで私があんた達と一緒に……ロザリアが殺された時は、なんとなく頭に来ただけよ」


『そうかな?だったら俺をここに呼んだのはどうしてだ?自分で気付かないうちに居心地のよかった場所に戻りたいと願ってるからだ』


どんよりとした灰色の心は、まだ青薔薇を苦しめている。

膿んだ傷口のようにしつこい痛みで。


「あっは。何それ?この期に及んで口説いてんの?ラストバトルとか言ってたくせに。片腹痛いわ」


『青薔薇………いや、ユキ……』


「その名前で呼ばないで!」


『……………。』


「もう捨てた名前なのよ!」


唇を噛み締め目を逸らす。

 ガーディアン・ガールとなった少女達は、心に暗い闇を持たされていた。青薔薇も例外ではないのだろう。思い出して苦しむ過去ならば、いっそ死んだ方がいい。真音には青薔薇がそう言ってるように見える。


『生きてみたいとは思わないのか?』


「は?生きるに決まってんじゃない。私はガーディアン・ガール。ヒヒイロノカネがある以上、永遠に生きるわ」


『そんなの生きるって言わないよ。泣いたり、笑ったり、怒ったり………それが生きるって事だろ?無理してガーディアンでいる必要はないんだよ』


「無理なんかしてないし!私はガーディアン・ガールを誇りに思うもの!人が人の領域を超えた力。むしろ感謝してるわ!」


どこまでも悲しくいようとする。

青薔薇はメビウスを慕っている。そして『ユキ』の『真音』に対する態度を考えれば、二人の関係は見えてくる。

メビウスを慕い、彼の研究を支えて来た一人なのだ。

資料に青薔薇の観察記録が多かったのがその表れだろう。

故に、彼女はガーディアン・ガールでいようとする。メビウスとの絆はそれしかないのかもしれない。

真音にはわかってしまう。

 目を開いていても流れるその光景は、メビウスの過去。その過去の青薔薇は、真音のよく知るユキだ。ちょっとだけおしとやかな。


『誇れるものがあるなら、それは多分幸せなんだろうな』


メビウスのクローンである真音には、自分を代名詞するような誇りがない。


「ええ。幸せよ」


そう言った途端、涙が流れた。


『それが聞けただけでもよかった』


真音の頬にも、涙が流れる。

なんの涙かなど、互いに聞く事はしない。二人にだけはわかる涙だから。


『好きになった女の終わりくらい、幸せでいてほしいからな』


弓を引く。しなる音がメトロノームのように無機質に響く。


「あんた達が負けられないように、私も負けられない。今日この日の為に………それだけの為にガーディアン・ガールになって私は生きて来たんだもん………負けられない」


拭っても邪魔をする涙で真音が見えない。

メビウスと青薔薇に真音は言った。


−お前達の好き勝手にしていいものなんて、この世界のどこを探してもない−


と。

ならば、世界のどこを探せば満足する答えを見つけられるのか?

 答え求めるあまり、抑制の利かなくなった人生を歩んだメビウス。

 必死に答えを探した青薔薇。

あの言葉は、二人のようにならぬよう、自分に言った言葉だったのかもしれない。


「終わらせるのは私よ、真音!ローズ・クライム!!」


青薔薇はまだ答えを見つけていない。


『さよなら………ユキ。心だけじゃどうにもならないものがある』


こんな結末は望まなかった。最初からこうなる事がわかっていたなら………変える事は出来ただろうか?

満足する答えはどこにもない。



一体、何が真実ほんとうで、誰が正しいのだろう。


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