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第百十章 日緋色金

「ただの人の身でよくまあ意気込めたもんね」


青薔薇は真音の無謀さに呆れていた。

茨はリオとの戦いの場から往々と伸び、研究所内部に巣くっている。

その内のいくつかが真音の手足に絡み首を絞めている。


「ぐっ…………うあっ………」


リオが解けなかった茨を、真音が解けるわけがない。


「青薔薇、さっさとやるんだ。最後の準備には君の手も借りたい」


メビウスはキーボードを叩きながら青薔薇に言った。


「だって。聞いた?」


まるで玩具の扱いだ。


「ま………待て。一つだけ………聞きたい………」


食い込むトゲが動脈を傷つけないように話す。


「何よ?」


「お前じゃない………メビウスにだ………」


真音の言葉が聞こえ、回転椅子をくるっと回して振り向く。


「なんだ?」


メビウスにとっても真音は自分自身。何を聞きたいのか興味はそそられる。


「ヒヒイロノカネって………一体なんなんだ……?」


人間の限界を遥かに超える身体能力、トリックのない明らかな超能力、背中には翼が生える。全てがヒヒイロノカネの力。どうしても正体が知りたい。


「ヒヒイロノカネを知りたいか…………いいだろう」


メビウスはポケットから小石程度のヒヒイロノカネを取り出す。


「結論から言おう。ヒヒイロノカネとは人類が失った遺伝子………それを再現したものだ」


真音は黙って聞く。


「人の遺伝子にはジャンクDNAというものが存在する。染色体あるいはゲノム上の機能が特定されていないDNA領域の事なのだが、これは重複する突然変異によりその機能を失ったとされる。僕はこの事を百年前に気付き、その理由を考え、そしてある仮説を立てた。突然変異によりなぜ遺伝子が機能を犠牲にしたのは、人が進化したのではなく、退化したのではないかと」


「………面白い仮説じゃないか」


「フッ。まあ聞きたまえ。古代の人間は、今の僕らと変わらない文明を持っていたとされる。しかしそれは機械的なものではなかったのだ。そう、力だ。空を飛び、物体を動かし、離れた人間とテレパシーで会話をする。ならば、それらを可能にしてた遺伝子はどこへ行ってしまったのか?たどり着いた答えは『ウイルス』だ」


「ウイルス……だって?」


「そうだ。おそらく、そういった力は古代人にはストレスとなった。そして見た目には『わからない』突然変異により、次第にその力を切り捨てたのだ。切り捨てられた遺伝子は、形を変え単体の細胞として独立して人から離れて行った。例えばインフルエンザやHIV、B型肝炎などのウイルス達は元来人の中にあったものだと推測する。ウイルス達は一度は人を離れ、他の生物を宿主としたものの、高い栄養を得る人へまた戻ろうとする。人が拒めば拒むほど強く力を増してだ。直接、人に宿れ無いのであれば他の生物を媒介にしてまで。これは必然だ。そこで僕は、あらゆるウイルスから共通する遺伝子を採種してなんとか組合わさらないかと挑んだ。やがて研究は実り、ウイルス遺伝子は全く違う遺伝子へ変異した」


「それがヒヒイロノカネ………」


「そうだ。もう知ってると思うが、ヒヒイロノカネは温度によって状態を変える。38.99℃以下では固体、39℃以上では液体、42℃に達すると気体になる。なんとも不思議ではあったが、人の体内においては髄液と共ににあれば上手く溶け合い、42℃にさえならなければ共存出来るんだ。もっとも、人間は体温が42℃になればほぼ死んでしまうけど。僕はね、ヒヒイロノカネは新種の生命体だと確信している。人に捨てられた遺伝子の生まれ変わりだ」


「人に戻る事で、人がかつて持ってた力を発揮するって事か………」


「副作用かどうかはわからないが、不老にはなってしまうがね」


一連の理論はメビウスにしか理解出来ないのだろう。だから確固たる自信があるのだ。唯一の存在だと。


「ヒヒイロノカネがまさかウイルスから出来た新種の生命体だったなんてな」


最初に現れたのはトーマス。続いてエメラ、ジルの腕を肩に回しダージリンとジルも。


「みんな!」


どうしてだろうか?トーマス達の顔を見た途端に、元気になる。


「これは……とんだ客人が来たものだ」


メビウスはいささか機嫌を損ねた。


「お前が青薔薇か……」


トーマスの目に映るのは青尽くしのガーディアン。


「どっかで見た顔ね?」


ジルがまじまじと青薔薇を見てると、


「ユキだよ」


真音が言った。


「お………おお!?マジかよ………」


誰よりもリアクション大きく驚いたのはトーマスだった。


「私に驚く前に、もっと驚く事あるんじゃない?」


そんなトーマスを見て、青薔薇はメビウスに視線を流す。


「博士と真音の関係は私がみんなに真実を教えた」


正気に戻ったと表現していいのかは不確かだが、確実にメビウスの手先ではなくなったダージリンが言った。


「いつから口の軽い女になったの?」


青薔薇が皮肉る。


「もうあなた達の言いなりにはならない」


そう言うと、腕を数回振り、真音を苦しめている茨を切った。

真音は体勢を崩しながらも着地する。


「大丈夫か?」


トーマスが真音を支える。


「心配ないよ」


「ったく、どこにいても飽きさせない奴だよお前は。俺よりエンターテイナーの素質あるんじゃねーか?」


「よく言うよ。一番目立ちたがり屋なくせに」


二人が笑う。それだけで十分だった。


「さあて、決着をつけましょうか。いわくつきの宿命に」


ジルも戦う気はみなぎっている。


「ケガ人のくせに」


青薔薇は言うが、胸の中で得体の知らないもやもやがある。


「どうしても死にたいらしいな。出来損ないの人間どもが!」


メビウスにとっては、もはや目障りでしかない真音達の絆。


「人間なんてみんな出来損ないよ。あなた達もね」


エメラはその絆を得た強味を知っている。何を言われようが心が揺らぐ事はない。


「エメラ!ディボルトだ!」


「いいのね?身体がもたないかもしれないわよ?」


「真音にガーディアンがいないんだ、俺達がやるしかないだろ。それに、ここで逃げたらどこにも行けねーよ」


未来に行く為に戦う。李とガーネイアの無念を果たす為に戦う。トーマスは男の心を得たのだ。

 惚れた男の心を腐らせるほど質の低い女じゃない。エメラは頷いた。


「ダージリン、私達もディボルトよ」


「ジル…………」


まだ罪の感触がある。最愛のパートナーを殺そうとした事を。

ダージリンは自分を何度も問いただす。


「そんな顔、あんたには似合わないわ」


「でも私は………」


「『お姉さん』の言う事は聞くものよ」


ちょっぴり偉そうにしたジルを見て、ダージリンは笑った。


「はい、お姉さん」


ジルと手を合わせディボルトする。

最後のディボルトはトーマス達を古代人の姿へと変えた。


「そんな………バカな!」


メビウスにも予想出来なかったトーマスとジルの容姿。

顔つき、髪、それはエメラやダージリンの面影すらある。

翼が生え、着ていたものすら変えてしまう。


「トーマス………ジル………」


天使のようなその姿は、ヒヒイロノカネの最後の力なんだと真音は感じた。


『これがヒヒイロノカネの本当の力なのか……』


トーマスから同時にエメラの声も聞こえて来た。


『ガーディアンはトラウマで暴走してしまう。でもそれを乗り越えて、選定者と心が通い合った時………究極の存在になるのね』


そしてジルからもダージリンの声が。


「それなら私と如月君も大丈夫よね」


窓ガラスから光が射し、派手に割れてそこに美紀が現れる。


「赤木!」


「待たせてごめんね」


美紀は駆け寄る真音に優しい笑みを見せた。それは共に戦う意志。


「だ、誰だ?僕の記憶にはないガーディアンだ………?」


「レジスタンスが彼女にヒヒイロノカネを……」


青薔薇が説明するのを遮り美紀が答えた。


「私は最後のガーディアン。如月君に青薔薇あなたは相応しくない」


「ムカつく女がまだいたわ」


リオを倒したのに、自分を苛立たせる美紀に敵意を剥き出す青薔薇。


「赤木、俺は………」


「みんなの話は頭の中に聞こえて来た。だから何も言わなくてもいいよ」


「でもだな!」


「如月君は如月君だよ。私の好きになった如月君は目の前にいるあなただけ」


「……………そうだな。俺は生きてる。俺は俺なんだ!」


美紀と手を合わせディボルトすると、トーマスやジルのようになる。


『メビウス………青薔薇………お前達の好き勝手にしていいものなんて、この世界のどこを探してもない!お前達に必要なのは罪と罰だ!!』


真音の声と美紀の声が重なる。

俯く暇もないくらい激しい感情が駆け巡る。



未来を繋ぐ欠片達は、その姿を人類の未来に変えていた。


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