表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/126

第百四章 都合のいい賭け

切り出すのが怖かった。でも今聞かなければメビウスとは戦えない。


「な、何よ、改まって。こっちまで緊張するじゃない」


神妙な真音に、ユキも緊張してしまう。


「ガーディアン・ガールって…………『人造人間』なんだよな?」


「は、はあ?何言ってんの?ガーディアンは『人間』よ。真音も聞いたじゃない」


的確に答えてやった。真音の質問の真意はわかりかねたが、上機嫌のユキは気にも止めない。

そして真音は確信する。


「お前さあ、俺にこう言ったよな?『ガーディアンは人工遺伝子から造られた』って。なんで嘘ついたんだよ」


出会って間もない頃。まだ真音が現実を受け入れられてない頃、ユキは確かにそう言った。


「………何それ?意味わかんない。ガーディアンのメモリー……記憶は曖昧なんだもの、間違ったんじゃない?大体、そんな事言ったかなんて覚えてない」


上機嫌に影が射す。それは真音への警戒を意味した。


「そうか……」


「そうよ。そんなつまんない事より………」


ユキの言葉を遮るように、


「じゃあさ、なんでこれがマスターブレーンだってわかるんだ?」


強く言った。


「記憶が曖昧なのに、マスターブレーンの事だけ思い出したなんて言うなよ?」


「……………………。」


真音はユキから目を離さない。

ユキも黙って真音を見たままだ。


「どう見たってこれがそうじゃない。こんな大きな機械。真音だってそう思うでしょ?」


取り繕う笑顔を見せる。


「思わないな。ここに来る途中だっていろんな機械やらコンピュータはあった。俺はこれを見た時、研究所の総電源だと思ったよ。ユキが教えてくれるまでは」


「真音…………」


「もっと言ってやろうか?ガーネイアと会った時あっただろ?あの時、ガーネイアからメロウの事聞いて、顔色を変えてどっか行ったけど、どこに行ってたんだ?」


「……………………。」


口数が減って行く。


「それと、鈴木と戦った時も、『力を解放する』って言った。そんな事出来るなんて聞いてなかったし、そんな力があるならなんでもっと早く言わなかったんだ?多分あの時、あのままだったら俺は鈴木に殺されてた。お前は危険を感じて仕方なくその手段を選んだんだ。違うか?」


「……………………。」


何も言わず俯いた。責め立てるのはユキを信じたいから。

返答のないユキの態度が余計に苛立つ。ユキの両肩を掴み、


「答えろ!何を隠してるんだ!?ユキ!!」


力任せに揺らす。不安と疑心を振り払いたい………ただそれだけの為に。


「……………っさいなぁ」


「………ユキ?」


顔を覗き込もうとした時、腹部に何かがぶつかる。


「げ………ぉ……」


ユキの蹴りだった。後ろに派手に転げる。


「ゲホッ、ゲホッ………な、何すんだよ!」


「うるさいって言ってんの」


軽蔑するような目で見られている。


「ホント、バカよね」


「…………ど、どうしたんだ……?」


「どうもこうもないわよ。耳障りなのよ。女じゃあるまいし、少しは黙ってたら?」


同一人物かと疑うほどの豹変に戸惑いを隠せない。


「ユキ?」


「細かい事一々気にしてムカつくのよ」


暴言もいいくらいの暴言だ。真音は、予感が的中したとわかり愕然とした。


「心のどっかで否定はしてたけど…………やっぱりメビウスと繋がってるんだな」


それ以外に考えられる要素はない。


「その通り。彼女は僕と繋がってる」


後ろから声がして振り向くと、そこにいたのはメビウスだった。リオの髪を掴んで引きずって。


「あ……青薔薇……」


真音はメビウスよりリオに意識が行った。

最強だと疑わなかったガーディアン・ガールの痛々しい姿。二ノ宮の姿もない。

メビウスは、真音を無視してユキに話かける。


「長い任務、ご苦労だったね」


「博士!」


ユキは嬉しそうにメビウスに抱き着く。


「疲れたんだからぁ。それよりぃ…………真音あいつなんとかしてよぉ」


聞いた事もない甘い声色。子猫のような目つきでメビウスを見ている。


「どういう事だ………どういう事なんだ!ユキ!」


「うるさいっ!!気安く呼ぶなっ!」


「…………………な、なんで………そいつは敵だぞ?」


この不可解な現象は、真音を冷静にはさせてくれない。そう思ったメビウスは口を開く。


「可哀相だけど、こいつは僕の味方だ。まあ、積もる話もある」


アルミ製のプレートが付いたキャップ、フレームに薔薇の飾りがあるサングラスを取った。


「まずはおかえり………如月真音」










「行きます」


美紀はきっぱりと言った。


「美紀ちゃん、君が行っても悪いが戦力にはならないよ。ガーディアンの力を持っていても、これだけは別の話だ」


石田は、真音達に加勢に行くと言い出した美紀の説得に追われていた。


「わかっています。でも………何か嫌な予感がするんです。如月君達に何かあったのかも………」


あの写真を見てから感じる不安。磨りガラスの向こうにある真実が見え隠れする。

暴く事が出来るのは自分達ではない事は、石田達自身がよくわかっている。


「あそこに行くという事は、命を引き換える覚悟が必要よ?それでも行きたいの?」


冴子が美紀をじっと見つめて言った。それは美紀が頷くと承知の質問。石田にはその真意は理解出来なかった。


「指揮官!」


美紀は戦い慣れてない。行けば真音達より生還の確率は低い。言い換えれば、死んでもいいなら止めないと言っているのだ。

もちろん美紀もよくわかっている。


「行きます。死ぬのは正直怖いです。だからと言って……」


真音を想うあまりの決意。冴子は美紀の気持ちを優先させる事にした。


「わかったわ。好きにしなさい」


「あ、ありがとうございます!」


特に礼を言われる事ではない。

美紀は冴子と石田に深々と頭を下げて指令室の窓を開けた。


「必ず………みんなで生きて帰ります!」


そう言って飛んで行く。その姿は天使にしか見えなかった。


「なんで行かせたんです?」


石田は納得しきれずに冴子に聞いた。


「行かせたくなんてなかったわよ。でも、私も感じるの………とんでもなく大きな不安を。だから、賭けたの………小さな望みかもしれないけど」


「……………準備……しますよ」


冴子の了承を得ずに石田は指令室を出る。真音達を助けに行く準備をしに。

 冴子は責めた。都合のいい勝利を得たいが為の判断をした自分を。


「私って…………最低ね」


香織が持って来た百年前の写真。

その真ん中の博士と呼ばれた人物。それは真音だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ