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第百十三章 悲恋舞踏(前編)

薔薇の中心部は淡い光に満ちていて、幻想的な空間を演出していた。


『青薔薇………』


そこに青薔薇はいた。


「来たんだ………真音」


さっきまでの嘲笑する青薔薇とは違い、真音の来訪を冷静に対応していた。

姿こそ青薔薇のままだが、漂う気配は蛇のように空間をひしめき、牙を剥くのに時間はいらないだろう事を臭わせていた。


『待ってたくせに』


そう、呼ばれた気がしてた。決着を着けるのはメビウスではなく自分だと訴えかけられてるような………そんな気がしてた。


「どう?『その女』とのディボルトは」


『………悪くない』


「ふぅん……ちょっと妬けるかも」


青薔薇は艶やかに笑い、困った真音の顔に満足すると、


「冗談よ」


鼻を鳴らした。


『どうして完璧なディボルトをしなかったんだ?』


真音は気付いていた。メビウスは青薔薇とのディボルトで生まれた力を、共有出来る力だと言っていた。しかしそれは、裏を返せば二人同時に使う事は不可能だという事。だから青薔薇は茨でメビウスを援護するという役に徹したのだ。


「したじゃない」


『いや、してない』


「どうしてそう思うわけ?」


『メビウスは確かに強くなった。でも奴は自分の頭脳を過信している。だから自分に都合のいいように物事を解釈するんだ』


「真音は………真音もそうなの?」


『………自分ではわからないよ』


何をどんなに話し合っても意味を成さない。真音がここに来たのは青薔薇を倒す為。青薔薇もそれはわかってる。


「勝つ自信があるの?私、手を抜くつもりないから」


『勝たなきゃならない。トーマスとジルが………エメラとダージリンが俺が勝って戻るのを待ってる。だから…………』


真音は手に弓を具現する。小さな弓だ。矢もいつでも具現出来る。小さな弓は連射が効く。戦うには広くないこの場所では、使える武器だ。


『青薔薇………お前を倒す』


人を傷つける為に弓を使う事を拒み、いつしか人類の為にという大義名分で使って来た。そしてそれは現在いま、好きになった女を倒す道具になってしまった。

真音は矢を具現して弓を引く。


「変わったわ………真音あなた。初めて会った時、そんなに大人びた顔してなかったもの。男って、成長が早いのね」


青薔薇も両手に武器を………大きめのダガーナイフを具現する。


『お前だって変わったじゃないか』


「私が?」


『鈴木にロザリアが殺された時、何も言わないのにディボルトして鈴木を倒したじゃないか』


「だってあれは………」


『俺達じゃなくても鈴木は誰かが倒した。それまでのお前なら、そう察したら自分では動かなかったはずだ。あれは優しさだよ。』


「………………。」


『こんな何も無い島での百年より、俺達と出会った僅かな時間は、間違いなくお前を変えたんだ。人間なんだよ………お前も』


気持ち悪いどんよりしたものが青薔薇の胸にのしかかる。

正体のわからないこの気持ち悪さ。落ち着かない。胸騒ぎとは違うどこまでも灰色の心。


「人間…………ねぇ。とっくの昔に忘れてた」


ダガーナイフを構える。


『いっぱいケンカしたけど、これがラストバトルだ』


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