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第百三章 GUARDIAN†GIRLS

「観念して悪巧みは諦める事です」


リオはメビウスを追い詰めて言った。


「悪巧みとは言い掛かりだよ。これは裁きだ。腐敗臭漂う人類へのね」


「腐敗臭漂うのはあなたでしょう………博士」


「…………気に入らない言い草だ。君がいなくなってから、ずっと考えてたよ………研究所ここを飛び出したわけを」


「嫌いだったんです。あなたが」


「そうだろうね。でも理由はそれじゃあない。君がいなくなる少し前に、君を連れて日本へ行った事があった。そんなに昔じゃない。確か5年くらい前だった。君はその時に偶然、二ノ宮を見た。そして一目惚れした。何十年も島から出た事のなかった君には衝撃にも似た感情だったんだろう。そう考えれば、二ノ宮を選定者に仕立てたのも説明がつく。一つの国から一人と決めていたのに、勝手に選定者を生み出してどうするのか、疑問には思っていたけど………二ノ宮に急接近するには格好の理由だったわけだ。女という生き物は理解し難い」


「ウフフ……博士のおっしゃる通りです。5年前、あの人を初めて見た時、胸が熱くなりました。この人なら私を救ってくれるかもしれない………そんな気持ちにさえなって。ですから、あなたを倒して私は自分の幸せを掴みます。悪夢のような過去から解放される為に」


「バカバカしい。人以上の力を持ちながら、尚も人としての……女としての幸せを求めるとは。どれだけ愚かか身をもって知るといい」


リオとは因縁が深い。メビウス自身も断ち切らねばならぬ根。

オリオンマンを殺し、二ノ宮も戦力外にした。恐れる者は己が造りしガーディアン・ガール。

相手にとって不足はない。

メビウスの全身からオーラのようなものが立ちのぼる。


「クオリティ高いガーディアン・ガールを殺してしまうのは心苦しいが、破壊無くして創造はない。障害は石ころ一つでも取り除く!」


サングラスの奥からでもはっきりわかる輝き。瞳の奥がヒヒイロノカネに変わる。


「なら私も教えてあげましょう。クズはどこまで行ってもクズだと」


もう昔には戻りたくない。言いなりになるだけの犬のようなあの頃。廃棄されまいと、幼心に必死に生きる術を模索していた。

思い出したくもないくらい惨めな過去は誰にもある。そこから目を背けたとしても、他人から責められる事はない。だがそこに甘えが生まれてしまう事もある。



生きる時。選ぶもの全部の責任は自分にしかない。










溶け込むような感覚で入り込んだジルの意識の中は濡れていた。


『ジル………』


覚悟。決意。どんな言葉も表現出来ない彼女の気持ちがある。


「あんたは余計な事考えなくていいから」


悟られた気持ちにエメラがつまずかないように気遣う。

人のガーディアンを借りて気遣わせたとあれば、トーマスに怒られかねない。


「さ、行くよ!」


ジルは弾切れのバズーカを捨てて丸腰で突っ込む。


「無駄」


ダージリンは念波でジルの動きを封じる。その波動はトーマスにも感じられた。

頭痛の一歩手前くらいの気分の悪さに似た不快感。


「ジル……エメラ……」


今すぐ横になりたいところだが、しっかりとジルとエメラを見届ける。傷ついた今の自分にはそれしかしてやれない。


「こんな………もの……!」


行く手を阻まれている目に見えないバリアのようなものを引き裂く。

美人が台なしになるくらい気張って『中』に転がり込む。


「無駄なのはあんたの方よ」


すかさず立ち上がってダージリンに掴みかかる。


「捕ま〜えた」


「くっ……離せ!」


「こうやってあんたの顔を近くで見る事に、こんなにも苦労するなんて考えた事もなかったわ」


間近で見るダージリン。漫才の基本もないようなボケを連発した口は、真っ黒なルージュが塗られている。


「あんたに黒のルージュは似合わない」


悲しいのはなぜだろう。ダージリンがダージリンじゃない気がする。顔の模様も気に入らない。愛らしいダージリンがどこにも見当たらない。こんなに近くに見てるのに。


「け、汚らわしい!呪われしアントワネットの血を………」


言い切る前にひっぱたかれて、勢いで倒れる。


「よくも…………!」


ダージリンはぶたれた頬を押さえて怨み全開の睨みを利かせる。


「痛かった?でもあんたに撃たれた時はもっと痛かったわ。ここが」


ジルは胸を示した。


「立ちなさい。喧嘩はまだ終わってないんだから」


カッとなったダージリンは、両手を突き出して念力でジルを吹き飛ばす。


「ケンカ?違う…………これは復讐」


「いったぁ………少しは手加減しなさいよ」


たかだか吹き飛ばされたとは言っても、ディボルトしてなければ骨が砕けてたかもしれない。


『ジル、あなたどうするつもりなの……?』


「どうする……って?」


『ダージリンに撃たれたって傷………塞がってないじゃない』


走る度、声を上げる度、ジルは痛みに耐えている。


「あ……当たり前じゃない。生きてるのが不思議なくらいなんだから………」


それでも苦痛より笑顔の比率の方が高い。ダージリンとの『喧嘩』。姉妹のいないジルには、夢にまで見た夢。姉妹喧嘩を派手にやりたいと………そう、これは姉妹喧嘩なのだ。


『ディボルトは選定者の………』


「わかってるって。でも………やるしかないのよ。だ〜いじょぶ、ちゃ〜んとトーマスのとこに帰してあげるし」


『ジル………バカよ、あなた』


「そうさせたのはあんた達なんだから、最後まで面倒見てよ」


ダージリンと目が合う。


「死ねっ!」


その瞬間、ジルに向かって真空波を放つ。

無数の風の刃がジルを傷つける。


「うっ……!」


白い肌に赤く線が入る。


『応戦して!』


ジルがその気にならなければエメラの意志だけでは戦えない。

脇腹をかすめる真空が、撃たれた傷口を広げてしまう。


「ジル!!」


見てられないと、飛び出そうとしたトーマスに、


「来ないで!」


ジルが制す。


「これは私とダージリンの喧嘩なんだから………」


襲い来る風の刃は、確実な命中率を有してない。かすめて行くばかりだ。


「狙いが定まらないのは心に葛藤があるからか………」


トーマスにもわかる。あれだけジルに懐いていたダージリンだ、怨む気持ちを思い出したとしても、直接ジルに何かされたわけではない。簡単には殺せないという事だ。

獲物に食らいつくように、ジルは今一度走る。


「なぜ………なぜ当たらない!?」


刃をかい潜るジルに恐れさえ感じ、ダージリンの狙いは乱れ、


「く、来るな…………来るなぁぁぁぁぁぁっ!!」


恐れが頂点に達して心まで乱す。


「もらったあっ!」


ジルは手刀をダージリンの首筋におもいきり叩きつけた。


「くはぁっ!!」


無表情でいられないくらいの一撃だった。

怯みきったダージリンだったが、代償はジルの方が大きい。


「ジ、ジル!」


背中の激痛に耐えて、トーマスはジルの元に走る。よろよろとしながらも。

エメラもディボルトを解いて介抱する。


「大丈夫?」


ダージリンに手刀を食らわす間際、最後の真空波がジルの傷口を完全に開いたのだ。


「だ………大丈夫……なわけないか…………あうっ!」


一気に目が霞む。


「こんな傷で来たのかよ………おとなしく寝てりゃいいものを……」


「フ………あ…あんたが私と同じ立場なら………同じ事………したんじゃない………?」


トーマスもきっと同じ事をした。真音も、二ノ宮も。ジルはトーマスの腕の中でそのまま意識を失う。

一方ダージリンは………


「うあああぁぁっ…………」


頭を押さえ苦しんでいる。


「…………………。」


エメラは立ち上がってダージリンのところへ行く。


「お、おい、エメラ?」


躊躇いもないエメラが、何を思っているかわからなかった。その行動を見るまで。


「ぅぁぁ…………ぁぁぁぁ………」


次第に声のトーンを落とすダージリンの胸倉を掴み、強制的に立たせる。


「何が苦しいのか教えてあげようか?」


声を低くして睨みつける。


「自分のしてる事が間違ってるってわかってるから苦しいのよ。ジルはアントワネット一族かもしれない。でもジル本人はあなたには何もしてないわ。何も知らなかったみたいだし。血の繋がりだけで復讐の対象にするのはお門違いなのよ!」


そう言って、ジルがしたようにダージリンの頬を張る。


「ぅぅぅ…………だ………黙れ………ジルは………汚らわしいアントワネットの血を引く者……………」


「血の繋がりがなんだって言うわけ?ジルはあなたを妹だと思ってた。あなただって、ジルを姉のように慕ってたじゃない」


「ジル……………」


「よく見なさい!身体を張ってあなたの目を覚まそうとしたのよ!死ぬ事を覚悟して!」


そして、気を失ったジルの脇に突き飛ばす。暴挙にも見えるエメラの行動に、トーマスは圧倒されて何も言えなかった。


「ああ………ジル…………」


苦しい葛藤は続く。だがそれは本当の気持ちを取り戻す為。


「復讐は確かに強い力を生むわ。でも、その力の源は心。人の良心を奪ってしまうのよ」


ダージリンが涙を流す。


「ジル…………私は………」


どうやら葛藤は収まったようだった。


「感謝しなさい、たった一人のお姉さんなんだから」


ジルに泣きすがるダージリン。きっと苦しむ事でしか自分を表現出来なかった。










マスターブレーン。真音の前にそれはあった。


「これが………マスターブレーン………」


太い円柱のコンピュータ。電柱ほどの太さの配線が、色とりどり張り巡らされている。


「そうよ。これが人工の神、マスターブレーン」


ユキはディボルトを解いて真音の前に立つ。


「ユキ……………」


「意外とシンプルでしょ?」


確かにイメージしたマスターブレーンは、もっとSFのクライマックスに登場するようなもの。大きさが無ければ拍子抜けもいいところ。だが、真音にはマスターブレーンを前にしても尚、気になる事があった。


「ユキ」


「ん?どうしたの?恐い顔して」


上機嫌だ。起伏の激しいユキの感情など手に取るようにわかる。マスターブレーンに辿り着けて嬉しいのだ。


「話があるんだ」


開けてはならないパンドラの箱。真音はその蓋を開けずにはいられなかった。


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